第二四一話:追討戦、開始!
どんなに周到に用意し、圧倒的な兵力差を確保できたとしても、戦況というものはひっくり返ることがある。
俺自身の経験談だが、戦略を三回連続で誤ると、それは起こりうる。
すなわち、
・勇者という存在を軽視し
・既存の戦略・戦術を見直さず
・最終決戦を回避しようとしなかった
我ながら情けない話だが、このうちどれかひとつでも対策していれば、我が魔王軍は戦況をひっくり返されることはなかった。
では、今回のタリオン軍はというと、
・空を飛べるという特性に対し、対策されることへの対応を怠っていた
・こちらが荷電粒子砲に対策している場合の対応を怠っていた
・自分たちの優位性を覆されると思っていなかった
といったところであろうか。
あれだけいた白の七八の量産型とおぼしき機動甲冑も、それがもたらす荷電粒子砲の槍衾も、対策されてしまえばその真価を発揮することは出来ず、唯一完全に凌駕していたはずの航空戦力も、決戦前に俺達にさらしてしまうという愚を犯した上に、こちらが同等の戦力を保持するかもしれないという想定と、その対策を怠っていた。
何より一番の問題は、俺が犯した愚と同じく人間を侮っていたことだろう。
青の〇一〇の行動全般が、良い例だ。
だが、それが少し引っかかっている、俺である。
タリオンほどのものが、俺と同じ愚を犯すであろうか。
たしかに、人間に対し俺よりも憎悪が深かったタリオンである。
しかし同時に、俺よりも洞察力に優れ、魔力はともかくその使い方に関しては、俺よりも一日の長があるタリオンではなかったか?
どのみち、それを確かめに行かなくてはならないだろう。
「全艦隊、被害の状況を」
クリスの指示をアリスが通信機で伝える。
「全艦隊から返答来ました。小破5、中破3、大破0です。各艦隊の内訳は――」
アリスの報告に、クリスは、一度だけ頷いた。
「全艦隊に通達、これより追討戦に移ります」
ここで退いて、タリオンの軍を再建させるつもりはない。
それがクリスの、そして船団アリスの艦隊総司令官としての意思であった。
『そりゃあいいんだけどよ』
通信機から直接、エミルの声が響く
「あいつら、どうすんだ」
……んん?
■ ■ ■
「そもそも」
機動要塞『シトラス』の小会議室で、リョウコが眉間にしわを寄せて訊く。
「彼らの扱いはその――捕虜なんですか。それとも、鹵獲になるんですか」
俺が封印される前も鹵獲という概念はあった。
むしろ、魔王軍の機動甲冑がよく鹵獲されたものだ。
それらは魔力がないと動かないため、人間は蒸気機関を無理矢理組み込んで動かしていたのを思い出す。
なお、あの忌々しい勇者は気合いとかいうもので動かしていた。
気合いとはなんだ! 気合いとは!
――閑話休題。
「捕虜……だろうな」
俺の発言に、全員が安心したように息をついた。
鹵獲である場合、あれを動かせといわれたら困るであろうことがひとつ。
もうひとつは、雷光号や紅雷号四姉妹の待遇を考慮してのことだろう。
現に各元帥の後に控えている四姉妹は、どこか嬉しそうであった。
「んじゃ、ふんじばってるあいつら、どうするん?」
と、ニーゴが訊く。
その場で擱座した青の〇一〇、そして一度墜落して再浮上した際に包囲された青の〇〇六は現在、機動要塞『シトラス』の船渠に武装解除の上、錨に使う大鎖――いうまでもないが、雷光号や紅雷号四姉妹と同じ素材のもの。でないと引きちぎられるので――でぐるぐる巻きにされていた。
「捕虜とするならば、拘束をある程度緩める必要があるが――」
席を立ちながら、俺。
「まずは、会話をしてみるか」
彼らが今の立場に甘んじられるか。
そして、タリオンの本拠地の場所を話せるか。
できれば、残存兵力などの情報も得たいが――。
それにはまず、対話が必要である。
タリオンに仕えている以上、彼らも一筋縄ではいかないだろう。
うまくいくと、いいのだが……。




