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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二六三話:二組の使者


「これを作ったんはだれや~!」


 『アーリマー温泉』の手前に作られる予定の屋台、そこで販売される簡単な食事をまとめて試食していたはずのナ・ンバが調理場に怒鳴り込んできたのは、提供が始まってすぐのことであった。


「あ、それウチです」

「チ・エ坊が作ったんかこれ! 合格!」

「おおきに!」


 南の魔族のこの会話のノリなるものが、いまいち理解できない俺である。

 てっきり口に合わないと文句をつけに来たのかと思ったからだ。


「めっちゃくにくにしておもろいやん、何を焼いたんや、これ」

「肉をさばくときに余る内蔵を使ったんですよ」


 チ・エの代わりに俺が答えた。

 なぜなら、内臓を使うように進言したのは、他でもない俺なのだから。


「なんや、マリウスが考えた料理なんか」

「ちゃうで。マリウス兄ちゃんはにこみかんがえたんやけど、それ、こっちやとあつすぎやから」


 そう、南の気候では煮込みは少々あわなかった。

 そもそも風呂上がりに小腹を満たすための屋台である。

 そこで熱い内臓の煮込みを食べて汗をかいては本末転倒であった。


「せやから、やくことにしたんや」

「なるほどなぁ……」


 手に持っていた食べかけの串をしげしげとながめて、ナ・ンバは頷いた。

 作り方は、時間がかかるものの簡単である。

 まず、肉から切り離した内臓を切り、内外をよく洗ってから長時間下茹でする。

 このとき、野菜の切れ端、特に匂いの強いもののそれを一緒に煮込むと、内臓特有の臭みをより効率よく減らすことができる。

 これが終わった後、煮込みの場合は調味料で再び長時間煮込むのであるが、チ・エはそれを次のように変えた。

 串を用意して下煮を終えた内臓を刺し、濃いめの調味料をたっぷり塗った上で、弱火でじっくりと炙ったのである。

 これにより、煮込むよりも早く調理ができ、しかも串を直接手に持つことにより、歩きながらでも食べやすいという利点が付与される。

 そのチ・エの機転に、俺は内心驚いてばかりであった。


「で、なんで内臓使(つこ)うたんや」

「やすいからやて」


 そう。仕込みで時間がかかるものの、調達そのもののの費用は限りなく安い。

 そもそも、この地方では内臓は捨てていたからだ。

 これで、チ・エのような子供でもお小遣い稼ぎができるだろう。

 そう考えていたのだが、まさか改良されるとは思っていなかった俺である。


「値段も安うて、しかもよぉ噛まんとあかんから腹にそこそこ貯まる――ふたりとも、えらい考えたな。それで、これなんて名前や?」

「それなんですが、まだ決めていなくて」


 魔王城では臓物煮込み、略して臓煮(ぞうに)と呼んでいたが、調理法が違う以上そうはいかない。


「ほな、放るもん焼きいうのはどうや?」

「放るもん?」

「うちらのことばで、すてるもんゆういみや」

「なるほど。でも、捨てるものを焼くというのはちょっと……」

「それだけの意味やあらへん! 串を放り出すほど美味いいう意味もあるんや!」

「な、なるほど……」


 やはりどうも、南に魔族のノリというものは、理解しがたいところがある。

 ともあれ、チ・エの『放るもん焼き』は大成功を収め、半神猛虎団の新たな名物となったのであった。






「大成功だな」


 『アーリマー温泉』の盛況ぶりを宿の窓から眺めつつ、タリオンはそういってくれた。


「試作品も好評だったが、本番でここの民からも公表というのは大きい。これなら、陛下も喜んでくれるだろ」

「うん」


 チ・エからもらった『放るもん焼き』をかじりながら、俺。


「書類はもらったか?」

「そっちも滞りなく」

「よし、それじゃそろそろ戻るか」

「――うん、そうだね」

「マリウス?」


 俺の返事で、なにかを感じ取ったのだろう。

 タリオンが怪訝な表情で俺を見つめる。


「どうした? まさかここに残りたいとか言うんじゃないだろうな?」

「いや、ちがうよ。ただ……陛下に、ここに来てもらいたいなって」

「――なるほどな」


 ここは暖かい。

 水も豊かにあり、なにより食料が豊富だ。

 そのおかげか、子供達も元気に走り回っている。

 この風景を、陛下にもお見せしたかったのだ。


「いいんじゃないか? 戻って、陛下に報告して、それで同盟がちゃんと締結されたらお連れすればいい。問題は大陸中央の突破だが、南北から同時につつけば、ある程度は楽になるだろう」

「そうだね。僕もそう思うよ」


 元教師だったせいか、ああみえて前の陛下は子供好きだ。

 きっとここの風景をみて目を輝かせるにちがいない。


「それじゃ、今のうちに荷物をまとめて、明日にでも出発――」


 そこで、俺たちの泊まる部屋の戸を、誰かが叩いた。


「おつかれのところすんません。正使マリウスはん、副使タリオンはん」

「はい」


 慌てて『放るもん焼き』を飲み込み、俺は返事をする。


「お客さんがおみえですわ。一階の酒場まで降りたってください。一番奥の卓におりますわ」

「わかりました」


 返事はするが、タリオンを顔を見合わせる。

 俺たちに客?


