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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二四四話:白と黒の九三

『あたんねぇぞぉ!』


 エミルが絶叫した。

 即座に展開した水雷突撃艦隊が攪乱のために雷撃を敢行したのだが、百戦錬磨の水雷艦隊にもかかわらず、一発も当たらなかった。

 相手はたった一騎である。

 しかしすべてが、巧みな横方向の動きで避けられたのであった。


『水雷突撃艦隊、下がりなさい!』


 待避したエミルの艦隊に代わり、ドゥエの装甲前衛艦隊が殲滅射撃を行う。

 多数の点で攻めたエミルに代わって、広範囲な面で制圧しようとしたドゥエである。

 いかに素早い動きであっても、面制圧にはかなわないはずであるが――。


『跳んだぁ!?』


 いままで相手してきた機動甲冑の数倍の規模で、それは跳んだ。

 雷光号の分析では出力は同程度のはずであったが、推力の方向を綺麗にあわせ、一瞬だけ機関を最大出力でふかすことにより、それは可能であった。


『うかつでしたわね! 空中に跳んでは良い的ですわ! 機動遊撃艦隊、対空射撃はじめ――!』


 ずっと隙をうかがっていたアステルが、ここぞとばかりに対空砲火を開く。

 彼女の言うとおり、跳躍とは本来追撃されないことを前提に行うべき行動であり、砲弾が飛び交うような場所でやってしまったら最後、単純な動き故に軌道を読まれ、蜂の巣になるのがおちだった――はずだった。


『は? 砲弾を斬――近接信管!』


 それは事もあろうに、直撃する砲弾を手にした剣で一刀両断にした。

 続く二発目、三発目も同様である。

 気付いたアステルが直撃ではなく近づいただけで炸裂する砲弾に切り替える。

 しかし――。


『自分の砲撃で姿勢と落下位置と速度を変えた!? あんな空中機動――デタラメですわよ!?』


 ありだろう。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その間にも、それは背中から肩へと移動させた長口径の荷電粒子砲でこちらに砲撃を浴びせてくる。


『ちっ! なんて嫌らしい砲撃なのよ!』


 白狼紫雷号がそれを防ぐが、その狙いは旗艦雷光号と、その背後に位置する機動要塞『シトラス』だけを正確に狙っていた。


「おそらくあと何発か試してから、連射してくるはずだ」

『ちょっと! 連射されたらもたないわよ! ただでさえ一発一発が重いのに!』

「――重い?」


 出力は、青の〇一〇ほどではないはずなのだが。


『弾の密度っていうのかしら? あるいは炸薬? それが多いのよ!』


 なるほど、つまり荷電粒子の収束率が良いということなのだろう。

 感心している場合ではない。

 そんなものを連射されでもしたら、白狼紫雷号の『聖女の二重奏』が予想より早く持たなくなる可能性が高い。


「アリス、青の〇〇六と〇一〇に繋いでくれ」

「了解です――どうぞ」


 残存戦力については話さないといっていた二騎だが、この際やむをえない。

 いざというときは、紳士協定を破ってでも聞き出すつもりの俺であった。


「問おう。あの白と黒の機動甲冑は――俺の……魔王騎だな?」

『その通りだ』


 意外にも、青の〇〇六が素直に答える。


『出てきたからには、とぼけても無駄であるからな』

『ついでにいうと、あれ――『白と黒の九三』には、我らのような自我がない。それ故数字が大きいが、侮らないことだな』

「――青の〇一〇、それはどういう意味だ」


 〇〇六を引き継いでそう呟く〇一〇に、俺は意識的に声を低くして問う。


『なに、あれに自我を載せるのを盟主殿は嫌がってな。その代わりに盟主殿直々に長時間をかけて組み上げた、元搭乗者の記録を、事細やかに再現できるようにしているらしい。その原理は、さっぱりわからないがな!』


