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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二五九話:ミナミの魔族


「というわけで――」


 そうはいうが、いつものように前置きの説明はせずに俺とタリオンを見渡して、前の陛下はいつもの調子で告げた。


「マリウスくんとタリオンくんに特命! 大陸を南下して、南部の魔族と友好を結んでほしいの。現在はお互い存在は知ってるなーって感じなんだけど、これを正式な相互不可侵にしてくれれば任務完了ね。最高を目指すなら、同盟かな?」

「最高というなら、そこは従属させる――では?」

「いや、むりむり。ありとあらゆる点で無理筋です! そもそも距離がありすぎるから、連絡を取るだけでも、人員やら経費やらがかかるから!」


 なるほど。いわれてみれば、確かにそうである。

 書物で学んだ、飛び地状態の領土管理はとてつもなく難しいというのはそういうことか。

「だから、相互不可侵。あわよくば同盟ってこと」

「恐れながら陛下、ひとつよろしいでしょうか?」


 恭しく頭を垂れながら、タリオンが言上する。


「どうぞどうぞ」

「では……この大陸を横断するには、人間どもの領土をどうしても突っ切る必要がございます。その問題はどのようにお考えなのでしょうか?」

「うん、そこなんだけど。強行突破」

「強行突破」

「マリウスくんの機動甲冑で」

「機動甲冑で」


 確かに俺とタリオンの魔力なら、数ヶ月は余裕で連続稼働できる。

 だからといって、それだけで行けといわれるとは思わなかったが……。


「あれ、わたしが全力で殴っても少しへこむだけだったでしょ? ってことは、人間の大砲くらいなら余裕で耐えられるんじゃない?」

「仰るとおりですが……」


 もともと騎兵が持つ楯以上の強度を設計に盛り込んである。

 が、だからといってその耐久性を実地で試験するつもりは、さらさらなかった。

 というかへこむ? 外装を全力で殴って――へこむ?


