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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第六章:伝説巨竜と灼熱の巨人

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第三九五話:踊る迷宮(物理)


「さて、こっから入っていくわけじゃが――」


 電熱巨人ギデオンの首の後ろは、意外にも砲火にさらされていなかった。

 てっきりハエを払いのける馬の尻尾のように、何かしらの迎撃装置が襲ってくるのものと思っていたのだが、今のところその気配はない。

 ただし、アイアンワークス生徒会長ア・シモフ曰く、取り付かれた時の対応として体表の温度を著しく上げることが可能――電熱巨人の名は伊達では無いらしい――なので、急いで内部に入る必要があった。

 そのア・シモフといえば。


「随分と……重武装だな」

「いんや、これくらいは当然じゃろて」


 厚手のコートに関節のみを効果的に覆う防具、そして大ぶりの兜と、いままで比較的軽装を好むものを多くみてきたせいか、その格好にはどこか懐かしさすら憶える俺である。


「つか、突入するってのにみんな軽装なのなんなん……?」

「返す言葉もない……」


 俺はいつもの軍服でミズミカド生徒会長理桜理緒は会長専用の礼服に似た制服、ミュートは空気抵抗の少なそうな薄手のツナギ姿、そしてアリスとクリスはアラーキィ部長からもらった特殊戦闘服である。

 見た目以上に高性能らしいが、身体の線がでていてどうにも俺の情緒に悪かった。


「それよりも、鍵はいるのか?」

「あたぼうよ! ほれ、みよやこのバールのようなもの(マスターキー)!」


 どうみても、盗賊の仕事道具だった。

 しかも先端部分は何度も使ったかのように酸化皮膜が剥がれて金属の光沢がでていているし、柄の部分に至っては指の跡が付くくらい使い込まれている。

 一体普段、どのような運用をしているのだろうか。


「こいつをこの隠し扉の端にひっかけて――くっ!バールのようなもの(マスターキー)でも思った以上に重いんじゃが……!?」


 取っ手のない扉をこじ開けようとするア・シモフ。

 しかし扉が固いのか、それとも彼女の膂力が足りないのか、びくともしない。


「ちょっと貸してもらえますか」


 そこで前に出たのが、理緒だった。


「これを引っかけて、思い切り引けばいいんですね?」

「うむ、その通りじゃて。でもワシが強化魔法込みで全力をかけても――」

「せいっ!」


 鈍い音を立てて、隠し扉は開いた。


「えっ」

「急いで入らないと、さすがに私達の装備では高温には耐えられないのでは?」

「お、おう!」

「マリウス、アタシは?」


 ひとり扉をくぐらずに、ミュートが訊く。


「ア・シモフの箒を回収して雷光号に戻ってくれ。臨時で指揮を執っているユーリエの補佐を頼む」

「わかったわ」

「砲火、避けられそうか?」

「誰に言ってんのよ。そっちこそ、無事に帰ってきなさいよ?」

「ああ」


 拳をぶつけあってから、俺は扉から巨人の中に、ミュートは箒にまたがり急降下した。

 かくして電熱巨人の内部に入ったわけだが……。


「……あれ?」


 いきない不穏な声を上げるア・シモフだった。


「どうした。よもや行き先がわからんとは言わせんぞ」

「いや、これ……内部構造が変わっておる……」

「なに?」


 ア・シモフから巨人の地図をみせてもらい、現在位置の様相と比較する。

 加えて探査の魔法をかけたいところだが、モーリーがなにを仕込んでいるのかわからないため――例えば、魔法を検知した途端その場所を超高温にするくらいはやりかねない――それは自重する。

 なので、いまは断片的ではあるが――。


「たしかに、内部構造が変わっているな……」

「じゃろ!?」


 いきなり、事態はややこしくなった。

 おそらく電熱巨人は暴走開始と同時に、自分の身体の構造を変えはじめたのだろう。


「アリス、ユーリエに連絡。電熱巨人の内部構造が変化している。目的地までの攻略次艦に時間がかかるのでそれまで足止めを――アリス?」

「……マリウスさん。外部と通信がとれません」


 携帯式の通信機を操作していたアリスが、めずらしく焦った様子でそう報告する。


「通信妨害の魔法か」


 原理は簡単だ。

 電熱巨人そのものを魔力で覆えばいい。

 これは同時に、内部解析の魔法を無効化するという意味も持つ。

 やはり、モーリーは対策を施してきたのだ。


「しかたない。一度隠し扉を開けて――」

「それを試しましたが、開きません」


 バールのようなもの(マスターキー)片手に困った様子で、理緒。


「さきほどと違って、全力をかけたのですが……これ以上やるとバールのようなもの(マスターキー)が折れそうです」

「まぁ、引き返すのを妨害するくらいは、したいだろうな」


 迷宮で詰まったら引き返すのが基本である。

 だから迷宮制作者は、引き返せないように様々な策を講じる。

 タリオンもそうだったが、モーリーもそうであるらしかった。


「大出力の通信で妨害を突き破るのはどうじゃろ。書記がお前さんを古の魔王だと推測しておったが、それがもし本当ならできるじゃろて?」

「俺がモーリーなら、それをした途端魔力炉を自爆させてその書記もろとも俺達を爆殺しようとするくらい、間違いなくやるが?」

「……やめとくか」

「その方がいいだろう」


 つまり、俺達はなるべく急ぎながらも未踏の迷宮を踏破せよと言われているに等しかった。


「ここが首筋だとしたら、胴体内部にある麒竜(きりゅう)まで、下を目指せばいいわけだが」

「垂直シャフトへの道がなくなっておる。そして延びておるのは、左右の肩への道と。どちらに行くべきじゃろか」

「風上の右側だろうな」

「そのこころは?」

「風が吹いてくるということは、そちらが機関に近いということだ。機関からの出力が風になっている可能性が高い」


 もちろんモーリーが偽装している可能性が高いが、そこまで疑っているとキリがない。


「別行動はどうでしょうか?」

「いえ、それはやめておいたほうがいいでしょう。内部構造がわからないものを探査する以上、合流できる可能性は低いので」


 理緒の提案に、クリスが反対した。

 俺としてもこの通路の二択は俺達を分離させようという意図を感じるので、それで正しいと思う。


「そんじゃま、さっさと攻略しちまおうかの。いざ前進――!?」


 ア・シモフがそういって進もうとした矢先、通路が揺れた。

 ただの上下の振動だけではない。大きく旋回しようとしている。


「全員、なにかにつかまれ!」


 これは重力制御ではない。

 本当に上下左右に揺れている。

 つまり――。


「巨人が踊っているんかい!」

「モーリー・メメントめ……!」


 お互いに耐振動の姿勢を取りながら、ア・シモフと俺。

 隣では、理緒がバールのようなもの(マスターキー)を杖のように両手で突いて耐えている。

 そしてアリスとクリスは――。


「なぜ俺に抱きついている?」

「すみません、掴まるものがなかったので……」

「アリスさんと同じく、です……」


 少し恥ずかしそうな、ふたりだった。


「動く迷宮ですか。臣もそこまではやりませなんだが……陛下を巻き込んでいる時点で0点ですな」

「マリウスくん巻き込んでなかったら?」

「85点でございます」

「極端!」


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