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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十一章:一万年の、夢の終わりに

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第二七六話:変わらないもの、変わったもの。その全てを飲み込んで

前回のあらすじ

タリオン「ククク……ちったあ驚いたか人類ども! これがゲッ◯ーの力よ!」

マリウス「やめんか紛らわしい!」

 操縦桿を倒し込み、踏み板を踏み込む時の感触は、昔のままだった。

 設計はスピネルとのことだったが、過去の記録だけでよくもまぁここまで再現できたものである。

 各操縦桿の上部には武器を切り替える(ボタン)数字盤(ダイヤル)がある。

 指先から伝わるその感触もまた、あの頃とまったく変わらなかった。


「間違いありませんね?」


 クリスが、提督席で確認する。

 通信相手は、巨大魔王城の外にいる青の〇〇六番だ。


『ああ。盟主殿の中にあるなにかからの信号は、指示として最上位のものだ。一桁台の我々とて、抗うのが精一杯のものになる』

「了解しました。アリスさん、全艦に通達。現時刻をもって対象を『核』から『光の零番』と呼称します」

「了解しました。ただいまより対象を『光の零番』と呼称します」


 ――そう、変わったこともある。

 状況の観測と報告はアリスが、全体の指揮はクリスが執ってくれている。

 封印前は戦況を確認しつつ全体の指揮を執り、なおかつ自身の機動甲冑を動かすという複雑なことを俺ひとりでやっていたが、いまはこうして分散されることにより、操縦に集中できるのがありがたかった。

 また、何も言わないが機関の細かい調整は雷光号が行ってくれている。

 どうやら、その部分は光の零番の影響を受けないようになっているらしいのだが、それが非常にありがたい。

 以前は出力調整装置を戦況に応じてこまめに動かす必要があり、操縦に集中する近接戦闘時非常に苦労していたのだが、それが無くなったことによりとても戦いやすくなっていたからだ。


「マリウス大将、光の零番はある程度放置すると爆発するとのことですが、刻限はわかりますか?」

「骨格のさらに内側にある、結晶状の宝石をみてくれ。あれがいま、紅く光っているだろう」

「光っていますね」

「あれが徐々に橙、黄、白、青へと変わっていく。青になったらもう臨界だ。いつ暴発してもおかしくない」

「もしかして、温度が高くなっていっていく?」

「そうだ。青を越えた爆発は、雷光号でも至近でくらえばひとたまりもない。通常の艦船であればいわずもがな、だ」

「なるほど、つまり青になる前に倒せと」

「そういうことだ――!?」


 両方の操縦桿を後ろに引き、同じく両方の踏み板を目一杯踏み込む。

 これにより雷光号は飛びすさるように後方へ跳躍、光の零番が突如繰り出した近接攻撃を回避した。


「光の零番、左右の手首より光帯剣を展開」


 アリスがそう報告してくれるとおり、光の零番はふた振りの光帯剣を構えていた。

 手首から先は崩れ落ちたが、その基部に光帯剣を仕込んでいたのだろう。

 指と手首がないため可動範囲は俺たちの雷光号や紅雷号四姉妹より狭いが、その配置だと――。


「光帯剣の刃が飛びます!」

「各艦、待避っ!」


 言われる前に気づいたのだろう、紅雷号四姉妹も雷光号と同じく難なく避ける。


「やはり、荷電粒子砲を兼ねていたか……」


 近接攻撃と遠距離攻撃をほぼ切り替えなしで行える、実にタリオンらしい無駄のない設計であった。


『マリウス、すまんが一対一(タイマン)はなしだ。こいつはやばい』


 轟炎(ゴゥファイヤー)蒼雷号のエミルから、通信が入る。


「ありがたい申し出だが、どうやらそうもいかないようだぞ……」

『――くそ、増援かよ!』


 玉座を背に構える光の零番の背後から、得体の知れない影が四つ現れた。

 もともと玉座の背後には俺の私室があったのだが、それを伏兵の待機所か、格納庫にしていたのだろう。


『なんだあれ、気色悪い(きめぇ)……!』


 エミルがいうのももっともである。

 それは、巨大な脚を三本、車輪のように縦にまとめた形状をしていた。

 あれがタリオンがいっていた、専用の自律騎なのだろう。

 そういえば、かつて量産型機動甲冑の案を各位に提出するよう指示したとき、他の者が装甲や居住性を犠牲にしたものを提案する中、タリオンのみがこのような奇怪な形のものを出してきたのを思い出す。

 中に搭乗員を乗せず、それでいて攻撃力と装甲をそのままの生産性を上げた場合、この形状が最適なのだという。

 たしか、それぞれのつま先に光帯剣を内蔵し、車輪のように回転しながら連撃を繰り出せるようになっているという設計だったか――。


『そういうことは、先にいえっ!』


 俺が伝える前に想定通りの攻撃を自律騎は行い、紅雷号四姉妹はそれぞれのやり方でそれを捌いていた。


『なんだこいつら、きめぇなりの割にはつええぞ!』

『というか、人体を模していないので攻撃が読めませんね!』


 鬼斬黒雷号のリョウコが叫ぶ。

 彼女のみ、自分の動きと完全に同期して動ける操縦装置を組み込んでいるが、その反動として現時点では全裸にならないといけないため、音声のみの通信であった。


「やむを得ません……! 各艦、一対一に持ち込んでください。光の零番は、当初の予定通り雷光号が行います。各艦、対象を撃破した場合は手近の僚艦を支援してください」

『あいよ!』

『承知しました』

『了解したわ』

『かしこまりましてよ!』


 紅雷号四姉妹が、四方に散る。

 それに対応するように、光の零番に左右に展開した専用の自律騎も、それぞれの獲物を求め、散開した。


「よし……」


 両手の光帯剣で刺突を交互に仕掛けてくる光の零番を光帯剣で捌きながら、俺は呟く。


「みせてみろ、タリオン。貴様の設計と自律化の性能とやらを!」


 呼応するように、光の零番が両手の光帯剣を交差させて構える。

 それはまるで、俺との――いや、俺たち雷光号との戦いを楽しんでいるかのようであった。


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