表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

~十月六日~ 4

 少年は手に持っていた両方を遊織に手渡し、来た道を戻ると遊織のトラップに多少手を加えて、殺傷能力を高めた。二、三人なら軽く始末できそうだ。踏むとナイフが飛んでくる仕掛けなのだが、確実に相手の眉間、喉、急所を狙っている。少年は自分の張ったトラップを見て、満足そうに頷くと遊織の隣に座った。その手にココアを返してやる。やはり少年も寒かったのかココアはホットだった。少年は手の中でころころとココアの缶を転がしながら画面を覗き込んできた。

「首尾は?」

「程々ってとこかな。ただパスワードがなあ」

 ちらりとパソコンを見れば、いつの間にかパスワードはふたつに搾られている。ひとつは女の名前と何らかの数字。もうひとつはランダムなアルファベットと数字だった。後者にも何か意味を見出せそうだからどちらも怪しく見える。この屋敷の主人を遊織はまだ知らないから、無理のないことかもしれない。

「主人の性格は?」

「女好き」

「警戒心は?」

「そんなになかったかな」

 それを聞いて遊織は頷くと、迷わず前者を入力した。ランプが緑色に点滅して、ロックの解除を告げる。隣に座る少年の驚いた顔がなんだか笑えた。目をきらきらさせながら遊織を見上げてくる。少年にはどちらか分からなかったようだ。

「なんでわかったんだ?」

「女好きなんだろ?」

「おう。身をもって感じたからな」

「だからだよ」

 少年の口ぶりからすれば、おそらく主人の命はもう無いのだろう。身をもって感じたということは接触したということ。少年は仕事以外で好んでこんな場所に来たがらないはずだ。しかし、だからこそこちらの仕事はものすごく楽なものになる。管理人のいないコンピュータほど脆く盗みやすい情報源はないのだから。

 画面が何度かちかちかと瞬き、表示されたのはメインコンピューターのデータバンク。先ほどのメモを思い出し、必要な情報をいくつかピックアップしていく。屋敷の構造を表記した設計図や家族構成、主人のプロフィールや目ぼしい写真。一番重要であろう箱の在処はわかったが、肝心の金庫の鍵の番号はわからなかった。サブメインのデータバンクももう一度あさってみるが、それらしい情報は見当たらない。ちらりと見たプロフィールによれば結構な年配であるらしいので、もしかしたら紙にメモを取るタイプなのかもしれない。

 とりあえず全てコピーしようと鞄から特殊な形のUSBメモリを取り出す。少年は不思議そうにそれを見た。どう見ても家の鍵に見えるから仕方ない。すこしいじって形を変えると、ノートパソコンの横に差し込む。ウイルスが入っていないかのチェックをして、ついでにロックをかけておく。

「それ、新しいやつだよな。データ貰ったら返した方がいい?」

「や、南音さんに渡しといて。どうせ家にまだ何個かあるし」

 少年が頷いたのを確認すると、再び画面に視線を向ける。コピーを開始すれば、今度は残り時間十一分を告げてきた。予想していたよりも量が多く少しだけ驚く。画像データの圧縮も同時に行なっているから、余計時間がかかるのかもしれない。ぐっと身体を伸ばしてコーヒーのタブに手を掛ける。程よく冷めた液体が喉を潤した。少年も遊織に習ってココアを口に含む。冷めてしまっていたのか、すこし渋い顔をした。

「二台も使ってるのに時間かかるな」

「ま、しょうがないさ」

 今日はそこまで危険なことはないだろうと高をくくって、楽観的に返す。流れる数字を目で追って、有線で侵入したパソコンに手を伸ばした。処理能力が落ちるかもしれないけれど、ついでにと足跡を消していく。それから他に役に立ちそうな情報はないかと目を光らせる。

「退屈だな」

「そうか?」

「だってすることないし」

 確かに少年はこのままだと今日の仕事はないに近い。護衛なんてものは仕事しないくらいの方がいいと遊織は思うのだけれど、少年は違うらしい。彼の学校の成績から言えば頭は悪くないはずなのだけれど、少年は考えるよりも身体を動かす方が性に合っているようだ。苦笑して頭を撫でてやれば満更でもないように見える。けれど照れを隠すようにさらにむくれた。

 それから五分ほど経ったころ、遊織の仕掛けたワイヤーが異変を告げる。ちりんとかすかな音を立てて鈴が鳴いた。続いて男の悲鳴。どうやら少年の仕掛けにもまんまと嵌ったらしい。せっかく今日はこのまま終われそうだったのにと、遊織はため息吐いた。けれど少年はココアを飲み干して缶を置き嬉しげに立ち上がる。

「んじゃ、ちょっと行ってくんな」

 いつの間にか手の中に取り出したナイフで遊びながら、少年は悲鳴の方へ向かって行った。遊織はそっと男たちに手を合わせて再び画面に向き直った。残り時間は四分。いじっていたパソコンの作業を中断してみても、速度はあまり変わらない。仕方がないと忌々しげに舌打ちして、速度を上げるためにWi-Fiを切断し、パソコンを並列で繋ぎ演算させる。なんとか半分の時間で作業は終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