「もちろん、いまのままだと成功する確率は低いわ。だから――」


 あらかじめ作成しておいたのだろう、目録を手渡しながら、前の陛下は得意げに続けた。


「お城の資材を好きに使ってかまわないから、できる限りの改造を許可します! やるとしたら、長距離遠征用ね!」

「それならせめて、増援をもう少しいただきたいのですが……」

「そうはしたいのだけど……ちょっと向こうさんの様子が、ね」


 向こうさんとは、人間のことである。

 確かにこのところ、小競り合いの割合が増えているのが俺も気がかりであった。


「だから、少数精鋭、具体的にはマリウスくんとタリオンくんに行ってほしいわけ。はいこれ向こうへの親書」


 普段の作戦指示書と全く同じ感覚で、前の陛下は一通の手紙を手渡した。

 みればしっかりと蜜蝋で封がされている上、魔王軍の印璽が押されている。

 いまならわかるが、国家機密級の重要文章だった。


「それじゃ、出発は――三日後ぐらいでいい?」

「……はい。それでお願いします」


 早すぎても困るが、遅すぎてもどうしようもない。

 機動甲冑はまだまだ発展途上で、あれもこれもと改造していては、キリがないからだ。


「よし、それじゃ解散!」




「それで、どうするんだマリウス?」


 二騎の機動甲冑を前に、タリオンがそう訊いてきた。


「とりあえず、防御力の強化かな。それと、居住性の向上」

「居住性?」

「洒落にならないくらい長時間乗るんだ。いまのままだと――ひどいことになるよ?」

「なるほどな……あとは食料やなんやらを積むための、積載能力ってことか?」

「まさにそれだね。背中に余裕があるから背嚢みたいにしようと思うんだけど、どう?」

「まかせるよ。俺の方は技術はさっぱりだからな。――っていうか、もういっぱしの技術者だな」

「ありがとう、タリオン」

「礼を言うのはまだ早いぜ。今度の任務を成功して、陛下に認めてもらわないとな」

「そうだね……」


 このとき、俺が取るべき改造は、通信機能の充実だった。

 例えば現在のように、中継装置を用いて魔王城と常に連絡がついているようにしていれば、あんなことは起こらなかったのかもしれない。




「それじゃ、気をつけて行ってきてね」

「はい。吉報をお待ちください」

「うん、期待してる期待してる」


 早朝、前の陛下直々に見送られて、俺たちは旅だった。

 最初の頃は魔王軍の領土であり、その後は魔王軍でも人間の国の領土でもないいわゆる緩衝地帯を抜けるのでのどかなものであったが、その後になると、そうはいかない。


「ああああああああ!?」


 軍事力の高い人間の国の国境を掠めたときは、猛烈に撃たれた。

 おそらくこちらを大鬼(オーガ)族と誤認したのだろう。

 本来ならば攻城の砲弾を、雨あられと撃ってくる。

 幸い、両方の肩に増設した大楯と、強化した装甲、そして多少の損傷では止まらなくなった駆動系により、擱座することは免れた。

 とはいえ、猛烈に撃たれると――うるさいことこの上ないし、生きた心地もしない。


「タリオン、無事だろうな……?」


 当時は通信機はおろか、発光信号機もなかった上、視界が硝煙で覆われるほどの砲撃の嵐である。

 その無事を祈って、俺はひたすら機動甲冑を走らせ続けた。


「し、死ぬかと思った」

「お互い無事でよかったよ、タリオン」

「――すまんマリウス、耳鳴りがひどくて聞き取りにくい。今度は直撃食らったときの静音性の向上、頼むぞ……」


 かくいう俺も、似たようなものだった。

 鼓膜から奥の脳に向かってしびれたような感覚が残り、とにかく音の聞こえがめちゃ食っちゃになっている。

 話し声はささやき程度にしか聞こえないのに、風の音や、それに併せて砂利が飛び地面に当たる音などが、妙にうるさく聞こえてしょうがない。


「それで? もうそろそろ着くころだよな?」

「地図が正しければね……」


 二騎の機動甲冑の間に布の天井を張り、天幕がわりにした野営地で、俺は星の測量と照らし合わせながら、地図上の現在地を探す。

 このあたりは本来深い森林のはずなのだが、人間達と一戦でも交わしたのか、倒木が目立つ荒れ地となっていた。


「うん、あと半日くらいかな」

「そうか……そんじゃ、今日はいつも通りかわりばんこで寝て、明日出発といこう――」


 そこで、一本の矢が俺とタリオンの間をつっきっていった。

 俺は反射的に剣を抜き、タリオンは杖を構える。

 機動甲冑に飛び乗る時間は、残念ながらない。


「誰だ!」


 明かりを消しながら、誰何(すいか)する。

 俺もタリオンも、暗視の魔法が使えるので問題はない。


「誰だもなんも、ないやろ」


 矢が飛んできた方向から、小さな一対の光が浮かんだ。

 その数、ふたつ、よっつ、むっつ、やっつ……!


「自分ら、ここがウチら半神猛虎団(はんしんもうこだん)の領地やと知ってのことやろな?」


 松明に火がつけられる。

 気づけば、俺たちは完全に包囲されていたのだ。

 そしてその正面には――。


「はん、全鎧着おった大鬼(オーガ)族なんつう珍しいモンがおるとおもたら、でくの坊かいな」


 半裸の女性であった。

 正確にいうのであれば、身体の要所要所のみ(・・)を鎧で覆った、魔族の女性であった。

 ただ、その特徴は俺たち北の魔族とは大きく違う。

 彼女の耳は、まるで猫のそれのように、頭上に突き出ていたのだ。


「これだったら、ウチらでフルボッコやな、なぁみんな!」

『ほんまやで』


 取り巻きの、彼女と同じ猫耳の魔族達が、一斉にそう答えた。


『マリウス。なんなんだこいつら』


 タリオンが、念話で話しかけてくる。

 いうまでもなく、彼女たちが大陸の南に住む魔族であろう。

 だが、タリオンがいいたいことは、それではない。


『わからない。文化が違いすぎるから……!』


 この地で、彼女らと同盟を組むのは、前途多難に思えてくるのであった。

今週のNGシーン

「ウチがミナミの魔族だっちゃ!」

「やめてくださいお願いします」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで名前だけだった半神猛虎団が、ついに出た! 半神の領地に、機械の巨人が乗り込んだらそりゃあ攻撃されますよねぇ
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