第二七八話:激突4vs4
『なんか、こう……』
光の零番と空中戦を繰り広げながら、雷光号はひとりごちた。
『空を飛ぶ感覚とは違うのな』
「あちらはちゃんとした計算式があるからな」
風の具合という不確定要素こそあるが、それ以外は機関の出力、速度、気圧と高度など、全てが計算尽くだ。
それに対し、魔力による浮遊、飛行というものにはそういうものは一切無い。
魔力の放出に任せて跳び、躍び、飛ぶ。
それ故、雷光号としてはただ出力を共有するだけであり、残りの細かい操作は俺への一任となる。
これが雷光号にとって、感覚の違いにつながっているのだろう。
「アリス、紅雷号四姉妹と自律騎の様子はどうだ」
「各艦それぞれ一対一のまま、近接戦闘中。いえ、これは――」
表示板に現れる、ありとあらゆる情報に目を通しながら、アリスがそう報告する。
「鬼斬黒雷号――リョウコさん、動きます!」
□ □ □
「うーん、これは……」
一瞬にして廃墟と化した拡大魔王城にて。
自律騎の攻撃を何度か受け流してから、リョウコは人騎一体の操縦席でそう呟いた。
『どうかしたのかい』
オニキスが、余り心配そうでない様子で訊く。
他の姉妹と違い、鬼斬黒雷号は初手から余裕を持った回避を行えていたためであった。
ただし、こちらかの有効打も、いまのところない。
「いえ、敵の攻撃が思っていたより単調だなと思いまして」
『単調!? あれで!?』
のんきに話し合っているように聞こえるが、その間にも鬼斬黒雷号は連続で切りつけられているし、それを回避しているのである。
しかも、自分の身体の動きと黒雷号の船体とを同期している状態でだ。
現に、リョウコは先ほどから身体をひねったり、大きくかがんだりしている。
それにあわせて、鬼斬黒雷号の操縦席は普段ではありえないくらい大きく揺れているのだが、リョウコはまったく気に留めていないようであった。
「たしかに人型でないため、それとは違った攻撃ができるのは確かです。初見では、あのつま先から刀身を出した三連撃をよけるのも一苦労でしょう」
『そうだね。現にサファイア――蒼雷号はちょっと危なかったし』
「ですが、所詮はそこまでです」
『しょせんはそこまで!?』
「攻撃の多彩さが、人型のそれより少ないんですよ。緊急用の量産機では仕方がないのかもしれませんが」
さらりと答えて、リョウコは鬼斬黒雷号を大きく跳躍させた。
方向は真横でも真後ろでもなく、斜め前である。
「で、ここが弱点です」
言い終わる頃には、光刃刀が自律騎の側面、みっつの脚が繋がっている中心点を貫いていた。
「オニキス、各艦に通達。自律騎の弱点は側面中心部。そこを貫けば一撃で終わります」
『りょ、了解』
貫かれた自律騎が痙攣するように各脚を伸ばし、爆発する。
□ □ □
「聞きましたわねスカーレット! 敵側面中心部分を狙いますわよ」
『了解です。でもどうやってです?』
「こうしてですわ!」
間髪入れずに、アステルの操縦するステラ紅雷号は、拡大魔王城の廃墟を、飛び降りた。
『ちょ!? アステル元帥、内臓を痛めているいま飛行は禁止と――』
「飛んでおりません! 拡大魔王城の壁を駆け下りているのです」
『えっ? あっ、本当だ!?』
そのためにステラ紅雷号の翼は降下の位置に傾いていた。
これにより上から下に押しつけられる形になり、紅雷号はほぼ直角の壁を駆け下りることができたのである。
そしてそれにつられた自律騎は――。
「走破されたらどうしようと思いましたが、やはり無理でしたわね」
姿勢を崩してほぼ落下状態に陥る自律騎に、ステラ紅雷号はほぼ直滑降のまま斜めに駆け寄り、
「いただきましたわ!」
光帯剣をその中心部に叩き込み、次いでその側面を蹴って今度は上へと駆け上ったのであった。
「飛ぶことを禁止されても、やることは必ずありましてよ!」
『あたしがいうのもなんですけど、なんでもありなんですね……』
□ □ □
「――まだるっこしい」
なんどか刃を交えてから、白狼紫雷号のドゥエはそう呟いた。
「ドゥエ、相手は強敵です。ここは時間をかけてでも、堅実な手段を用いて――」
隣の席で、双子の姉のアンがそう諭そうとする。
「強敵じゃないわよ、こんなの。私が本気を出せば、すぐに終わる」
「えっ」
『えっ』
アンとスピネルが、ほぼ同時に絶句した。
「スピネル! リョウコのところの操縦装置、こっちでも再現できるんでしょ!」
『で、できるでありますが……』
「だしなさい、今すぐ!」
「まちなさいドゥエ! 姉の前で、その――全裸で?」
「それしかないならやってやるわよ! でもスピネル、あんたのことだから、もう改良しているんでしょ?」
『さすがドゥエ殿、もうお気づきでしたか――』
