銀狼亭
俺は大通りを歩いていく。
夜の帳が下り、空が暗くなっているにもかかわらず、まだかなりの人数が大通りを歩いていた。
「意外と明るいんだな」
所々においてある外灯が大通りを明るく照らしている。
外灯の中は電球ではなく、浮遊する光球によって明かりを発していた。
俺は町を眺めながら歩いて行く。すると、看板に白色……いや、銀色の狼が描かれた建物を見つけた。
扉を押して中に入る。すると、そこには十代後半ほどの若い女性がいた。
「いらっしゃいませ、お泊まりでしょうか?」
「あぁ、一泊いくらだ?」
「一人部屋が一泊銀貨十五枚で、夕食付ですと銀貨二十枚になります」
それが高いのか安いのかよく分からないが、多分金貨でなら泊まることはできるだろう。たぶんだが。
「夕食付で、金貨一枚で何泊泊まれる?」
「金貨一枚ですと五泊お泊りになることができます」
ということは、銀貨百枚で金貨一枚になるということか。
俺は女性に金貨一枚を渡した。
「五泊夕食付で」
「かしこまりました。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「奏多だ」
「ソータ様ですね、かしこまりました」
あれか? 『そうた』と発音するのが難しいのか?
俺は特に難しいとは感じないが……。
「お湯とタオルは必要でしょうか?」
「いや、必要ない」
お湯とタオルは体を拭くために用意されているのだろう。だが、俺には《クリーン》があるので心配ない。
「かしこまりました。夕食はすぐにお食べになられますか?」
「あぁ、どこで食べることができる?」
「夕食はあちらにあります、食堂で食べることができます」
女性は食堂がある方向を、手先で示した。
「分かった、俺の部屋はどこになる?」
「十三号室になります。それと、こちらをお持ちください」
俺は十三と書かれた鍵と、お食事券と書かれたカードを五枚受け取った。
「そちらはお部屋の鍵とお食事券になります。お部屋は二階にあります。お食事券は夕食を食べる際に一枚お出しください」
「ありがとう、それじゃあ」
「ごゆっくり」
俺は鍵とカードをストレージに収納し、夕食を食べるために食堂に来た。
クレアが言っていた通り、ここは冒険者たちに人気のようだ。
剣や魔法の杖と思われるものを携えた男や女たちが夕食を食べており、中には杖を背負った小学生のような女の子もいた。
俺は適当な席に座ってメニューを取り、どんな料理があるか見てみた。
普通の料金の書かれた料理が載っているページから、お食事券使用者専用と書かれたページまである。
お食事券使用者専用のページを見ていく。そこには一品物ではなく、様々な定食が書かれていた。
俺は店員を呼び、お食事券を渡してシチュー定食を頼んだ。
しばらく待っていると、店員が大小様々な大きさの皿が乗ったトレーを持ってくる。
「お待たせしました、シチュー定食です」
「あぁ、ありがとう」
「お帰りの際は店員が回収しますので、トレーはそのままにしておいてください」
「わかった」
「それでは、ごゆっくり」
シチュー定食は、メインのシチューに黒いパンが二つ温野菜のサラダにコップに入ったに水がセットになっていた。
いろいろと考えられているらしく、全ての料理が満足できる美味しさだった。
ただ、パンに関しては硬すぎだ。シチューでふやかさないと食べることができなかったぞ。
しかし、パン以外は満足のいく出来で、量も丁度よかった。
全部食べ終えると頃には、お腹いっぱいになっていた。
俺は席を立ち食堂を出ると、階段を上がって二階に来た。
廊下を歩き、十三号室を探す。すると、廊下の一番奥に俺がとった部屋である、十三号室を見つけた。
ストレージから鍵を出して、扉を開ける。
すぐに見えたのは廊下で、中がそれなりに広いことがわかった。
中に入り扉の鍵を閉め、明かりをつけた。そして、すぐ横にあった扉を開けてみる。
「……トイレか」
よくわからない装置がついているが、それはどう見てもトイレだった。
試しに取手を下げてみると、なんと水が流れた。どうやら水洗式のようである。
妙に進んだ技術力に驚かせられながらもトイレの扉を閉めて、廊下の奥の扉を開く。
中は一人用の部屋と考えれば充分に広く、六畳ほどもあった。
ベッド・机と椅子・クローゼットなどが部屋の中に置いてあり、家具も充実しているようだった。
俺は椅子に座る。寝るのにはまだ早い時間なので、本を読んで時間をつぶすことにした。
ストレージから適当にまだ読んでない本を取り出し、読み始める。
「――なるほど、魔法陣の描かれた道具は『マジックアイテム』なのか。魔法陣の中心に手を置いて魔力を流すと効果がが発動すると」
俺は本を机の上に置き、ストレージから魔法陣の描かれたランタンを取り出した。
開けたりできなかったから、なにかおかしいと思ってたんだよな。
ランタンの上部に描かれている魔法陣に手を置いて魔力を流す。すると、町の中にあった外灯のように、中に浮遊する光球が出現した。
「燃料ではなく魔力で動くのか、便利だな」
ランタンを机の中心に置き、再び本を読み始める。
三十分ほどすると、ランタンの光が小さくなり、やがて消えた。
効果は最長で三十分か。長いと見るべきか短いと見るべきか、微妙な時間だな。
再度魔力を流してランタンを灯し、読書を再開する。
それからしばらくし、眠気を感じてきたので懐中時計を見る。針は十時半を示していた。
「……そろそろ寝るか」
俺は本とランタンをストレージに収納すると、ガントレットと外套を外してベッドへ横になった。
そして、俺は深い眠りへと落ちていく――。




