第二九九話:しおれた生徒会長の戻し方
「そ、その……そろそろ、轟竜をしまってもよろしいでしょうか。消費が激しいも……の……で……」
「ああ、構わないが——ユーリエ卿!?」
「ユーリエさん!?」
「ユーリエ生徒会長!?」
『本の姉ちゃん!?』
ユーリエが、目に見える形でしおれていた。
「マリウス艦長!? ど、どうするんですかこれっ!?」
「お湯につけたら、元に戻ります……?」
呆れた様子で魔方陣に格納される轟竜をよそに、
「アリス、ユーリエは乾物じゃない。とりあえず寝かせてあげてくれ。クリス、なにか滋養のあるものを。さっきの昼食の残りでいい」
「あ、それなら!」
ユーリエを救護兵も驚く素早やさで肩に担いでベッドに寝かせ、そのついでにスカートのホックを外して腹部を楽にさせたアリスが、率先して挙手する。
「ここの食料庫で気になる材料を見つけたんです。昔ならった栄養のある保存食を作れそうなので、試してみていいですか?」
「ああ、任せる……みていても、いいか?」
「もちろんです!」
クリスとニーゴも気になったらしい。皆でぞろぞろと厨房へと向かう。
先ほどまでアリスが昼食を作っていた厨房は、大きさの割には食材以外がらんとしていた。
元々は大人数が住んでいた学園の往事を忍ばせる雰囲気の中、アリスは早くも勝手知ったる様子で食材を積み上げていく。
「これは、油脂ですか?」
その中に、白い正方形の塊を指さして、クリスが訊く。
「はい。アンシンアブラソコムツの身から油を抽出して、固めたものですね。常温だと固形になるのでとても重宝するんです」
「それ、食材が魚臭くならないか?」
それに、なぜか名前が不穏な気がする。
「油を抽出した時点で匂いは全くなくなるんです。多分、タリオンさんが頑張ったんじゃないかと」
「そういえば、そうだったな……」
いま、この海にいる生き物の大半にはタリオンの手が入っているのだった。
おそらく少なくなった地上や船の上で獣脂や植物性の油を作るのが困難だと判断したのだろう。
だが、この名前はどうにかならなかったのかタリオン。
「まずはこの油脂をお鍋に入れて弱火でゆっくり溶かします」
そう解説しながら、アリスはすり鉢を取り出し、中に乾燥した果物を数種類入れ、手早くすりつぶしていく。
「アンシンアブラソコムツの油が液状になったら、乾燥した果物を入れて、色と香りを移します」
白い塊から透明な液状になった油にすりつぶした乾燥果物が入ると、徐々に紅い色、ややあって橙色に染まっていく。
「ここで火を止めて、すりつぶした木の実を加えて――」
そう説明しながら、アリスが厨房の戸棚から取り出したのは……。
「大量のお砂糖を加えます」
調理用の匙ではなく、汁物をよそうおたまで砂糖を掬い、アリスは鍋に砂糖を加えていく。
一杯、二杯、三杯……。
甘いものが苦手な者がみたら、それだけで胸焼けを起こしそうな光景であった。
「お砂糖が全部溶けたら、型に流し込んで、固まるのを待てば完成です!」
「では、その型を少しだけ冷やしてやろう。そうすれば早く固まるだろうからな」
「――ありがとうございます、マリウスさん!」
氷の魔法を応用して、型を少しだけ冷やす。
氷ができるくらい冷やすことも可能だが、そうするとおそらく味が変わってしまうだろうと想像したのだが、アリスの反応をみるとそれで正しいらしい。
「あっという間に固まりましたね」
橙色の油が白く固まることにより、果物や木の実を練り込んだチーズのようになったそれを眺めて、興味深そうにクリス。
「これを一口大に切ったら、完成です!」
慣れた様子で切り分けたそれは、ますますチーズのようであった。
ただし、香りが甘い。
果物と木の実、そして大量の砂糖が入っているので当然なのだが、乾燥した果物を大量の入れたためだろうか、その香りが凝縮されてまるで香料の入った石鹸のようである。
「さぁ、これをユーリエさんに食べさせてあげましょう!」
皿に盛ったそれと淹れたお茶のポット、それに人数分のカップを手に、最上階の居室に戻る。
「ユーリエ卿、具合はいかがか?」
「マリウス卿……お手数をおかけします。幸い、具合は悪くないです」
多少血色がよくなったユーリエが、ゆっくりと起き上がる。
「これをどうぞ、ユーリエさん。栄養満点ですよ!」
アリスが、作ったばかりの保存食をユーリエに勧める。
「ありがとうございます、アリスさん。では、ひとつだけ」
ユーリエが、それをつまみ口の中に入れる。
「私もひとつ、食べてみていいですか?」
「いいですけど――」
興味深げにそれをつまむクリスに、アリスは一息おいて、
「とても甘いので、飴のように口の中でゆっくり溶かしてくださいね?」
ちょっとまて。
それ、ユーリエに説明してな――。
「~~~~~~~~!?」
直後、ユーリエがベッドから飛び上がった。
そして緩めるためホックを外していたスカートがずり落ち、布団の上へ派手に転ぶ。
「あの、すみません……お茶を……お砂糖の入っていないお茶を……!」
「アリス」
「ごめんなさい、説明不足でした」
「それもあるが……」
両手で目を抑えないでほしい。妙に力が入っていて、潰れそうで怖いのだが。
「原型となったアブラソコムツは、人類の皆様には消化できまさんのでお気をつけくださいませ。 漏 れ ま す ので」
「こっちは安全なんだろな!? タリオン!」
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