そう答えて、スピネルはその操縦席を床から出した。
リョウコの鬼斬黒雷号と同じ、円筒形の操縦装置『人騎一体』である。
ただし、天井部分に見知らぬ部品がついていた。
「なによこれ」
『申し訳ありませんが、一度全裸になってもらうことには変わりありません。ですが、その皮膜状の輪っかの穴に頭を通すことで、肌の露出は防げるようになっております』
「上出来よ!」
一切迷わず、ドゥエは服を脱ぎ捨てた。
そして人騎一体の中央部分に、仁王立ちになる。
『ちょっときついでしょうが――いくでありますよ』
「かかってきなさい」
アンが見守るなか、天井部分から皮膜状の輪っかが降りてくる。
それはドゥエの頭を通った後、全身にぴったりと張り付き、そのまま降下していく。
「くっ……! このぉ……!」
スピネルのいうとおり、きついのだろう。
それでもドゥエは、苦悶の声を上げなかった。
『装着完了であります。どうですか、ドゥエ殿!』
リョウコのときのように、全裸ではない。
皮膜状の装置により、ドゥエの動きが完全に白狼紫雷号に伝わっているのである。
「あの……それ、身体の線が出すぎでは?」
「全裸よりよっぽどましよ!」
そう吠えるドゥエであった。
「よし! これはいいわ。スピネル光帯剣を二本出しなさい!」
『それを柄の部分で結合でありますな?』
「そうよ! わかっているじゃない……!」
つまりは、ドゥエの獲物である双刃剣を、光帯剣二本を使って再現したのである。
「よし、これで手数はこっちの方が多くなったわ」
「相手の方が三刀ですよ」
「なにいってんの姉さん。相手は三刀でも、刀身を振るったらそのまま回転しなくちゃならない。つまりは三振りね。でも、こっちは――」
双刃光帯剣をふるい、ドゥエ。
「――行きと戻りで計四振りよ」
『「えぇ……」』
アンとスピネルの声が、期せずして重なった。
「みていなさい!」
格段に動きのよくなった白狼紫雷号と、自律騎が正面から斬り合う。
最初の三振りを白狼紫雷号は難なく受け止め、弾き――空いた四振り目が、自律騎の膝部分を切り落とした。
こうなってしまっては、勝ち目がない。
自律騎はさしたるまもなく、切り刻まれ、爆発四散したのである。
「ふん、他愛もなかったわね」
ドゥエが大きく胸を張る。
「あのドゥエ……揺れています、よ?」
「どこみてんのよ姉さん!?」
□ □ □
『申し訳ありません、私は他の子にくらべて近接戦闘が苦手で――』
「謝るなって。そりゃこっちもいっしょだからな」
光帯剣一本で相手の斬撃をいなしながら、エミルはそう答えた。
『もう少し距離があれば狙撃で仕留めるのですが』
「それなんだけどよ。この荷電粒子砲、肩から外して撃つことは可能か?」
『連射は無理ですけど、一発くらいでしたら……』
「それじゃ、荷電粒子を光帯剣みたいに留めておくことは?」
『え、そんなことできるんですか?』
「できねぇわけないと思うんだが」
『ちょっとまってください。スピネルがくれた技術資料と照合します。……確認しました。できないわけではありません』
「よっしゃ、俺が合図したら、荷電粒子砲から刀身を出せ」
『もって数秒ですが、それでよろしいですか?』
「それでいい!」
いうが早いか、エミルは轟炎蒼雷号を前進させた。自律騎の一撃目と二撃目を、光帯剣で受け止め、弾く。
そして三撃目を……。
「いまだ、やれぇ!」
『はい!』
エミルの操縦により、轟炎蒼雷号は肩の荷電粒子砲を両手で持ち直した。
次の瞬間、砲口から光帯剣の数倍に及ぶ刀身が槍のように伸び、それが三撃目を弾く――どころか、そのまま勢いに任せて相手の体勢を崩す。
もちろん、そんな隙を見逃すエミルではない。
「もらったぁ!」
返す槍で弱点を貫かれ、自律騎は爆発四散した。
『うそみたい……』
あまりのことに、サファイアがそう呟く。
「いいや、現実だぜ?」
操縦桿から手を話さずに肩を鳴らし、エミルはそう答えた。
□ □ □
「ええと……」
アリスが少し困った様子で報告する。
「リョウコさん、アステルさん、ドゥエさん、そしてエミルさん、ほとんど時間差なしで、自律騎を撃破しました」
「了解です……さすがですね」
クリスも驚いた様子で、頷く。
「あとは、俺たちだけというわけだな」
さらに魔力を雷光号に供給して、俺。
『うおお!? オイラに雷の翼が生えたぁ!?』
正確には、雷の翼の形をした、推進器である。
これにより雷光号は前後左右に、不自由なく動くことができるようになったわけだ。
「総員、安全帯をしっかり確認してくれ」
正面に浮かぶ宝石の騎士となった光の零番をにらみ、俺は続ける。
「かなり、振り回すぞ」
おもしろかったら、ブックマーク、★評価をよろしくお願いいたします!




