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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二四三話:過去がやってくる


「ですから! (わたくし)に先行偵察を!」

「何度も言いますが、駄目です」


 わざわざ旗艦雷光号に訪れてまで要望するアステルのそれをクリスが却下するのは、これが三回目になる。

 艦隊は順調に北進中であり、気温も随分下がってくる中、天候も徐々に悪くなってきた。

 それ故、ステラ紅雷号による空中からの偵察をアステルは何度も具申してきたのだが――。


「そもそも、却下する根拠はおありですよ!?」

「――ありますよ。先の空中戦で無茶をして、内臓を(いた)めましたよね?」

「ぐっ……!」


 事実だった。

 あの空中戦からの帰還時に、口許に血を拭った跡があったのを俺とクリス、それにアリスは見逃さず、軍医に確認したところ、急激な加減速の繰り返しにより、内臓の何処かが傷ついているという報告を受けていた。

 もちろん、そんな状態でアステルを空に上げるわけにはいかない。


『あの……あたしが、無人で偵察に行くというのは?』


 通信機越しに遠慮がちな声で、ステラ紅雷号がそう提案する。


「残念ですが、それも却下です。無人での飛行は今後に悪影響を及ぼしかねません」

『あ――そうですね。すみません……』


 そう、これを許してしまうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうなってしまうと、艦隊そのものの質は、遠からず失墜するだろう。

 クリスが恐れていたのは、まさにそれだった。

 同時に、俺への依存も避けたいという思惑があるのだろう。

 たしかに無人の艦隊なら、死者が出ることはあるまい。

 しかしなんらかの事情で俺が船団から離脱したとき、その船団の戦力は急降下することになる。

 そこまで考えなければならないほど、最高司令官の責務というものは重いのだ。


「もちろん、アステル元帥以外の誰かを乗せることなど、もってのほかです。貴重な空中戦力を、喪いかねませんから」

「それってつまり、(わたくし)が一番空戦に強いということですの?」

「それ以外の意味はありませんが?」

「そ、そうですの……」


 アステルは、あっさりと引き下がった。

 ――俺もそう教わり、そしてその能力があると褒められたものだが、部下をたらしこめるのも、最高司令官の資質のひとつである。

 クリスはやや無意識に使っているようであるが、強者揃いの船団アリスにおいてはその方が良いのかもしれない。


「既にしていると思いますけど、代わりの偵察はされていて」

「それは、もちろん」


 クリスに代わって、俺が答える。


「魔力を編み込んで造った鳥を、三羽を三方向、計九羽を飛ばしている。ほら、このように」


 操縦室正面の表示板に、計九枚の映像が表示される。

 傍らには、それぞれが放射状に飛んでいる飛行経路が、光点と軌跡によって表示されていた。


「なるほど。速さと高度はステラ紅雷号が勝りますが、こちらはとにかく数で押すということですのね」

「そうだ。タリオンの本拠地――ぜ、絶海虚構船団ヴォイドの位置は、だいたいが掴めている。それならば、あとは隠しているとおぼしき戦力をあぶり出すだけだからな」


 タリオンの本拠地を口にする際、少しだけ噛んでしまったのは許して欲しい。


「おそらく、寡兵でしょう?」

「たぶん、な。でなければタリオンは戦力を逐次投入する無能な首脳となってしまう」


 あるいは、そんなものはまったくなく、こちらに無駄な戦力を割かせている可能性もある。

 どのみち嫌がらせにかけては俺以上の実力を持っていたタリオンだ、なにが来てもおかしく――?


「四番です!」


 クリスが叫び、アリスが四機目の偵察機からの映像を拡大する。

 今一瞬、遠くに機動甲冑らしき影が――。


「……一瞬で墜とされましたわね」

「ああ」


 おそらく、狙撃の類だろう。

 青の〇一〇ほどではなかったが、それでも高出力の荷電粒子砲による一撃。

 鶏を大剣で屠るようなものであったが、それでもこちらを警戒させるのには、十分であった。


「のこりをすべて、四番のいた位置にあわせる。クリス、それでいいな?」

「ええ、かまいません。あとアリスさん、全艦隊に通達。十一時の方角に敵影あり」

「了解です」

「では、(わたくし)は戻りますわ。海上であれば、指揮を執ってもよろしい――でしてよね?」

「もちろんです」


 クリスの許可に頷いて答え、アステルは雷光号の真横に接舷していた紅雷号に、板も網も綱も使わず、軽々と飛び移った。

 同時に紅雷号が雷光号から素早く離れ、一気に加速していく。

 どうも、あの空中戦からアステルと紅雷号の連携は、一層深まっているようであった。


「敵影捕捉! 一騎の模様です」


 アリスから報告が飛ぶ。


『出力反応、捕捉したぜ。だいたいオイラ達と同じくらいだ。青の〇一〇みたいなデタラメじゃねぇ』


 確かに青の〇一〇は、両肩に担いだ荷電粒子砲に、それぞれ本体と同じくらいの機関を積み、通常の三倍ほどの出力を確保していた。

 今度の新手はそういうものではないようだが、それでも狙撃の腕をみるにかなりの実力者であろう。


「クリス、何機か喪失するが――近寄っても構わないな?」

「ええ。そうしてください。間もなく艦隊の先鋒が、先ほどの狙撃の射程内に入ります。それまでに、様子を見た方が良いでしょう」

「了解した」


 残りの八機で、半円状に取り囲む。

 あと少しで、細かい形状が――。

 こまかい、形状が。


「な……」


 思わず、声が漏れてしまった。

 その騎体は、白と黒の塗装を基調とし、要所に金と赤を施していた。

 機動甲冑には珍しい、白い大きな盾を左手に固定し、右手には抜き身の剣を提げている。

 そして背中には、折りたたみ式とおぼしき長大な銃身をもった荷電粒子砲を背負っていた。

 今は発射状態でないのか、その銃口は天を向いている。

 その装備は、おそらく追加したものであろう。

 なぜ、それがわかるのかといえば、残りはよく見た造形であったからだ。


「全艦緊急停止! クリス! 全艦緊急停止だ!」

「アリスさん、復唱不要! 全艦緊急停止!」


 アリスが通信機を通して叫び、全艦隊は静かに停止する。


「マリウス大将、あれはそんなにまずい存在なんですか……?」

「あの騎体の、盾をみてみろ」


 できるだけ感情を押し殺して、俺はそう答えた。

 その声はかすれていたが、こちらはもう取り繕う余裕がない。


「金の星がいつつ――元帥章!?」

「その真ん中に、赤い竜の横顔――」


 ――ああ。

 そうだった。いつだったかアリスが気にしていたので、俺は竜の意匠を教えていたのだった。


「つまりあれは、元帥の上、大魔(たいま)元帥の称号ですよね……」

「それって、たしか……」


 この場で唯一、大魔(たいま)元帥と同等の階級、すなわち守護元帥の位にあるクリスが、息を飲む。


「そうだ」


 かすれたままの声で、俺は答え合わせをはじめる。


「あの意匠はたったひとつの騎体にしか許されていない」


 魔王軍を統べ、その頂点に位置する騎体。

 雪のような白さと、夜のような黒さを併せもつ、戦う芸術品とまでいわれたそれは、


()()()――つまり、俺の元乗騎だ……」


 過去がやってくる。

 唐突に、俺の目の前に。


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