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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十一章:一万年の、夢の終わりに

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第二八四話:新雷光号の、新兵装

『そんじゃ、潜航いくぜー』

「ああ、最初は比較的浅いところでいい」

『あいよ。大将と会う前の頃を思い出すな……あ、でも水中をまっすぐ進むのははじめてか?』


 いわれてみれば、雷光号と初めて出会った時、彼は水中から出現していた。

 だが詳しく話を聞いてみると、水中を跳ねるように進んでいたのだという。


「前にクリスちゃんの潜水艇に乗った時も思ったんですけど……」


 表示板に映される水中の風景を見つめながら、アリスが呟く。


「陽の光って、そんなに深くまで届かないんですね……」

「はい。どんなに澄んでいる海でも、みなさんが思っている以上に深くは照らされないんです」


 クリスがそう解説する。

 事実、雷光号の全長分くらいまで潜ると、辺りはだいぶ暗くなる。

 それは、ステラ雷光号で空を飛んだ時、どこまで上昇してもあまり変わらなかったのとは対照的であった。


「なので、通常航海時はともかく、戦闘時は外の風景は表示されない」


 操縦室正面の表示版が、一瞬で切り替わる。

 それは水中の戦闘に必要な各種情報が羅列されていた。


「私としては、こちらの方がありがたいです」


 と、クリス。

 たしかに艦隊を預かる司令官としては、艦橋からの風景よりも、敵味方の位置や周辺海域の風速や潮の流れなど、各種情報が一覧できる方が役にたつだろう。

 

「ところで新しい雷光号の武装は、どのようなものですか?」


 ——そうだった。




■ ■ ■




「このように……」


 黒板に白墨で書いた計算式と、そこから導き出される表の両方を指しながら、俺は説明を続けた。


「水中での火砲はその威力が著しく減衰される」


 アリスと講義を聞くためにわざわざ分離したニーゴが得心したかのように大きく頷く。

 対してクリスは少々退屈そうであった。

 おそらく——というかほぼ確実に——水中での威力の減衰を知っているためであろう。

 あるいは、経験として知っているのかもしれない。


「それゆえ、火砲を載せるとしたら格納式にし、使用するときは浮上した時のみとなるが……」

「それでは折角の潜水が無駄になりますよね」


 クリスが、的確に口を挟んだ。


「そう。だから俺は水中から攻撃できる方法を模索した」


 そういって、俺は新しい雷光号の設計図を皆にみせた。


「見ての通り、最前部に水中発射管がある」

「水中発射管?」

「つまり内部から装填し、水中に射出する仕組みだ。これで――」

「エミルさんの水雷艇のように、銛を射出する?」

「いや、俺を射出する」

「「「……俺?」」」


 アリスとクリスとニーゴの声が重なった。


「そうだ。これで射出された俺はそのまま水中を直進し、適度なところで適度な魔法を使用し、帰還する。おそらく主に使うのは氷の魔法であろうな」

「いいのかよ。大将が出るの、いままで奥の手だったじゃん」


 ニーゴがそう指摘する。

 たしかに、いままでそれは最終手段であった。

 だが――。


「水中なら、察知されにくいからな。当たり前だが、俺自身は水中でも呼吸できる魔法、ある程度の水圧にも耐えられる魔法、そして水中を自由に動くための魔法を同時に使える。ならば、これが一番確実だろう」

「却下します」


 おそらく、はじめてのことだろう。

 クリスが明確に俺の案を退けた。


「なぜだ?」

「第一に、攻撃手段が豊富に見えて、その実手数が大幅に減っています。複数の敵、それも大量に現れた場合はどうするんですか?」

「……む」


 それはたしかに、指摘通りの話だった。


「第二に、……はっきりといいますが、仮にも大将が最前線で直接戦わないでください」

「——むぅ」


 もっともな話だった。


「あの。いまクリスちゃんがいった、銛じゃダメなんですか?」


 アリスが手を挙げて質問する。


「だめだな。火砲の弾頭と一緒で、水中では抵抗が大きすぎて威力が減少する」

「では、爆撃銛(ハナビ)はいかかです?」

爆撃銛(ハナビ)……爆撃銛(ハナビ)か」


 爆撃銛(ハナビ)とは、エミルが所属していた船団フラットが禁忌として秘匿していた技術である。

 中空の銛に火薬を詰め、自らを推進させる上に着弾した際は爆発するという、かなり厄介な兵器であったが、確かにあれなら、水中を長時間、一定の速度で進むことができる。


「だが、あれで狙いをつけるには相当対象に寄らねばならん。そうすると、折角の隠密性が犠牲になるな」

「なるほど……」

「んじゃ、いっそのこと、体当たりにしねぇ? オイラ、前の身体以上に頑丈なんだろ?」

「それは、そうだが……」


 隠密性の話、聞いていたか?


