第二八三話:海底軍艦雷光号
その騎体を前にして、皆黙りこくっていた。
「本当にいいのかよ、大将」
「ああ、これは俺の乗騎ではあったが、だからといって乗り換える理由はないからな」
そして、別の誰かに譲る気もない。
それよりも、今は一刻も早く元の大きさで新造しなくてはならない。
それもできれば、上半分が吹き飛んだ、巨大魔王城の調査が終わる前に、だ。
「まぁマリウス大将が納得しているのなら、私からはなにもないです」
ニーゴに続いて、クリスもそう述べる。
唯一、アリスだけがなにもいわなかった。
「方針は、決まりだな」
俺は半壊している元乗騎を、雷光号の新たな船体の材料とすべく、作業台へと移動させた。
もちろん資材はこれだけでは足りないが、おそらくあの巨大魔王城の一階で山のようにみつかるだろう。
「マリウスの予想通りだ。じゃんじゃん出てきたぜ」
「やはりな」
検証の指揮をとっていたエミルからの連絡をうけて、俺たちは元巨大魔王城の一階部分に足を運んでいた。
光の零番による無差別広範囲攻撃——というよりもただ単に余剰出力の発散であろうが——により、一階より上は完全に破壊され、現在はその元の姿と思しきものが露出している。
俺の予想通り、それは本来の魔王城と同じ、巨大な生産区画であった。
「これは、すごいな」
本来のそれは機動甲冑の生産工場であったが、ここのそれは海賊の生産装置であるらしい。
現に今も大量の白の七八型に近い海賊が製造され続けている。
しかも、全自動でだ。
俺の時は必要最低限の担当者が必要であったから少々悔しいが、いまはそんなことをいっている場合ではない。
「青の〇〇六」
俺は、生産装置のそばまで待機させた青の〇〇六に魔力による通信をとった。
『どうした。そこの用途の話か』
「それはもう把握している。この生産施設で使用している、海賊の材料を知りたい」
『材料……ああ、察するに、生体を使っているかどうかか?』
「そうだ。察しが良くて助かる」
『安心しろ——といっていいのかどうかわからないが、生体部品は一切使っていない。当時の盟主殿がまだ生身であったからか、あるいは——』
「人間どもを材料にしたくない、か?」
『そうだな。それもあった』
タリオン。
一万年の永きに渡って、人を嫌いつつ守護し続けた、我が最高の臣下にして唯一の友人。
その思想がいまこうして、俺の使用基準を満たしてるのは、奇跡のようなものであった。
もし、この生産拠点に生体部品を使っていたら。
俺はここを完膚なきまでに破壊していたであろう。
もちろん、青の〇〇六の言葉を額面通りには受け取っていない。
生体感知の魔法をあちこちに放ち、反応が返ってことないことを確認している。
「制御装置はあるか」
『ある。盟主殿は魔力を持つ者のみ、操作ができるようにしてあるといっていた』
「ほう……」
〇〇六に、その区画の場所を教えてもらい、アリス、クリス、ニーゴ、そしてエミルと向かう。
魔力を持つ者、つまり魔族でないと開かない扉を潜ったその先は、それなりの広さを持つ空間で、奥にある制御装置は——、
「パイプオルガンを模しているのか……」
ある意味タリオンらしい趣向であった。
大小ふたつの鍵盤が左右に並んでおり、小の方で仕様を楽譜として出力し、大の方で実際に演奏することで装置そのものに指示をおくるものらしい。
パイプオルガンの傍にはちょっとした本棚があり、そこには楽譜がぎっしりと収められていた。
おそらく、タリオンが何度も試算をくりかえした結果なのだろう。
その一冊を手に取ってみる。
「なるほど……機関の設計から始まって自律意思の傾向、内装、外装、そして武装と装甲といったところか」
「直接演奏すりゃいいだろがよ」
「設計図を俯瞰して細かい狂いを防ぐためなんだろう」
とはいえ、エミルの指摘する通り、かなり大仰かつ迂遠ではあったが。
いまは自動生産中であるためか、大きい方の鍵盤の楽譜台に置いてある楽譜が勝手にめくれられていき、鍵盤が素早く複雑に動いて曲が演奏されている。
それは意図したものなのかあるはただの偶然か、荘厳な曲のように聞こえた。
「なんか、はじめて魔法らしい形をしたものを見た気がします」
クリスが、そう呟いた。
「そうか?」
「そうですよ。マリウス大将の魔法はいつもあっという間に終わっていますから」
「……言われてみれば、そうだな」
俺の魔法はどれも効率最優先であったから、仕方がないかもしれない。
