表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第二部 第一章:蒼い瞳のユーリエ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

296/385

第二九六話:空竜プテラノ・水竜プレシオ


「結局こちらでも、戦闘はありましたね」


 雷光号の通信士席に座り、各種情報を読み取りながらアリスはそういった。

 既に艦は桟橋を離れ、浅く潜水を始めている。


「ある程度は想定していたことだ。しかたあるまい」


 なにしろ一万年も時が経っている。

 文化的断絶が起きている以上、敵として戦うことがある可能性は、ある程度覚悟していた。

 それがたとえ、同胞であろうともだ。


「少し、心配なのは……」


 雷光号の提督席に座ったクリスが、前方を見つめながら小声で呟く。


「魔族の方同士の戦いに、私の戦略と戦術が通用するでしょうか」

「何が出てくるかわからない以上、断言はできないが……」


 ゆっくりと塔から離れる雷光号の速度と距離を意識しつつ、俺は答える。


「クリスの才能と豊富な経験があれば、まったく未知の敵にでも対応できるだろう」

「そうだと……いいのですが……」


 制帽を目深に被って表情を隠すクリスであった。

 珍しく、弱気である。

 だがその気持ち、わからなくもない。

 この南半球には魔王が俺とユーリエを含めて百二十九名いるという。

 ユーリエの魔力とその使い方が俺と遜色がない以上、中には俺を上回る魔力の持ち主や、遣い手がいてもおかしくはない。


「いざというときは、全体の指揮もマリウス艦長にお任せします」

「了解した。もっとも、そういうことになるとは思えないがな」


 クリスのその才能における最も優れた点は、その柔軟性にある。

 おそらく俺よりも早く、未知の敵に対して戦略を、そして戦術を練ることができるだろう。


『みなさん——聞こえますか?』


 そこへ、塔に残ったユーリエから魔力による通信が入った。

 もちろん出航前に使い方を教えておいたのだが、

 それを理解して実行するまでの時間が、恐ろしく早い。


『本校の警戒網を突破したのは、おそらく統合鉄血学園アイアンワークスの分校と思われます』

「特徴は?」

「特徴は?」


 俺とクリスが、ほぼ同時にそう訊く。


『箒による高速移動と、竜の召喚です』

「箒? 箒で高速移動ってどうやって——」

「おそらくそれを媒介にして飛行するのだろう。古い魔法の形式だが、過去に実在している」

「そんな、それじゃおとぎ話の魔女……ああ、なるほど」


 おとぎ話には、多かれ少なかれ元となった伝承があり、そこには史実が含まれている。

 魔女が箒で空を飛ぶというのは俺も聞いたことがあるが、それは飛行の魔法を使う際、魔力を通す触媒として箒が最適だったからだ。

 もっとも、飛行に慣れれば箒なしでも飛べたし、実際俺が封印される前はそうしていた。

 それがどうして復活したのかはわからないが、なにかしらの理由があるのだろう。


 それよりも、気になるのは()の方だ。


「ユーリエ卿、竜というのは? まさか本物ではあるまい?」

『はい。幻獣の頂点たる古の(ドラゴン)ではありません。ですが私たち、今の魔族は——』


 なぜか少々申し訳なさそうに、ユーリエは続ける。


『竜を仮想化し、使役することができます。特にアイアンワークスは竜の戦力化に精力的ですので……』

「ものすごいことを考えたな……」


 いってしまえば、おとぎ話の英雄を魔法で再現し、使役しているようなものだ。

 俺の感覚でたとえるなら、(さき)の陛下を禁忌の死霊魔法で操っているのに等しい。

 おそらくユーリエは、過去の魔族(つまり俺)の風習を知っているため、申し訳なさそうに伝えたのだろう。


「ユーリエ卿、その仮想化した竜というのは——」

「きました! 正面四! 早いです!」


 アリスが叫ぶのとほぼ同時に、索敵用の表示板に光点がよっつ出現する。

 この速度は——まちがいない。相手は空を飛んでいる。


「雷光号、戦闘体勢。もう少し深く潜れ」

『あいよ!』


 海が暗くなり、ややあって文字盤だけの表示に切り替わる。


「潜望鏡、展開」

『相手さんをみるんだな、だすぜ!』


 クリスの潜水艇は、鏡とレンズを用いた機械式のものであったが、雷光号のそれは違う。

 逆探査を防ぐため有線ではあったが、魔力を用いて映像に変換するため、細身の縄のように自由自在に動かせるのだ。

 この形式だと、潜望鏡の展開距離は驚くほど長くすることができる。

 現に、暗い海の中をすすんでも、正面の表示板には海上の様子がありありと映し出されていた。


「みつけました。たしかに箒に跨っています」


 アリスが素早く報告した。

 どうやらひとつの箒に二名の魔族が乗っているらしい。

 察するに、前方が操縦者で、後方が例の仮想竜を使役する者なのだろう。


「敵はおそらく召喚魔法を使ってくる。その前に叩いてしまってもいいが……」


 雷光号の装備では、過剰防衛となってしまう。

 となると……。


「ユーリエ卿、仮想化された竜というのは、何度でも召喚可能か?」

『いいえ。膨大な魔力を用いて設計、製造し、それを召喚陣の中に格納して使いますので、一度撃破されると再出撃までかなりの時間を要します』

「ならそれがでてきたところを叩くのが得策だな」

『はい。航空魔法隊は、使役者の安全を最優先するため、自らは直接戦闘に加わりませんから——召喚、きます』


 ひとつの箒につき、ふたつの魔法陣が出現した。

 そしてひとつの魔法陣からは翼竜が、もうひとつのそれからは首長竜が召喚される。

 それは自身が複雑な発光する魔法陣で作られていた。

 魔法でできたレンガを翼竜と首長竜に組んで、自由に動かせているといえばわかりやすいだろうか。


『空竜プテラノと、水竜プレシオです。どちらも機動力と攻撃力は高いので、おきをつけて』

「了解した。クリス?」

「大丈夫です。これならいけます。——よかった、これなら戦況が読める……!」


 クリスが、小さく安堵した。

 俺も胸中では、安堵していた。


 これならばまだ、俺の常識で戦える。

 ——このときはまだ、そう思っていたのだ。


※面白かったら、ポイント評価やブックマークへの登録をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