第四〇六話:竜と竜を合わせたら
「巨人にだまされたとき――」
ミュート達箒組に搬送されながら、救出された統合鉄血学園生徒会書記、ベ・スターは弱々しい声で続けた。
しかし、その瞳には強い意志がある。
それは生徒会役員の役割を全うしようとする、強い責任感からくるものであろうか。
「多分、麒竜がまもってくれたんです。だから、あたしは完全に意識を失わず、おぼろげですけど内外で起こったことを、感じとることができました……」
すでに生徒会長のア・シモフにより応急処置が施されており、現在は俺がゆっくりと魔力を供給しているところである。
それでも、体調は万全とはいえない。むしろ意識を保っていることが驚異的である。
現に、そばに寄り添っているア・シモフがなにかに耐えるように、奥歯を噛みしめていた。
「巨人はいま、麒竜のもつ魔力のほとんどを吸収しました。その時気づいたんです」
炎熱巨人による魔力の吸収は、麒竜を通してベ・スター書記にも及んでいる。
命に別状はなかったが、本来であれば安静にした方がいい消耗具合であった。
だが――。
「おなじこと、できるんじゃないかって気づいたんです。麒竜には有り余る魔力をただ放出するだけじゃなくて、それを注ぎ込めるちからがあるんじゃないかって」
それが、逆に巨人と麒竜の特性に気づくきっかけになったのだから、俺達にとっても巨人にとっても皮肉なものであった。
「いま、巨人を押さえ込んでいるのは、同じ四大竜の餮竜ですよね?」
「ああ……そうだ」
「なら、その餮竜に麒竜の魔力を注ぎ込めば、巨人に対抗できるし、場合によっては倒せると思うんです」
「だが、魔力源がない。それはどうする?」
「いやだなぁ、そこにあるじゃないですか」
俺をみつめて、ベ・スター書記はいいきった。
「古の魔王は、生徒会選挙や指名で選ばれたわけではなくて、その無尽蔵の魔力量で自然とあたしたちの頂点に立つ――物語では、そうでした。そしてあたしの目の前にいるのは、その物語の時代から来た、伝説の魔王……そうですよね?」
「ああ、そうだ」
「なら、あたしの麒竜にありったけの魔力を注いでください。大丈夫、ちょっとやそっとじゃ、麒竜はやられません!」
……ふ。
ふはは。
ふははは。
ふはははは!
よもや、よもや一万年経って魔王としての特性である無尽蔵の魔力が頼られるとは!
「どうでしょうか……?」
もちろん、返答は決まっている。
「いいだろう」
「ありがとう、ございます!」
『マリウス、聞こえる?』
そこで輸送部隊の先陣を切っているミュートから、連絡が入る。
『まもなく餮竜の背中、箒着陸用の区画に降りるわ。その後はどうすればいい?』
「ヒナゲシに繋いでくれ」
いまさらな話だが、ミズミカドの旗艦である巨大戦列艦と、餮竜が合体していることには驚いた(この状態を、水帝餮竜と呼ぶらしい)。
どうも、この状態でないとお互いがお互いを上手く制御できないようである。
たしかに艦隊を理緒にまかせるにしても、旗艦と餮竜を同時に動かすにはお互い巨大過ぎるため、この方が合理的であるのは確かだった。
『わかったわ。――ヒナゲシ、聞こえる?』
『はい、聞こえますわ!』
余裕のない口調で、ヒナゲシが応答した。
おそらく電熱巨人を押さえ込むのに精一杯なのだろう。
『こちらはいま、どうにか組み付いたものの――圧されております! 圧されておりますわ! このままだと近いうちに突破されてしまいますわ!』
「聞こえるかヒナゲシ、いまから餮竜に麒竜の魔力を注ぎ込んで、その出力を上げる。どこかそれに適した場所はないか?」
俺の予想通りなら。
麒竜に魔力を注ぎ込める能力があるのなら、餮竜には巨人と同じようにその魔力を受け取る能力が備わっているはずである。