それよりも、いまは——
俺は小さい方の鍵盤に座り、曲を奏でる。
本棚の楽譜で、大体の傾向は掴めたからあとは俺の設計意図をどこまで組み込めるか……だ。
曲を奏でていくと、小さい方の鍵盤の上に置かれた楽譜台から、楽譜が印刷されていく。これが完成したら、差し替えればいいらしい。
「アリス」
「はい」
「大きい方の楽譜台が最後までいったら、最初まで巻き戻るはずだ。そうなったら、俺が今つくった楽譜と取り替えてくれ」
「わかりました。えっと……いまですね」
ちょうどいい塩梅で、アリスが楽譜を取り替える。
「とりあえずこれで、次の世代から人間に敵意のある海賊ではなくなる」
「あくまで敵意がなくなるだけなんですね」
「そうだ。人間にも、魔族にも従順である必要はない」
彼らは製造される存在とはいえ、自律した意思がある。
彼らの意思はできるだけ、尊重したかった。
あとは、彼らに接する人間側の問題である。
「あと、一隻分の作業台を借りるぞ」
「そういうこともできるんですか?」
「ああ」
これで、雷光号の新しい船体をかなり早く建造できるはずだ。
「とりあえず、一度出よう」
機動要塞『シトラス・ノワール』に置いてある材料を、こっちにもってこなければならない。
■ ■ ■
そういうわけで。
「これが、オイラの新しい船体……?」
巨大な架台に乗ったそれを目の前にして、ニーゴがそう呟いた。
「なんか、ノッペリしている……」
いままでの軍艦の船体ではない。
あえていうなら、葉巻のように両端が丸まった円柱形の形をしている。
船体の中央前よりには細身の船橋にみえる構造物が据え付けられ、左右にはステラ紅雷号のような小さな翼がある。
それは、元シトラスの護衛艦隊が保有している涙滴型の潜水艇に似ていた。
あるいは、以前俺が資材を秘密裏に運ぶために作った輸送用の潜水艦だろうか。
つまり、これも潜水艦である。
いままでの調査用とも、輸送用とも異なる、純粋に軍艦としての潜水艦であった。
大きさは、元の雷光号と同じくらいである。
あまり意味がないが(そして現在合体しっぱなしになってしまっているが)バスターやステラも装着可能なように設計してあった。
「舵がバツの字になっているのはなぜですか?」
クリスがめざとく質問した。
「それぞれ四か所の可動域を持たせ、どこかが故障、あるいは損壊しても航行に支障がでないようにするためだ」
先の潜水艇も俺が前に作った輸送潜水艦も、舵は十字形であった。
あれはあれで上下、左右で機能がわかれていてわかりやすかったが、どれかがやられてしまった途端、行動制限が発生してしまう。
しかしバツの字型にした場合、同時に二箇所やられない限りは機能低下が最小限に抑えられるようになっていた。
「なんで潜水艦なん?」
「タリオンがいっていただろう。嵐の壁を抜けるにはその下を行くしかないと」
それに、南天はどのようになっているのか、まったくわからない。
それならば、潜水したまま隠密行動できた方がなにかと目立たなくていいだろう。
「舵はわかりましたが、この操縦室は……ちょっと小さすぎでは?」
クリスが例の構造物を指差して質問する。
「いや、それは搭乗時やごく浅い時に海上の様子を探る時に使うものだ。あえて言うなら……そうだな、潜望橋といったところか。本当の操縦室はその下、やや前方にある。あとは乗ってみてくれ」
というわけで、潜望橋から水密扉を開き、梯子を使って内部に入る。
操縦室は、以前の雷光号とほぼ同じ形をしていた。
その方が馴染みやすいからだ。
「そんじゃ、融合するぜ……」
緊張気味に、ニーゴが操縦席の架台に自分の身体を預ける。
昨日丸一日をかけて、大雷光号から分離したため、どうも落ち着かないらしい。
『おおっ! すげぇ……なんかすげぇ!』
「いちから新造したからな。いままでよりずっと意思伝達が楽だろう」
『おう! これがオイラの新しい船体!』
「進水してみよう。アリス」
「了解です。『こちら潜水艦《雷光号》。これより本艦は進水、試運転に入ります』」
架台が傾き、潜水艦となった雷光号が滑らかに海へと進み出る。
それは同時に、全く新しい艦種の初運用であった。
「潜水艦になったけどよ……オイラの顔、かわぐちけ○じ先生風になってたりしてない?」
「そういう影響はないから安心しろ」
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