「半神猛虎団からかな?」

「違うな。それならどこそこの隊の誰それとちゃんと伝えるはずだ」

「だとすると――」

「ああ」


 腰の帯の背中側に短い杖を差し込みつつ、タリオンが続ける。


「うちらの方から、本来無いはずの連絡だ。気をつけろ」




 前の陛下から、増援はないと断言されていた。

 それ故、こちら側から連絡というのはただ事ではない。

 俺の方も帯剣をし、ふたりで慎重に下の酒場に降りる。

 そこにいたのは――。


「第二機動部隊の隊長!?」

「おう、タリオンにマリウス、おつかれさん!」


 機動部隊とは、騎兵のみを揃えた俺たちの軍の中でも、ひときわ俊足の部隊だった。

 全部でよっつあり、第一が正面、第二が右翼、第三が左翼を担当し、第四が遊撃となる。 まれに第四が偵察部隊の手伝いをすることがあったが、第二機動部隊がそれをすることは、本来あり得なかった。


「なにかあったんですか……?」


 緊張を込めて、俺が訊く。

 すると第二機動部隊の隊長は大きく笑って、


「すまんな、少し心配させたようだ。なに、知らせはあるが、吉報だ」

「というと?」


 はりつめた表情のまま、タリオンが先を促す。


「おまえたち、聞いて驚くなよ? なんと、人間側の大国と、和睦が成った。しかも相手は三国合同だ」

「和睦!?」

「三国合同!?」


 俺とタリオンが、素っ頓狂な声を上げる。


「おう。そうだ。おまえたちが旅立って数日後くらいかな? 人間ども――いや、もうどもといってはならんか――の方から使者が来てな。この不毛な戦を終わらせるために和睦をしたいと」

「三国合同というのは?」


 油断なく、タリオンが訊く。


「知っての通り、人間はいくつかの国にわかれているが、そのうち大陸中央の特に大きな国がみっつあるだろう? そこが合同で、使者を送ってきたというわけだ」

「陛下は?」

「もちろん受けたよ。だから、俺がここまでこうやって来ることができたんだ」


 なるほど、機動甲冑でどうにかしのげた中央突破を、普通の騎兵装備でくぐり抜けられたのはそういうわけか。


「でもおまえたちもすごいじゃあないか? ここの魔族と同盟を結べたって? だとすると、この大陸の趨勢(すうせい)は決まったぞ。六割以上が俺たちの勢力下ということなんだからな!」


 そういって、隊長は俺の肩を叩く。

 たしかにそれは、いいことなのだが……。


「それで、陛下はいまどちらに?」

「大陸中央で、調印の準備だ」

「念のためお聞きしますが、軍備は?」


 タリオンが、心配そうに訊く。


「安心しろ、陛下自ら指揮する近衛部隊と、第一機動部隊、それに第一と第二の装甲魔道部隊がいる。加えて陛下御自らがいるのだ。めったなことは起こらぬよ」


 装甲魔道部隊とは、重装甲の鎧を着込み範囲魔法を連発する、いわば主力部隊である。

 しかし、本来第四まである部隊を半分しか用意していないというのは……。


「はっはっは! マリウスもタリオンも考えすぎだ! うちの偵察部隊が裏取りしたんだ、そうそうなことは起こらん――」


 そこで、酒場の入り口が騒がしくなった。

 直後、扉が開け放たれ、そこに黒い服を着た立派な体格をした南の魔族が駆け込んでくる。


「えらいこっちゃ、えらいこっちゃで!」

「あなたは――テ・ツさん?」


 チ・エの父親で、どのような部隊かは知らないが、黒(シャツ)隊という部隊に所属指定はずだ。


「おうマリウス! えらいこっちゃや!」

「ど、どうしました?」

「いまそっちの急使が外壁に到着してな」

「いや、もういますけど……」


 俺もタリオンも、第二機動部隊の隊長も、怪訝な表情を浮かべる。

 どういうことだ? なぜ俺たち宛てに使者がまた来る?


「いや、そいつな――矢傷だらけなんや」


 文字通り、俺の呼吸が一瞬止まった。

♪雷光号 雷光号

♪希望のフネ

♪雷光号 雷光号

♪未来を目指す

クリス「乗って! 安心! 動いて! 安全! 跳べる! 踊れる! 雷光号ーぅ!」


アリス「船団アリスは、魔王技術による医療事業を目指します♪」


エミル「怒られてもしらねーぞ」

魔王「本当それな」

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