第二八二話:合体不能、雷光号!?
「診断が終わった。終わったが――」
指揮艦『コマンダー』の艦橋で、俺はそれを見上げながらそういった。
「覚悟はできてるぜ、大将。どんといってくんな」
同じく艦橋にいたニーゴが同じように見上げながら、答える。
「思っていたより、重症だった」
「重症……!」
「六基の魔力炉が、あの光の零番との戦いで超過駆動のさらにその先までいった結果、ほぼ融合していてな」
「融合……!」
「故に下手に分離できない。手足が外れるようになっていても、内臓が繋がっていてはどうにもならないからな」
「内臓……! ——内臓?」
「貴様らの魔力炉に相当する。魔族や人間の消化器官や身体を動かすための心臓、呼吸をするための肺などがそれだ」
「ああ……そいつは、分離できるわきゃねぇわな」
そのままふたりで、佇む大雷光号を見上げ続ける。
コマンダーからはそれなりに離れていたが、戦艦五隻分超の機動甲冑は、あまりにも巨大であった。
「それってさ、大将」
「ああ」
「もう新造しちまった方が早いってやつ?」
「そうだな……」
ニーゴからの質問は、核心をついていた。
故に俺は、慎重に言葉を選んで返す。
「鬼斬、白狼、ステラ、バスター、そして轟炎に関してはその通りだ。その方が圧倒的に早い」
「んじゃ、オイラ自身は?」
「雷光号は……分離作業と新造作業、ほぼ同時だろうな」
「そいつは、オイラを元のオイラのままに作り直した場合だろ? もし大将がいちから作り直した場合はどうなるんよ?」
「それは……それならば、新造の方が早い」
思わぬ申し出に戸惑いながらも、俺は即答した。
雷光号の本来の船体は、幾度もの改造を繰り返してきている。
そのため、船体を正確に再現しようとすると、その改造した経過を再度おいかけなくてはならない。
それに対し、俺がいちから設計し、建造した場合は——かなり早く、仕上がることになる。
「しかし、タリオンの決着はついた。それほど急ぐこともあるまい」
だから、分離作業を行った後、新たに改造を——とおもっていたのだが。
「なにいってんだよ、大将」
鎧の奥で、ニーゴは確かに笑った。
「魔族の生き残りの居場所がわかったんだ。そっちを探しに行きたいんだろ?」
「——そうだな。その通りだ」
照れ隠しをしようとするのをどうにか抑えつつ、俺はそう答えた。
魔族の生き残りを探したい。
それは封印から解かれた当初からの俺の願いである。
そしてタリオンはその生き残りのいる場所を指し示してくれた。
幸いにして——いや、俺以外からみれば幸いでもなんでもないのだが——人間たちの生活圏であり、彼らのいう北天、つまり北半球は平和的統一が事実上なされている。
それならばあとは、彼らのいう未知の南天、すなわち南半球に赴くだけだ。
その感情をできるだけ隠していたつもりであったが、どうやら顔に出ているらしい。
ニーゴが気づいたのだ。おそらくだが、クリスもアリスも気づいているのだろう。
「だからよ、新しいオイラの身体は、最初から向こうに行くことを考えた造りにしてくんな」
「いいのか?」
「かまわねぇよ。それにオイラも興味あるんだ。南の海のさらにその先にある海ってのがよ」
「だが……俺が新たに造るとなると、お前の身体の元の部分は無いに等しくなる。本当に、それでもいいのか?」
「いいもわるいも、今のこの鎧の身体だって、大将がいちから作ってくれたもんさ。なんの不都合もねぇよ。それに、オイラの心——つうの?——は、ちゃんと移せるんだろ?」
「ああ、それは可能だが……」
「あのタリオンってやつは生身でそれをやったんだ。それなら、機械のオイラができなきゃ、おかしいよな?」
「そうだな、そのとおりだ」
それはタリオンへの対抗心なのか、
あるいは生物の身でそれを実行した敬意なのか。
あるいは、自らをもっと強化したいという願いと、純粋な好奇心なのかもしれない。
「そんで大将、あたらしくオイラを作り直すとしたらどんな艦にするんだ?」
「それはだいたい決まっている。タリオンのいう嵐の壁を越える方法はただひとつ、海中を往くことだ。それならば、取るべき手段とそれに適した艦種はひとつしかあるまい」
「つまり?」
興味深げにニーゴが首を傾げる。
「長期間の航海に適した大型の船体を維持しつつ、潜水艇と同じく海の下に潜る能力をもち、さらには水中では使えない艦載砲の代わりに、それに適した索敵装置と武装を持つ艦——」
講義するように人差し指を立てて、俺は続ける。
「すなわち、潜水艦だ」
ニーゴ「大将、オイラの移植手術じゃなかった移植作業、よろしくお願いします」(ギュッ)
魔王「ああ、任されよう!」(ギュッ)
アリス「あの……なんでふたりとも顔が濃ゆいんですか?」
クリス「というかそのギュッっていう謎の効果音が気になるんですが」
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