第二九三話:ドキッ! 魔王だらけの南半球!
「魔王!? 魔王といったな!?」
思わず叫んでしまった俺に対し、
「は、はい……」
ユーリエは、戸惑った様子でそう答えた。
「では、貴様が――今の時代の、全ての魔族を率いる魔王ということなのだな?」
「えっ」
「え……?」
いや、なぜそこで疑問形になる?
「魔王――なのであろう?」
「はい。そうですが……全ての魔族を率いるとは、とてもとても」
「謙遜はよせ」
「謙遜ではありません……それに、」
腕章に触れながら、ユーリエは続ける。
「魔王はどの学園にもおりますから……」
「どの学園にもだと……」
思わず目眩を憶える俺である。
「すいません、ユーリエさん。質問です。その魔王――ですか? は、御自身を含めて何名いらっしゃるんですか?」
俺の代わりに、クリスが助け船を出してくれた。
「そうですね……認可済みでしたら分校を含めて、百二十八名かと」
百二十八!?
魔王が百二十八名だと!?
分割統治にもほどがあるだろう。
というか――。
「七十二の階位を越えているではないか……」
つまり、名前が被る魔王が出現しているということである。
基本的に数字でも管理するから混同する可能性は高くはないが、それにしても煩わしいことには変わりない。
「さきほどから気になっていたのですが……ようやく合点がいきました」
ユーリエの回答は、落ち着き払ったものであった。
「それは古典的な方の魔王ですね?」
「古典的な魔王」
古典。俺や前の陛下が古典。
「そうか、古典か……いや、仕方がないのかもしれないな」
なにせ、一万年である。
それは長命である俺たち魔族にとっても、十分すぎるほどの時間であった。
「むしろ、皆さんよくご存じですね。古典の魔王はもはやおとぎ話と同じような扱いになっておりますから」
「なるほどな」
そういえば、人間の方では俺は金髪の小柄でちょっと態度が横柄だがさみしがり屋の少女という設定だった。
あれはあれで本当に酷かったが、こちらもそういう伝承が残っているのかもしれない。
「ユーリエさんは、古典に詳しいんですか?」
今度はアリスがそんな質問をした。
「詳しいというほどでもありませんが、多少でしたら」
「では、一番おすすめの古典的な魔王を教えてください」
まて、アリス!
その質問は危険だ!
「おすすめ……それも一番のおすすめですか。それでしたら――」
両手杖を持ち直し、ユーリエは天井を見上げる。
そしてすぐにこちらに向き直ると、
「一番は難しいですね。光の剣をもつ太祖の魂バ・エル陛下に、三日月の戦王バル・バトス陛下、魔王の立ち往生で有名なグ・シオン陛下、最後は自らも剣になった魔剣王フ・ルカス陛下、あらゆる意味で『規格外』紅蓮の魔王、ヴィネット・スカーレット陛下……どの古典的魔王も、当時の魔族全てを率いておられた、偉大な方々です」
前の陛下が記録に残っていて、内心小躍りする俺である。
しかし、この流れはやはりまずい!
「ですが、その中で一番となると……やはり最終魔王!」
ほらみろ!
なんか訳のわからない二つ名になっているが最終であるのならそれは間違いなく――。
「アンドロ・マリウス陛下。紅蓮の魔王の小姓から身を立て、聖域探索学園ハルモニアがいまもなお探している楽園『コウ・シエン』に単身たどり着き、その地に住まう強力な戦士達を率いて紅蓮の魔王をお助けするという戦功を打ち立て、自らの主が謀略に斃れたあとはその後を継ぎ魔族の諸侯をまとめ上げ、ついにはみずから楽園を作り上げた最後の魔王……!」
ほらみろ!
盛りに盛られているではないか!
なんだ単身で楽園に到達とは!
前の陛下はお助けできなかっただろう!
しかもみずから楽園を作り上げたってなんだ!?
せいぜいが動く要塞だ!
「しかも崩御されることもなく、遙か北の海に自らを封印し、この世界に危機が現れたときに復活なさるという――」
「ついこの間、復活されたんですよ」
「……はい?」
ユーリエの目が、点になった。
「ご冗談を?」
「マリウスさん、どうぞ」
アリス……わざと、やったな?
「ま、マリウス――!?」
「……いかにも」
ゆっくりと立ち上がって、俺は続ける。
「アンドロ・マリウス・ソロ・ゲーディア・36の72である。現魔王、ユーリエ・フランゼスカよ。百二十八に分かたれたとはいえ、領土の護り……大儀であった」
正式に名乗った為、俺の背中に紫電の翼が生える。
それに照らされた、ユーリエの顔が真っ青になった。
続いて、ゆであがったタコのかくやといった様子で、真っ赤になる。
そして再び、真っ青になり――。
「ひゅっ……」
そんな息とも悲鳴ともつかない声を上げて、卒倒したのであった。
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