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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二三八話:縦海大海戦・本戦――それは多分、史上初の――


 旧魔王城東方沖で始まった大海戦、その緒戦は船団アリス側の完封に終わった。

 タリオン側海賊艦隊は輝く銃剣……すなわち光帯剣を海面に突き刺し水蒸気を発生させ、その隙に隊列を整えた荷電粒子砲による一斉射撃を敢行。

 しかし、こちらの白狼紫雷号による『聖女の二重奏』――対荷電粒子砲大規模力場障壁――により、すべて無効化された。

 直後、アステルの機動遊撃艦隊とエミルの水雷突撃艦隊が左右から襲いかかり足止めをし、そこにドゥエの装甲前衛艦隊が砲撃を叩き込んで敵先鋒を押し込んでいる状態である。

 ここまでは、順調だが――。


 エミル艦隊の水母巡洋艦が、突如爆発した。

 押さえ込みつつある敵先鋒艦隊からではない。

 真上、からだ。


『さがれ! 至急ドゥエんとこまでさがれーっ! 撃たれた『暴旗(ボゥフラッグ)』の様子はどうだ!』

『だめだ、真上(ドタマ)から機関撃ち抜かれちまった! 航行不能(リタイア)だ!』

『ちっ……! 『暴旗(ボゥフラッグ)』総員退艦! 近くにいる艦艇は救助にあたれ!』


 さすがはエミルの指揮する水雷突撃艦隊、突然の奇襲で僚艦がやられても、一糸乱れぬ艦隊機動で撤退していく。

 そして、奇襲者だが――。

 上からの攻撃などしてくるものなど、現時点ではひとつしか該当しない。


「青の〇〇六、出現しました!」


 動揺を抑えるためだろう。アリスの声が、少しだけ低くなった。


対空戦用意(・・・・・)!」


 クリスが緊張気味に指示を飛ばす。

 それは人間にとって、そして魔族にとっても初の、空を飛ぶ敵に対する戦闘――すなわち、対空戦であったからだ。

 もちろん、それに対する対策は練ってあるし、演習も何度か行っている。

 ただ、それでも万全とは限らない。


『全艦、対空射撃準備完了!』

「目視での照準は無意味です。予想される進路に砲弾をばらまく形で――撃て!」


 全艦の速射砲から――主砲はどうやっても仰角が増やせないのと、射撃速度に問題があるため対空射撃には参加できなかった――まるで花火を一斉に打ち上げたかのように火線が開かれる。

 だが、追い払うことはできても有効打を与えることが出来ない。

 やはり、根本的に相対するには――。


『機動遊撃艦隊、待避完了! クリスタイン総司令、一時的に指揮をお願い致しますわ』

「了解しました――って、アステル元帥!? 一体なにをするつもりです!」

『決まっておりますわ――』


 通信機から聞こえるアステルの声は、機動遊撃艦隊旗艦『ステラローズ』からではなかった。


『ステラ紅雷号、離水! 行きますわよ』

「ちょっ!? 指揮官が乗ってどうするんです!」


 正直言って、俺もそう思う。

 かりにも将官、それも元帥が最前線に出るのは――。


『それでも、人が空を飛ばなければなりません。いつか人が、マリウス大将に頼らず空を飛べるようになるときのために』


 ――なるほど。

 その考えには、到らなかった。


『ですから総司令、よろしいですわね?』

「――機動遊撃艦隊の指揮を、引き継ぎます。紅雷号、操縦席に人がいるからといって、遠慮は無用ですよ」

『りょ、了解しました! それじゃステラ紅雷号、離水します』


 機動遊撃艦隊最後尾から、巨大な水柱が立ち上った。

 飛行装置を巧みに隠していた紅雷号が、もはや偽装は必要ないとばかりに緊急離水したのだ。


「機動遊撃艦隊、水雷突撃艦隊は『聖女の二重奏』範囲内へ。装甲前衛は引き続き敵先鋒に主砲投射を継続! マリウス大将、ステラ紅雷号の視覚情報をこちらに回すことは可能ですか?」

「可能だ。だが、こちらから指示は出さない方がいい」

「わかりました。こちらの音声は届けなくて大丈夫です」

「了解した」


 通信にはどうしても一瞬の間ができる。

 普段は無視できる範囲だが、音の二倍で飛行する場合は、そうもいかない。

 その一瞬で、艦一隻分は余裕で動けるからだ。


「――! 敵先鋒、すぐ後方に、青の〇一〇出現!」

「今度はそっちか――!」

『聖女の二重奏、発動!』


 通信機越しに、ドゥエの叫び声が響き――。

 先ほどの斉射より遙かに大規模な、虹の障壁が出現する。


『はあっはっはっはぁ! 今のをも防ぐか! さすがだな!』


 青の〇一〇の声が響いた。

 通信を乗っ取られたのではない。

 最前線の白狼紫雷号にも聞こえるほどの、大音声で叫んだだけだ。


『だが、何発分まで耐えられるかな?』

「――青の〇一〇、巨大な火砲を、少なくとも二門肩に担いでいます」

「なんだそれは……」


 思わずそう呟いてしまったが、確かに拡大された映像では、青の〇一〇が二門の荷電粒子砲を肩に担いでいた。

 それも、前に轟炎雷光号と撃ちあったものよりもひとまわりも、ふたまわりも大きい。

 それを馬鹿正直に二門、両肩に担いでいる訳だ。


『……なぁ、マリウス。あいつこかしていいか?』

「気持ちはわかるが、自重してくれ」


 確かにあれは、姿勢が不安定にみえる。

 だが、実際荷電粒子砲を連射されれば、生身の搭乗員が露天で搭乗する水雷艇は、直撃しなくても深刻な被害が発生しかねない。

 そして、空――。


「ステラ紅雷号、青の〇〇六を交戦開始しました。現在はステラ紅雷号が青の〇〇六の後背についています!」


 アリスの報告通り、ステラ紅雷号の視界に青の〇〇六が捉えられている。

 俺とクリスが予想したとおり、〇〇六には後部への武装がないらしく、反撃らしい反撃がまだこない。

 その代わりに背後のステラ紅雷号を振り払うべく、上下左右に激しく旋回する。


「……うっ」


 クリスが、その画面から目をそらした。

 生まれたときから船に乗っているとはいえ、未知の揺れ方に視覚が追いつかなくなり、酔ってしまったのだろう。


「映像、消すか?」

「いいえ、そういうわけにもいきません! 実際に乗っているアステルさんに比べれば……!」


 クリスの言うとおり、乗っているアステルはそれどころではないだろうが……さすがにステラ紅雷号操縦席の様子まではわからない。

 無事ではあると思うが、心配ではあった。

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