「いいじゃん。これなら狙いがつくつかないは関係ねぇ。ぶつかる直前まで修正できるんだからよ」

「だめですよ、ニーゴさん。マリウス大将が直接戦わないための雷光号なんですから」

「そういやそうだな」

「いやまて」


 俺が直接戦わないための雷光号。

 なら、雷光号が体当たりをしなくて済むように、代理を立てればいいのではないか?


「つまり、こうか!」


 俺はその場で魔法による模型をつくり、皆の目の前に置いた。


「スクリューのついた——ペン?」

「小型の潜水艦だ。これの先頭を弾頭にする」

「狙いはどうします?」

「簡易的な通信装置をつける。これにより、ニーゴが遠隔操作できるようにな」

「なるほど、名称は?」

「そうだな……エミルの水雷にあやかり、潜水艦水雷——」

「いけません。それではまるで搭乗員が乗っているよう非倫理的な兵器に聞こえます」

「たしかに。では、形に少々無理があるが、魚——魚形(ぎょけい)水雷というのはどうだろう?」

「いいですね」

「いいのか!?」


 苦し紛れに出した案なのだが。


「マリウスさん。こういう形のお魚、いるんですよ」

「なに!?」

「ボウタラっていうんですけど」

「それは保存食ではないか?」


 俺が封印される前、山間部への貴重なタンパク源として、限界まで干したタラの干物がそう呼ばれていたはずだ。


「いえ、棒のような形をしてるからボウタラです」

「棒のような形」

「干してもあまり身が縮まない上、携行しやすい形をしているので結構重宝されているんですよ」

「また貴様かタリオーン!」


 俺の雄叫びが、雷光号の操縦室にこだまする。




■ ■ ■




「標的艦、確認しました」


 数日後。臨時演習の場でアリスがそう報告した。

 例によって氷で作った標的艦である。

 それを今回、四隻浮べておいた。

 もちろんただ浮かべるのではなく、それぞれが個別の行動をとっている。

 一隻はまっすぐに高速航行、もう一隻は蛇行、もう一隻は速度をこまめに変え、最後の一隻に至っては前進と後退を無秩序に繰り返している。


「一番から四番の魚形水雷——いや、魚雷発射用意」

『あいよ』


 新しい雷光号には、艦首方向に六本の水中発射管がある。

 そのうちの四本に魚雷が装填された。


『準備完了。いつでもいけるぜ』

「順次発射」

『あいよ。新兵装、いくぜ!』


 新しい雷光号から、四本の魚雷が放たれた。

 正面の表示板に、それぞれの魚雷の航跡が描かれる。

 それぞれが一隻ずつ、標的艦を狙っていた。

 おそらく航跡が見えたのだろう。

 標的艦が蜘蛛の子を散らすように散開する。

 しかし——。


『わりぃな、みえてんだわ!』


 直後、巨大な水柱がよっつ立ち上った。

 それは、戦艦の大口径主砲に勝るとも劣らないものである。


「——全標的艦、撃沈。影も形もありません」


 戦況を見据えていたアリスが、そう報告する。


「どうやら、水中の爆発は威力が上がるようだな」

「おそらく水圧も関係しているのでしょう。しかしこれは——」


 クリスが制帽を脱ぎ、額の汗を拭く。


『こちら機動要塞シトラス・ノワールのエミル。演習の結果はこちらでも確認した』


 洋上で見学をしていたエミルたちから、通信が入る。


『またおっかないものを作ったもんだな。久々に言わせてもらうぜ……そこまで、するか?』


 水中から忍びよる艦から発射され、高速で水中を進み、しかも相手を追尾する。

 そしてとどめに、高威力。

 なるほど、たしかにそれは『おっかないもの』であった。


「死んでも出てくる、臣でございます。シンだけに」

「また貴様かタリオン!」

「行軍のお供、魚肉ソーセージがわりに作ってみました」

「魚肉ソーセージ」

「乾燥させればかみごたえも十分でございます」

「かみごたえも十分」


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[良い点] 魔王が人間魚雷にならなくてよかった…
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