 ――やはり、そうか。

 やはりかの機動甲冑の動きは、封印される前の俺そのものであったのだ。


『そうだろうと思っていたわ』

『生身での演習で感じた、強い圧が一緒だもね』

『つまりは、強敵ってことだよ』

『どうでもいいから早くなんとかするでありますよ! 『聖女の二重奏』、あと二〇発ほど食らうとしばらく使えなくなりますゆえ!』


 紅雷号四姉妹は、なんとなく気付いていたらしい。


『サファイア、あなたの狙撃でいける?』

『無理です、姉様。私はまだ直感で狙うことが出来ません』

『スカーレット姉さん、あなたの飛行装置は?』

『あれは高速移動にはいいけど、あそこまで高機動の相手だと動きを読まれて狙われるのがオチだわ』

『じゃあ――』

「もういいだろう。俺が出る」


 オニキスを遮って、俺は操縦席から立ち上がった。


「いけませんマリウス大将。旗艦雷光号をいまここで最前線に出す訳にはいきません」

「ちがうぞ、クリス。雷光号ではなく、俺自身が出るといっているんだ」


 タリオンの本拠地でならともかく、今この場で雷光号を出す訳にはいかない。

 ついでにいうと、封印される前の俺の騎体に無傷で勝てる自信がない。

 ゆえに、生身での対決しかないだろうと、俺は結論づけていた。


『――いや、待って欲しいな。父さん』


 俺に言葉を遮られた、オニキスが反駁する。


「――オニキス?」

『……ボクに手がある。紫雷号、この前仮で組み込んだ、あれを使ってもいいかい?』

『頼まれていたアレでありますか? ……まだ未完成でありますよ?』

『例の接続だろ? 大丈夫、ボクの指揮官はそんなこと気にしやしないさ』

『ならば、起動信号を送るであります。――いそいで! あと五発でこっちは限界でありますよ!』


 ――いったい、なにを造った?

 紫雷号が自分の武器を改造できることは知っている。

 接続というからには、なにかの操縦装置であると思うが。


『起動信号受理っと。うん、これならいけるね。ボクの指揮官――リョウコ元帥!』

『はい、なんでしょうか』


 揚陸戦艦『鬼斬改二』の艦橋から、リョウコが答える。


『仮の話だけどさ。ボクらの創造主、マリウス大将と白兵戦で戦ったら、勝てる?』

『――互角、ですね。なにかの偶発的な要素で、勝負は決まるでしょう』


 リョウコは、こともなげに答えた。


『ふぅん……じゃあさ。昔のとうさ――マリウス大将なら?』

『いまに至る経験が蓄積されてない状態ということでしょうか?』

『うん、そう』

『それなら、勝てます』


 リョウコは、再びこともなげに答えた。

 封印される前の俺に勝てると豪語するのは、あの忌々しい勇者とやら以来であるが、いまはそれを指摘している時間がない。


『よし、それなら合体だ。リョウコ元帥はそのままボクの方へ』

『了解です。しかしどうやって?』

『それはみてのおたのしみさ』


 そう答える間に、鬼斬改二は前半部分が離脱していた。

 そして後半部分が黒雷号と合体し、鬼斬黒雷号となる。


『これは――! 操縦席の形が!』

『すごいだろ?』


 操縦席内の映像を、黒雷号はわざわざ送ってきてくれた。

 普段あるべき座席の代わりに、円筒形の装置がある。円筒の筒の部分は表示板になっているようで、背中部分には背もたれの代わりに、腰を固定する架台が据え付けられていた。

『操縦者の動きを、一挙手一投足正確にボクの駆動系に組み込める装置だ。つまりリョウコ元帥、貴方はこれで機動甲冑に対し白兵戦を仕掛けることが出来る』

『それは――素晴らしいですね……!』


 リョウコの顔に、不敵な笑みが浮かび上がった。

 彼女が得意とする剣の腕を直接機動甲冑、それもかつての俺の動きを再現したものと戦えるというのだ。

 自然、血が騒ぐのだろう。


『察するに、その円筒形の中に入り架台と腰を固定させればいいのですね。では早速――』

『ごめん、そのままだと搭乗者の動きを正確に組み入れることが出来ないんだ。だから――』

『だから?』

『着ているものを、全部脱いでくれ』

『は?』


 俺の目が点になった。おそらくアリスも目が点だろう。

 エミルも、アステルも、ドゥエも、そしてリョウコだってそうに違いない。

 そしてクリスは、早くも赤面していた。


『改良はこの戦いのあとすぐにでもやるさ。だからいまは――全裸で乗ってほしいんだ!』


 いや、ちょっとまて。


『――わかりました! 今は火急の時! 一時の恥は掻き捨てましょう!』


 リョウコが、制服の上着を脱ぎ捨てる。


「映像、切りますね?」


 どこか冷たい声で、アリスが黒雷号からの映像を切断した。

 ……いいのだろうか、こんな切り札で。

今日のNGシーン

『自分の砲撃で姿勢と落下位置と速度を変えた!? あんな空中機動――壱百万点ですわー!』

「やめろ。やめなさい」

「なんでですのー!?」

「作者が怒られるからだ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 操縦者の動きを、一挙手一投足正確に組み込んで戦うのって格好良いですよね! 合体パターンで色々な戦術が取れるのが格好良くて楽しいので、とても好きです! [一言] 全裸になった後、からだにぴっ…
[良い点] 青の006と010が出たなら、本命の白093が出ますよねー しかし機体は魔王のものだったのかー 対抗出来るのは赤い機体……ではない、黒!? 砲撃戦でなく、格闘戦で決着をつけようとするのは…
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