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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二四〇話:縦海大海戦・本戦――間隙の三連射

「飛行中、それも戦闘機動の真っ最中に変形して斬りつけただと!?」


 雷光号の操縦席で、俺は危うく叫びかけた。

 青の〇〇六は致命的な損傷を受けて海面へと激突し沈黙。

 ステラ紅雷号も同じくきりもみしてはいたが、海面ぎりぎりで再変形と姿勢の制御に成功していた。


「アステル、アステル! 無事か!」

『無事ですわよ! これくらい、嵐の夜に一晩中揺れることに比べればどうということはありませんわ!』


 なるほど――と納得しかけたが、単純計算でも圧力の差が相当ある。

 アステルが無理を通しているのは、火を見るよりも明らかであった。


「ステラ紅雷号、残弾はあとどれくらいですか?」


 俺に続き、クリスがそう問う。


『あと15発です、総司令官!』

「三秒もつかもたないかといった具合ですね。ステラ紅雷号は後方に。白狼紫雷号の『聖女の二重奏』範囲内へ――」

『おまちなさい。上空からの索敵はまだできますわ』

「――内臓、傷んでいませんか?」

『どうということございません!』


 提督少女と、提督令嬢の視線が、通信機越しに一瞬交錯する。


「わかりました。ステラ紅雷号に上空からの索敵を命じます。ただし、戦闘機動は決して取らないこと。対空攻撃を受けたら即座に撤退すること。いいですね?」

『承りましたわ! あと、高速機動艦隊の指揮権もこちらに!』

「本当に無理しないでくださいね!?」


 俺達の後方を弧を描くように掠めて、ステラ紅雷号は再び上空へと駆け上がっていった。

『チッ! 一発くらい狙うと思っていたけど、無駄弾は撃たなかったわね』


 今度は白狼紫雷号から、ドゥエの舌打ちが飛ぶ。

 こちらもこちらで、青の〇一〇から荷電粒子砲の連撃を食らっていたのだ。


『ドゥエ殿、父上! あと二発しかもたないでありますよ!』


 紫雷号が、かなり切羽詰まった声で叫ぶ。

 実際問題『聖女の二重奏』がもたなくなったら、こちらの艦隊は防御の要を喪うこととなる。

 既に艦隊は散開の準備を始めており、ひとかたまりになっているところを砲撃で一掃されるという危険は下がってきてはいるが、それでもいままで以上の被害は免れそうにない。


『そぉれ、もう一発! ハハハハハ! あと何発持つかな!? 一発か? 二発か? だが、こちらはあと八発も撃てるぞっ!』

「……阿呆か、あいつは」


 やはり、肝心なところで、青の〇一〇には抜けているところがあるように思える。

 もちろん腹芸であと八発とほらを吹いているのかもしれないが、その言葉に嘘は感じられなかったのだ。

 問題は、あと二発弾いたあとの六発を、どう凌ぐのか。

 やるとするならば、雷光号を前進させ――。


『お父様』


 そこで、蒼雷号から通信が入った。


『あと七発まででしたら、落とせます』

「すべてを相殺させる気か……?」


 蒼雷号に狙撃の才能があるのは確かだ。

 だが、それを荷電粒子砲でやるのは、少々無理があるだろう。

 だというのに、蒼雷号は俺の予想を大きく外してきた。


『青の〇一〇の射撃間隔は把握しました。なので、相殺に一発ずつ用い、次が来る前にもう一発撃ち込んで、片方の荷電粒子砲を、そしてもう一発でもう片方を沈黙させます』

「まてまてまてまて!」


 最後の相殺弾を含め、荷電粒子砲を三連射すると、蒼雷号は言っているのだ。

 残念ながら、轟炎蒼雷号とてそこまでの性能を与えてはない。


「そもそも、青の〇一〇と相殺するためだけでも、計算上二発足りない。そこはどうする」

『そこは、スピネル、オニキスと相談しました』

『そういうことさ』


 通信にオニキスが割り込んできた。


『こんなこともあろうかと、雷光号叔父さんと僕とで波長を落とした荷電粒子銃を当てて、機関の足しにする装置を、スピネル姉さんから預かっている』

「――は?」


 スピネルが長弾倉長銃を開発していたのはこの目にしていた。

 だが、いつのまにそんな装置まで開発していたのだ……!


