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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二四七話:海の上の懲りない面々

 機動要塞『シトラス』医務室。


「いた、あいた、いたたたた……!」


 直前までの凜々しさはどこへやら、リョウコは涙目になって医務室のベッドでのたうちまわっていた。


「全身、筋肉痛ですね」


 医者と一緒に診察を手伝っていたアリスが、短く結論づけた。


「ふふふ……筋肉痛だけなら、大成功ですよ……前は肩の関節が両方とも外れて大変でしたから」


 額に脂汗を浮かべながら、得意げにリョウコは答える。


「それはもう、秘奥というよりも封印奥義といった方がいいのではないか?」


 精神力を限界以上に研ぎ澄ませ、肉体の限界を超えた動きをするなど、魔王であった俺ですら出来ない芸当だった。

 おそらく、俺以上に魔法に知識のあったタリオンでも無理であったろう。


「最後の手段だからこそ、秘奥なのです。封印してしまっては、いざというとき使えません。現に、勝てたのだからいいのではないですかあだだだだだ!?」


 リョウコが身をよじったのは、筋肉痛を我慢できなくなったからではない。

 エミルがリョウコの太腿を指でつついたからだ。


「ちょっと、エミルさん! なにするんですかぁ!」

「いやま、前の肩が外れたときの事を思い出してな」


 エミル曰く、前に使ったのはフラットとルーツとの小競り合いの時で、その際フラットは全員が全治二週間の打撲傷を負ったのだという。

 代わりに、リョウコは数ヶ月間、まともに刀を振るえなかったらしい。


「これで終わりって訳じゃねぇんだ。前よりましたぁいえ、ちょいとばかし気をつけな」

「そういうエミルさんだって、低温やけどだらけじゃないですか」

「――ちっ、バレてたか」


 いつものツナギを着ているためわかりづらいが、轟炎蒼雷号が青の〇一〇と荷電粒子砲を撃ちあった際、操縦室内の温度が極端に上がっていたため、身体の各所にやけどを負っていた。

 アリスいわく、痕は遺ることがないそうだが、それでも軟膏を塗り、包帯を巻いていても、リョウコと同じく痛みに悩まされているはずである。


「ふふふ、皆さん一度船団アリスに下がった方がいいのではなくでゴハァッ!」

「おめーが一番下がれよ」

「というかこれ寿命削っていません?」


 エミルとリョウコが心配するとおり、ステラ紅雷号で急激な圧力をかけ続けたアステルは、内臓がいくらか傷んでいるようであった。

 アリス曰く、できれば後方に下がって欲しいとのことであったが。


「なにを言っておりますの」


 口許を丁寧にハンカチで拭き(そして従者のアセスル大佐――中佐から大佐に昇進――に素早く交換してもらい)アステルは不敵な笑み浮かべて続ける。


「ここで脱落し決着をみることができないなんて、末代まで後悔しますわよ!?」

「それな」

「わかります」


 わかるのか。

 そういいたい俺であったが、アリスもクリスも、反論はしなかった。

 つまりこの場にいる皆が、俺とタリオンの決着を見届けたいのであろう。


「とりあえず、だ。残存勢力は、限りなく少ないという結論がでている。故に、リョウコもエミルもアステルも、無茶は決してしないように」

「はい」

「おう」

「わかりましたわ」

「でないとアリスが布団で簀巻きにして、輸送艦にねじ込むそうだ」

「なに」

「それ」

「こわいですわ!」


 わかってもらえて、ありがたい話であった。


『あー、そっちの話が決着したところで悪いけどよ、大将』


 それまでじっと待っていたのだろう。雷光号がおずおずと通信機越しに切り出した。


『鹵獲したアレ、どうするん?』

「ああ……あれか」


 撃破した白と黒の九三は、タリオンが造った俺の思考を再現する装置を完全に破壊されたせいか、沈黙を保っていた。

 現在は武装解除の上、青の〇〇六、〇一〇ともども機動要塞『シトラス』の船渠甲板上に抑留している。


「一度分解して検証したいが、それはすべてが終わった後だろうな」

『ええの? 大将なら、ぱっぱと直せるだろ?』

「直せることは確かだが……直してどうする」


 現状、使い道がない。

 ましてや紅雷号四姉妹と連携が取れているアステル達も負傷している状態である。

 そこに一般の将兵を当てるのは、少々危険であった。


『いや……ほら……』


 いいにくそうに、雷光号は続けた。


『それ、大将の乗機じゃん? それだったらオイラから乗り換えるのもアリかなって――』


 ……ああ。

 そういうことか。


「雷光号」

『お、おう』

「俺の乗艦は、貴様だ。貴様以外には、ない」

『大将……』

「たとえ元の乗騎が見つかり、それが完全な状態であっても、な」


 魔族を率いていた、魔王である俺は、もういない。

 ここにいるのは、仲間の船団を率いる、大船団長としての俺だ。


『すまねぇ、変なこときいちまったな』

「いや、いい。それよりも、もう少しでタリオンの本拠地だ。警戒を怠るな」

『おう! まかしとけ!』


 推測通り、残存兵力はもう無いだろう。

 兵力を逐次投入するほど、タリオンは愚かな指揮官ではない。

 で、あるから――。


 あとは本拠地で、タリオンと直接会うだけであった。

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