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~十月八日~ 5

 ダイヤルの変わりに金属で出来た棒を突き刺して右に、左に、右に回す。今度はリアルな金属の回る音を聞きながら、全身でわずかな違和感を探す。鍵を開ける作業はあまり好きではない。それもどんどんと面倒になってきて、もう一度吹き飛ばそうかと思ったが、聞こえてくる足音にその案は却下される。まだ見つかっていないようだけれど、万が一にでも男たちが気づいてこちらに来てしまっては落ち着いて仕事が出来ない。依頼品を奪われるような真似はしないけれど、それでも出来る限りリスクは減らしたかった。

(ま、あいつがいる限りここまで辿り着くことはないだろうけど)

 がちゃり、と音が鳴ってダイヤルのロックは解除された。金庫のドアが開いて、中身が顕になる。けれどそこにあったのは一回り小さな金庫。それに見合った小さな鍵穴が酷く憎らしい。予想できないことではなかったけれど、がっくりと肩を落とした。ぱん、と気合を入れるために自分の両頬を叩いて再び開錠器具を握った。

 聴診器を当てて、かちりかちりと一つ目の溝を探す。テンプルキータイプではなかったので、アナログではあるが開錠用の工具を使って地道に開けるしかなかった。時間が過ぎていくたびに、ほんの少しずつ焦りが生まれる。この仕事はスピードが命。見つかってしまえば口止めしなければならないのが常だ。小さな死神のせいで今回は口止め云々よりも全滅必死だろうが。

 数分後、ガチャリと音を立てて金庫が開く。指定どおりの黒い小さな箱がそこにはあった。罠が仕掛けられていることも考えられるので、鉤爪で傷つけないように上手く引っ掛ける。六年も同じ武器を使っていれば慣れたものだ。幸い何の罠も作動しなかったので、ほっと息をついてその箱を左手に持つ。手にしたそれはひんやりと冷たくて、そして何故か軽い。振ってみても何の音もしなくて、少しつまらなく思った。これだけの計画だったのだから、もっと何かすごいものだと期待していた面もある。今実際に手の中にあるのはただの黒い箱。これが何なのか輝火には分からなかった。他になにかないかと金庫の中を覗いてみるが、やはり何もない。指定されたもの意外で、金になりそうなものが入ってないのはとても残念だった。はあっとため息を吐いて、少年に合流しようと書斎の扉から出た。

 廊下を進んでいけば先ほどまでは無かったたくさんの死体と血痕。「ご愁傷様」なんて心にも無いことを呟いて歩いていく。銃の発砲音と男たちの断末魔の声。それに少年の笑い声が聞こえて、リビングの扉から中を覗いた。

 右に、左に、揺れる赤い髪。ひとつ、ふたつと消えていく命。相変わらず、彼の仕事は綺麗だと思う。赤が赫によって映えるなんて、昔は知らなかった。どうしようもなく綺麗に見えて、どうしようもなく悲しい色だった。彼が何故アカを好むのかは知らないけれど、何故か輝火は悲しくなった。気づけばふらりとリビングに足を踏み入れていた。誰も輝火には気付いていない。唐突に、輝火は、自分と少年が、似ていることに気づいた。

 不意に少年と視線が絡む。蒼い瞳が反射できらりと光って、どうしようもなく赤く見えた。輝火がにへっと笑ってみせれば、少年もふにゃっと笑って口を開く。

「終わったのか?」

「うん。ほら、これ」

 余裕そうに尋ねてくる少年に頷いて箱を見せれば、残っていた男たちの半分がこちらを見た。そして手にしている箱を認識した瞬間に踊りかかってきた。女だと油断して殴りかかって来た最初の男を左に避け、鉤爪で胸を貫く。引き抜いて、振り返りざま、後ろの男の目玉を抉る。引き抜いて蹴り倒す。その反動で隣にいた男の頚動脈を切り裂く。赫が噴き出した。

(片手が使えないって不便だよな。やっぱポーチに入れればよかった)

 輝火は箱を手に持っているのが面倒になって、少年にそれを放り投げた。難なく箱を受け止めて、少年は手にしたナイフを、箱を狙って向かってきた男の顔面に投げる。次いで隣に立つ男に足払いをかけ、一瞬で次のナイフを取り出して突き刺す。少年はなんの予備動作もなくそれをこなしてしまった。部屋にいるのはあと四人。再び箱が輝火に放り投げられる。

 天井付近まで投げられたそれをジャンプして空中で受け止め倒れている男の上に着地した。足場は最悪で、バランスが大きく崩れる。倒れそうになったところへ、男たちが一斉に襲い掛かってきた。箱を空中へ投げて、手を突き一回転する。ついでに傍にいた男の顔を蹴り上げて、再び箱を受け止めた。今度はちゃんと床の上である。

 ちらりと少年を見た瞬間に、何がしたいのか分かって輝火は咄嗟に腕の前でクロスを作る。腕は鉤爪についた手甲の部分が守ってくれるはずだ。足は狙わないことを願おう。輝火が考えた瞬間に無数の刃が飛んでくる。残っていた男たちの首にナイフが突き刺さり、輝火を取り囲んでいた男たちは地に伏した。

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