『こいつをサファイア姉さんに取り付けて、ボクと雷光号叔父さんが荷電粒子銃を撃つ。それによって、サファイア姉さんは二発分の給弾が可能なはずだ』

「あと三発はどうする!」

『簡単な話です。私の機関と『轟炎再来ゴゥファイヤー・アゲイン』の機関を超過駆動状態に持ち込みます』

「それでは砲身がもたないぞ」

『はい、なので超過駆動した機関の出力を、砲身の冷却に回します』

「だとしても、砲身――『轟炎再来ゴゥファイヤー・アゲイン』の操縦席の室温が急激に上昇するぞ」

『なにいってんだ、マリウス』


 なんてことないといった様子で、エミルが通信機に割り込んだ。

 通信元を確認すると、いつの間にか蒼雷号と合体済みで、轟炎蒼雷号となっている。

 さらには後方の黒雷号が前に出て蒼雷号の背中に紫雷号が造った装置を装着していた。

 それは、背中に十字を背負ったかのような、巨大な放熱板である。

 いや、オニキスの言によれば、それは波長を落とした荷電粒子砲を再度蒼雷号への臨時装弾装置になのだろう。


『んなもん、気合いでどうとでもなる!』

「なるか!」

『急いでください! 後一発であります! それとその装置は試験済みなので、動作に問題はないでありますよ!』


 白狼紫雷号から、せっぱつまった――わりには丁寧に説明してくれたが――通信が届く。

『お父様!』

『父さん!』

「……わかった。やろう。雷光号――」

『強襲形態な! 了解!』


 バスター雷光号が瞬時にして強襲形態となり、荷電粒子銃を構える。

 隣では、おなじく轟炎蒼雷号に装置を装着した黒雷号が、同じく荷電粒子銃を構えていた。


『最後の一発を弾くでありますよー!』


 白狼紫電号が、そう叫んだ。

 その背後に潜んでいた轟炎蒼雷号が、荷電粒子砲を構える。


『はあっはっはっはぁ! とうとう弾切れだな! それでは――ぬぅ!?』


 自信満々に一撃を放った青の〇一〇の声が、途中で裏返った。

 極めて正確な狙撃で、轟炎蒼雷号が荷電粒子砲を弾いたのだ。


『よもやしたと!? だがこちらは二門! そちらは一門! 同時発射できないとはいえ、いつまでもつかな!?』


 ……やはり、二門同時に撃たないのは、姿勢制御に問題があるらしい。

 とはいえ交互に撃てば、その分弾数は向こうが有利となる。


『また弾いた――まただと!? 偶然ではあるまいな! そこの蒼い機体、名を名乗れ!』

『――蒼雷号と申します』


 通信ではなく、音声でサファイアがそう答えた。

 轟炎(ゴゥファイヤー)蒼雷号と答えなかったその気持ちは、なんとなくわかる。


『蒼雷号、見事! だが、後何発耐えられるかな!?』


 青の〇一〇が、立て続けに荷電粒子砲を放つ。

 だがそれを、蒼雷号はことごとく撃ち落とした。


「蒼雷号、残弾2! 青の〇一〇、推定残弾4!」


 通信席で互いの砲撃を数えていたアリスが、そう叫ぶ。


『いまだ! 波長は先ほど伝えたとおり、行くよ、雷光号叔父さん!』

『おうよ!』


 雷光号と黒雷号が、荷電粒子銃を蒼雷号の背中にある十字の装置に放つ。

 黒雷号のいった通り、光の束は波長を変えてあるため、明るいだけの強い光に過ぎない(それでも、長時間浴びたら確実に焦げるが)。

 それを真っ向に受け、十字の装置が明るく輝く。

 続いて、轟炎蒼雷号の足下が急激に沸騰した。

 機関の超過駆動に入ったのだ。

 周囲に水蒸気を纏った轟炎蒼雷号が荷電粒子砲を構え直す。




□ □ □




「へへへ、熱くなってきやがった……!」


 いつも着ているツナギをしっかりと喉元まで引きあげ、兜の面部分を下げながら、エミル・フラットはひとり呟いた。