そしてこの巨体なら、どこかにそれ専用の機能をもった箇所があってもおかしくない。
『そ、それでしたら……餮竜の背中の中央部分、わたくしがおります艦橋の後ろ……いまは直立しておりますから、下ですわね! そこにございます!』
「わかった。ミュート、そこまで俺達を直送できるか?」
『普通の艦なら難しいけど、この大きさなら――いけるわ。しっかりつかまっていなさい!』
いままで平穏だった箒による揺れが激しくなった。
ミュートの指揮で麒竜と俺達を運ぶ箒部隊が、巨艦の内部に入ったからだ。
『到着! ゆっくりおろすわよ!』
やがて振動がおさまる。
どうやら縦横が逆転した状態であっても上手く着陸できたらしい。
「これは……」
みたところ、巨大な背びれであった。
それが底の方から伸びている。
おそらくは餮竜のものなのだろう。
興味深いのは、轟竜の背びれのように鋭くも薄くもないことである。
そしてその中央部分が空洞になっていた。
まるで、麒竜をそこに収めることができるかのように。
今俺達は、ちょうどその区画内に着陸していた。
「ベ・スター書記」
「はい。なんでしょう」
「これから俺が直接麒竜に魔力を注ぎ込む。経路を開けてくれるか?」
「すこしまってください」
アリスとクリスに支えられ、ベ・スター書記が身を起こす。
そして輸送部隊によって梱包が解かれ、いまは伏せた犬のような姿勢で横たわる麒竜にそっと触れる。
「あたしの手を握ってください。伝説の魔王、マリウス卿」
「ああ」
伸ばされた手を、しっかりと握る。
「ちょ、ちょっとまちんさい書記。マリウス卿の魔力がはんぱないのはワシにもわかる。そしてそれを受け取れる麒竜のでかい魔力炉の存在もワシは知っている。でも、その間を
書記が経由するのは危険じゃないかい?」
ア・シモフ生徒会長の言いたいことはわかる。
雷が木に落ちたとき、爆発するのは木の中にある水分が一瞬にして蒸発するからだ。
似たようなことが、書記にも起こらないのかを気にしているのだろう。
「あたしは物語の魔王を信じます。副生徒会長のハインさんはそんなファンタジーもちこむなってよく怒るんですけど、夢に見た物語の魔王さんがやれるというんです。だから、
大丈夫ですよ」
「……マリウス卿?」
心配そうに、ア・シモフが俺を見上げる。
「大丈夫だ。一度低出力で魔力を通した後は、別の経路を作ってそこから大出力の魔力を通すようにする」
つまり、一度竜公主であるベ・スターの許可を得た後なら、直接魔力を供給できるということだ。
「そうか……なら、頼む」
「ああ、行くぞ」
「はい!」
声に覇気を取り戻した書記の手をしっかりと握りなおし、俺は魔力を麒竜に接続した。
――ああ。これは……。
まちがいない。麒竜は巨大な主機である。
魔力炉だけではない。それを稼働させて、巨大な出力を送り出す、巨大ななにかの心臓。
以前麒竜の直列六連魔力炉を解析の魔法でみたときに感じていた俺の予感は、核心へと変わった。
「目覚めろ、麒竜!」
ベ・スターを介して認証は取れた。
麒竜への魔力経路が構築され、俺はそこにありったけの魔力を注ぎ込む。
これにより直列六連魔力炉は全力全開となり――。
麒竜が、目を見開いた。
それと同時に――。
「な、なんじゃこれ!?」
「あたしもはじめてみます!」
麒竜の体毛から、漏れ出た魔力が金色の粉となって、あたりに漂いはじめたのである。
あとはこの出力を……餮竜に、流し込む!
「陛下と手を繋ぐなど! なんと羨ましい!」
「アリスちゃんとかクリスちゃんとか、結構繋いでない?」
「そこはそれ! これはこれ! でございますぞー!」
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