~十月五日~ 3
二人はその場に並んでそっと息を潜ませる。
「警備が厳しいようですね」
「どうすんの?」
「そうですね、一先ず庭に侵入します」
「殺すのか?」
「いえ、これで」
香丸はそういうとライフルを取り出した。サイレンサーを取り付けて、ガードマンの一人に向ける。セットするのは特殊な麻酔弾。打ち込まれれば十二時は目覚めないプロローグの特別性だ。照準を合わせて、引き金を引く。寸分たがわず裏口に立っていたガードマンに打ち込んで眠らせた。異変を感じたもう一人にも同じように眠ってもらう。意識がないことを確認して庭に侵入する。念のためトランシーバーの電源は切っておいた。
ここで騒がれても困るため眠らせるという判断をしたのだが、少年はどこか不満そうだ。ナイフをいじりながらちらちらと香丸を見ている。今にも斬りかかって来そうな殺気を振りまきながら、ナイフでジャグリングし始めた。はあっとため息を吐くと香丸は言った。
「次は殺してもいいですよ」
「やった!」
「ただし、静かにお願いします」
「わかってるって」
小さくガッツポーズして少年は獲物を探し始める。その様子に苦笑して、香丸はこの先のことを考え始めた。男たちを眠らせて庭に潜入できたのはいいけれど、ターゲットがこの屋敷のどこにいるのか特定できていない。明かりが点いている部屋はいくつか存在する。そのどこかにはいるのだろうけれど、人影だけでは確認できないので、下手に庭から狙うことは難しそうだ。
何をしても起きないのが面白いのか、少年は足元に転がるガードマンを蹴って遊んでいる。時折漏れるうめき声が大きくならないかが心配だった。香丸はごほんと咳払いして少年の意識をこちらに向ける。少年は蹴るのを止めて素直に振り返った。
「やはり、屋敷に入るしかありませんね」
「そうだな」
少年も同じ意見だったようで首を縦に振る。ちらりと屋敷に目を向ければ、多数の人影が確認できて、屋敷の警備が強固なのが見て取れた。庭には見当たらないが、屋敷の中には監視カメラもついているかもしれない。
(見取り図がないのは本当に不便ですね。警備の数も把握できていないですし……)
香丸はため息を吐いた。相手の位置が分からないのは本当に不便で、扉を開けてガードマンとご対面だなんて洒落にならない。普通の金持ちよりもセキュリティがしっかりとしているようだから、屋敷の中を駆け抜けるのも難しいだろう。
「本当に厄介ですね。何とか中に潜り込めればいいのですが……」
「じゃ、変装でもしてみる?」
少年が指差したのは先ほどのガードマン二人。その案はとてもいいものに思えたので、試しに男たちのジャケットを脱がせ羽織ってみる。けれどどちらの男も非常に体格が良かったせいで、二人にはぶかぶかだった。少年よりは身長のある香丸だが、小さいほうを羽織ってみても結果は変わらなかった。ガードマンに変装するのは難しそうだ。
「くっそー。良い方法だと思ったのに」
「二人とも成長期ですから」
「お前でも駄目だったもんな」
少年は恨みがましい顔つきで裸にされたガードマン二人を見た。今にも切り刻みそうな少年を宥めて次の方法を二人で考える。
「走り抜けるのは?」
「見取り図と警備の情報があれば何とかなるでしょうが、この状況では得策でないですね」
少年はイライラと地面を抉った。香丸の言い方が気に入らなかったのかもしれない。今度はきっと睨み上げて言う。
「じゃあ外から狙えよ」
「無理ですよ。どこのカーテンもしまっていてターゲットの特定が出来ない」
「ブレイカーを落とす」
「騒ぎになりますよ?」
「電話をかけてカーテンを開けさせる」
「番号を知っているんですか?」
「しらねーけど……」
少年は黙り込んでしまった。出した意見がことごとく却下されていくのだから仕方がないかもしれない。いつの間に出したのか手の中のナイフで遊んでいる。
「……全滅させるか」
「依頼を思い出してください」
本気ではなかったのだろう。少年は降参とばかりに両手を上げた。
「方法ねーじゃん」
確かにどう考えても見つからないように潜入するのは不可能に近い。時間があればどうにでもなるが、今晩中に方をつけるのも依頼内容の一つ。
「仕方ないですね。あの監視カメラ、狙えますか?」
本当は少しの騒ぎも起こしたくなかったので避けていたが、こうなっては直接アプローチするしかなかった。香丸は裏口近くに設置されている監視カメラを指差す。少年は頷いてナイフを投げた。ナイフはカメラのコードを切って動きを停止させる。




