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砂糖の弾丸を詰め込んで、動く全長3メートルはあるだろう人型のクッキーに向かって撃ち込む。

かん、と硬質な音が響き弾が跳ね返されたのを見て小さく笑う。

全部、酷く現実味のない光景だ。

甘い香りがして吐き気がしそう。

口元を覆うようにして巻いている布を更に上に引き上げ鼻も覆う。

でなきゃ、頭がおかしくなる。

時間差で当たった部分のクッキーが欠片だがぼろりと崩れて地面に落ちる。


「ヴィーツ!」

「はいよっと」


名を叫ぶと今か今かと待ち構えていたらしい相棒嬉々とした声を上げ、人を超えた跳躍力で軽々と僕の頭上を飛び越えて行く。

ぶんっとクッキーがその大きさからは想像できない速さで腕を振るが、ヴィーツの方が幾分か早い。

手に持っていた細身の剣を弾丸のせいでヒビが入った隙間に跳んだ勢いのまま突き刺す。

クッキーがその丸く作られた手でヴィーツを払い落とそうともがくが、させるか。

狙いなんてほとんど定める必要はない。

あんな大きい的には。

たん、と小気味良い音がして発射された砂糖はクッキーの手を鈍く撃つ。


「みぃつけた」


ヴィーツが根元まで埋め込んだ剣を横に捻る。

クッキーの動きが遅くなり、その部分を中心にひび割れが次第に大きくなって行くのを見てミッションクリアか、と息を吐く。

ぼろぼろと砂上になってクッキーが崩れ落ちて行く。

この瞬間が、僕は一番嫌いだ。

香りがキツくなって、がんがんと頭が痛くなる。

顔をしかめ、薄く空気に溶けて行くのをただじっと耐えて待つ。

色が抜け落ちていき、透明な色になったのを確認してから僕は耳につけている端末から調理班を呼び出す。

彼らが来たことを見届ければ、あとは僕たちは用無しだ。

クッキーを殺した報酬はあとで取りに行けばいい。

ヒビの隙間から赤い色が見える。

クッキーの胸元あたりの場所にある赤い石、それを壊せばこの化け物を殺すことができる。

人の、心臓と同じ部分にあるそれは趣味が悪いことにハートの形をしていて、壊せる者は限られている。

ーーその一人がヴィーツ。

僕の相棒。

普段は飄々としているところが目につくが、やる時はやるそれなりに頼れる人物だ。

ただ、よく問題ごとも拾ってくるが。

例えば。

今のような。


「お疲れ様」


チョコレート色の髪の毛に飛び散ったクッキーの欠片を鬱陶しそうに払いながら戻ってきたヴィーツに声を掛ける。


「おー。

頑張った相棒に労いのキスでもしてよ」


僕の顔を見た途端、薄く笑って冗談を言いだすヴィーツを無視し、ヴィーツの片腕で俵担ぎをされている少女に視線をやる。

砂糖を溶いて薄く伸ばしたような銀色の艶々とした髪の毛をしたまだ幼い少女だ。


「ヴィーツ、その子は?」

「無視かよ。

あー、なんか出てきたから拾ってきた」

「・・・・・・出てきた?」


まさか、クッキーの中から?

生きているのか?とヴィーツに降ろさせ確認するが、ただ意識を失っているだけの様だった。

日に当たったこともなさそうな透明な肌と、幼いながら整った容姿。

身につけている服すらも白。


「クッキーって人、喰べてたかな」

「怖いこというなよ・・・・・・。

あいつらは食事をしないだろ。

つか、まず口が開くところを見たことねぇし」


何を動力源に生きているのかも謎。

繁殖形態も喋れるのかすら謎。

突然現れてただ人を殺すクッキーそっくりの意味の分からない化け物。

わかっているのは一つだけ。

奴らは特別な砂糖で作ったものでだけ殺せるということ。


「どうするよ、この子」

「ここに放置して行くわけにもいかないしね・・・・・・。

しょうがない、連れて帰ろう」


よろしく、とヴィーツの肩を叩くと、また俵担ぎをしようとしたので止める。

女の子にそれはないだろう。

はいはい、と面倒そうに返事をしたヴィーツが少女を下ろすために背をかがめる。

そして。


「っ、ヴィーツ・・・・・・・!」


顔を上げ、軽く僕の口に自分の唇を押し付けた。

咄嗟に突き飛ばしそうになるが少女をまだ腕に抱えたままだ。

やり場を失った手が宙を彷徨う。


「俺自身へのご褒美」


赤い目を細め、笑うヴィーツを睨みつけるが、それが彼なりの僕への気遣いなのだろうなとも思う。

僕がその行為を好いていないことを理解しているからこそ、まるで自分のためだけにしているかのようにする。

頭の痛みが薄れていることは事実で。

それはヴィーツが僕にキスをしたからだ。

この方法が一番楽で有効、と言った奴は一体誰だ、と言いたくなる。

顔を抑え、熱の上がりそうになる頰を隠す。

慣れない自分自身が嫌になる。

ヴィーツがそれをするのはそれが僕との契約だからだ。

死なれたら困るからただ義務でしているだけ。

なのにそれをいちいち気にして。


「・・・・・・最悪」


自分に向かって低く呟いた言葉に、ヴィーツが困った様に小さく笑ったのを僕が気付くことはなかった。

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