 普段いる南の海でも、放り出されれば体温を奪われる。

 それを考慮して、水雷艇乗り達のツナギは、耐寒耐熱処理を施してある。

 水雷艇とは、要は機関と銛の発射装置を高機動・高速航行させるために造ったものであるから、戦闘機動時は相当熱くなるためだ。

 それが、功を奏した。

 現在、轟炎(ゴゥファイヤー)蒼雷号の荷電粒子砲主室の室温は、真夏の甲板上のそれを既に超えている。

 背中の冷却装置は、せいぜい1時間ほどだろう。

 それまでに、片をつけねばならない。


『エミル元帥』


 サファイアの声が、耳元で響く。

 兜を改造して、音声を直接届くようにしてもらったのだ。


「おう、いけそうか?」

『はい。ですが、こちらは照準最優先となります。申し訳ありませんが、引き金は――』

「まかせろ、そのためにオレはここにいる」

『ありがとうございます。相当暑いと思いますが、撃ちきるまではご辛抱を!』

「かまうこたぁねぇよ」


 正面の表示板に、荷電粒子砲を二門担いだ青の〇一〇が映る。

 同時に、照門がみっつ表示される。

 中央部分の青、右側の黄、最後に左側の赤。


『青、黄、赤の順番です。白い照星が動きますので、照門の中央部分と重なったら引き金を引いてください』

「間隔は?」

『0.5秒です』

「撃つまでの時間は?」

『あと3秒!』

「問題ねぇ!」


 せり出してきた引き金付きの操縦桿を両手で握りしめ、エミルは兜越しに正面の表示板をにらみつける。


『2、1、いま!』

「あらよっと!」


 照星が照門と重なる瞬間、一瞬動きがゆっくりとなった。

 もちろんそれは蒼雷号が気を利かせた訳ではない。

 エミルの集中力による、錯覚である。

 正確無比な、三連射。

 最初の一発で青の〇一〇の荷電粒子砲弾は弾かれ、続いての二連射で、両肩の荷電粒子砲が爆散する。

 衝撃でのけぞる青の〇一〇。

 直後、轟炎蒼雷号の緊急冷却が始まり、機体周囲が濃い水蒸気に覆われる。




□ □ □




『こちらも機関超過駆動用意完了! いつでも『聖女の二重奏』緊急稼働可能であります!』

「――いや、その必要はない」


 雷光号の正面表示板を見つめながら、俺はそう答えた。

 両肩ごと破壊された青の〇一〇が、器用にも大の字で海面に浮かんでいたからだ。

 周辺にいた白の七九は、荷電粒子砲の撃ち合いという危険極まりない空間を避け、皆距離を置いている。


「全艦、砲撃戦用意」


 クリスが素早く指示を飛ばす。


「クリス――」

「黒雷号、紫雷号は、青の〇一〇に接近。可能であれば鹵獲してください」

『了解であります』

『了解したよ!』


 黒雷号と紫雷号が、荷電粒子銃を構えながら、青の〇一〇に近寄って行く。

 当の青の〇一〇に抵抗するそぶりはない。

 そして牽制するように戦艦から主砲が放たれる。

 白の七九たちは、近寄ることも出来ない。

 ――俺が申し出る前に、クリスはその意を汲んでくれた。

 それは、とてもありがたいことだった。


 青の〇〇六の撃墜と、青の〇一〇の鹵獲。

 これで、本戦の趨勢は決したとみていいだろう。

 これ以上、海賊――意思のある機動甲冑――がいなければの話だが。


エミル「燃え尽きたよ……真っ白にな……」

魔王「そういうのはやめろ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強敵撃破! エネルギーの受け渡しは、 デュートリオン送電システムか サテライトキャノンっぽいですねー(サテライトじゃないけど )
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