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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十一章:一万年の、夢の終わりに

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第二八五話:帰投——元の船体はどうする?

 新しい雷光号の航行性能、及び戦闘性能がある程度把握できたところで、現場検証も一通り完了した。

 あとは、帰投のみである。


「で、どうすんのよ。大将」


 新しい雷光号の甲板から、元巨大魔王城のそばに佇む(グレート)雷光号をみあげて、ニーゴが訊く。


「ここにおきっぱなしにするわけじゃねぇんだろ?」

「当然だ」


 同じように見上げて、俺は答える。


「でもどうすんの。ばかでっけぇ輸送艦でも作るん?」

「それも魅力的だが……」


 超大型輸送艦か。機動要塞と用途が似ているが、輸送艦というものはそれ自体に費用がかかってはいけないものだ。

 それゆえ、いかに費用を下げつつ、より多くの輸送力を持たせなかればいけないのだが——。


「いや、今回は別の手で行こう」


 本当に魅力的ではあるが、残念ながら設計からはじめていると時間がどうあっても足りない。

 それに、今いった通り、対応策はもう考えてあるのだ。




■ ■ ■




『うわ、視線高ーい。みんなちいさーい!』


 北の海域からの帰路。

 紅雷号が、そんな声を上げた。

 いつもの船体ではない。

 スカーレットが(グレート)雷光号と融合し、その巨躯を動かしているのである。

 ちなみに紅雷号本体は、小脇に抱えている。

 色々と運び方を試してみたのだが、どうやらそれが一番安定するらしい。


「なるほど。分離、変形できなくなったとしても、壊れてしまったわけではないのでそのまま運用するということですか」


 クリスが提督的で納得したように頷く。


「ああ。だから(グレート)雷光号の方を少しいじって、紅雷号四姉妹でも操縦できるようにした。もちろん、貴様も可能だぞ。雷光号」

『あんがとよ、大将。でも今はこっちの方に慣れねぇとな』


 水上を航行しながら、雷光号が答える。

 本来は水中を航行した方がより効率よく航行できるように造ってあるのだが、潜航すると他の艦からみえなくなり、不安になるという予想外の要素が発覚し、こうして水上を航行してもらっていた。

 もっとも、この状態で航行すると操縦席からは海の様子がよく見え、乗っている分にはかなり楽しめるのも事実である。


「まぁ今となっては過剰戦力だが、整備しておいて損はなかろうよ」

「有事のために、ですか?」

「……ああ。そういうことだ」


 有事。つまり、俺がいないときになにかあった際。

 クリスは薄々だが気付いているようである。


『スカーレット姉さん。船団アリスに戻ったら、私にも使わせてくださいね』

『僕も!』

『自分もであります!』

『もちろんよ!』


 (グレート)雷光号の巨躯を危なげなく制御して、紅雷号がそう答える。

 懸念していた出力さとそのものの大きさの差異は、あまり感じられないらしい。


「マリウスさん」


 そこで、アリスから報告が上がった。


「まもなく本当の魔王城近海です」

「了解した。雷光号、潜航準備。クリス、艦隊はそのまま、雷光号のみ潜行でいいか?」

「いいえ。全艦停止です」

「いいのか?」

「それくらいはしなくては私の、ひいては皆の気持ちが収まらないでしょう」

「温情、感謝する」

「『全艦、一時停止。当直員、および有志は魔王城に対して登舷礼。また、雷光号はこれより潜航を開始します』」


 アリスが全艦に通達し、艦隊は一糸乱れぬまま、魔王城近海に静止する。


『んじゃ、いくぜ?』


 雷光号が、潜航を開始した。

 ある程度深度をとってから艦隊を離れ、魔王城へと近づいていく。


「これが……」

「魔王城……」


 クリスとアリスが、ほぼ同時にそういった。

 そして俺は——あることに気づく。


「定期的に整備しているのだろうな」


 おそらく、地上部分までそうするとめだつため、風化に任せていたのだろう。

 だが、水面下は、往時の魔王城の姿をとどめていた。

 しかも、勇者との戦いで半壊した姿ではない。

 俺が魔王として君臨し、改築と増築を同時に行なった当時の姿を保っている。

 いうまでもなく、タリオンだろう。

 おそらくは知性のある海賊たちにさせていたのだろうが、定期的に訪れていたといっていたから、自身も携わっていたのかもしれない。


『どうする大将。中の探査、やってみんか?』

「いまはここからの走査だけでいい」


 魔族の生き残りの情報がなかったら、隅から隅まで調べ尽くす気だったが、いまはそうではない。

 それよりも、やっておきたいことがある。


「雷光号、魚雷発射管一番用意」

『あいよ。射出するのは……大将だな?』

「ああ。少し行ってくる」


 操縦室から前方の魚雷管制室に入る。

 ここでは通常、雷光号によって自動的に魚雷が装填、発射されるのだが、一番最初に俺が構想していた機能がまだ生きている。

 つまり、俺自身も射出できるということだ。

 発射管の蓋を開け、その中に潜り込む。

 同時に俺自身に冷たい水に耐える魔法、水中で呼吸できる魔法、水圧に耐える魔法をかける。


『準備はいいか、大将』

「ああ、やってくれ」


 発射管の蓋が自動で閉まり、発射管内が海水で満たされていく。そして前方の射出口がひらき——。

 俺は、後方から解放された圧縮空気により、勢いよく射出された。

 目標は、魔王城の城壁から第一層の間にある、中庭。

 ほどなくして、それはみつかった。

 追走していた雷光号から照明がともり、鮮やかに映し出される。

 それは、前の陛下の墓標だった。

 紅い石で作られたそれは、魔族にとって標準的な墓標である。

 本来であれば廟、あるいは陵を造るべきであったが、前の陛下の遺言に従い、できるだけ質素な造りにしてあった。

 その墓標も、少しも朽ちてはいない。

 おそらくタリオンが、念入りに整備していたのだろう。


 ——お久しゅうございます。陛下……。


 水中であるため、口内でそう呟く。

 積もる話は山とあるが、今はそれよりも。

 俺は前の陛下の墓標の隣に、魔法で深い穴を掘る。

 そしてそこに、懐から取り出したものをそっとのせる。

 それは、調査隊がみつけた光の零番の欠片だった。

 もう魔力は全く残っていない、透明な宝石のかけら。

 俺はそれを埋めると、あたりに転がる石を集め、熱して溶かし固め、墓碑とする。

 大きさは、前の陛下と同じ。

 碑文には——。


『タリオン 一の臣下にして、一の親友』


 雷光号が、すぐ近くにまで接近していた。

 俺は踵を返し、雷光号へと帰投する。


 さらばタリオン。

 さらば、友よ。


■今回のNGシーン


 俺は前の陛下の墓標の隣に、魔法で深い穴を掘る。


 ご。

 ごぼ。

 ごぼぼ。

 ごぼぼぼぼ!

 ごぼぼぼぼぼ!

 ボボボボボボボ!

 ボーボッボッボッボォ!


「鼻毛神拳かなにかですか?」

「そう思ってボツにした」


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