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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二三七話:縦海大海戦・本戦――嵐の中でなくても、輝き

 旧魔王城。

 元は大陸の北方にあった最も高い山のさらに頂上に造られた砦である。

 それを先の陛下がなにを思ったのか城に改築し――本当に、なにを思ったのか。いまもよくわからない。もう少し、交通の便を良いところに築城しても良かったと思うのだが――それを俺が引き継ぐこととなった。

 もっともその分防御力はありあまるほどで、最終的に魔王軍がほぼ壊滅し、防衛要員がまったくいなくなるその時まで、魔王城は陥落することはなかった。

 最終決戦は、その魔王城の頂上、玉座のさらに上にある俺個人用の空中庭園である。

 ここで俺はあの忌々しい勇者とやらとの一騎討ちに臨み――負けて、封印されたという訳だ。


 ……そして、現在。

 その空中庭園は朽ちて砂洲となり、魔王城そのものはそのほとんどが海中に没して、ただの小島となっている。

 もう誰も、そこに荘厳な城が建っていたとは思うまい。

 ――俺と、タリオン以外には。


 それを知ってか知らずか。

 互いに最短距離ではこの小島を挟むはずであったが互いに避けることとなり、決戦の地――いや、決戦の海はそこから東の沖合となった。

 感知力が同等であると判断した場合、いまはお互いの先鋒が互いに把握されていると思われる状況である。

 こちらは、輪形陣。

 あちらは、魚鱗陣。

 こちらの先鋒は、ドゥエの装甲前衛艦隊だが、あちらの先鋒は、量産型とおぼしき紺の一七八だと思われていたのだが――。


「確認できました……白の七八です」


 アリスが、ややかすれた声で報告した。

 雷光号との一騎討ちでは、相当苦戦させられた相手である。

 それが、量産型のように複数いるというのだ。


「思ったより、数が多いな……」


 ドゥエの艦隊に設置して映像撮影装置からの画像を正面の表示板に投影する。

 肩に描かれているのは、魔族の文字で七九。

 さしずめ、白の七九といったところか。

 それらが同じ数字のまま、複数機存在している。

 全体的な造形が幾分か簡略化されているように見受けられるが、性能はほぼ変わらないとみていいだろう。


『大将、あいつら銃の下になんかつけてる!』

「なに……?」


 画像を拡大してみると、確かに銃身の下に何かをつけている。

 あの形状は光帯剣の柄にみえるが――光帯剣!?


「――クリス!」


 俺が指摘しきる前に、クリスが叫んだ。


「全艦に通達! 陣形はそのまま! 装甲前衛艦隊旗艦『白狼紫雷号』に伝達、『聖女の二重奏』用意!」

「了解しました! 『全艦に通達、陣形はそのまま!』」

「『バスター雷光号より白狼紫雷号へ、聖女の二重奏用意!』」


 クリスの判断と指示は、その場の誰よりも早かった。

 おそらくは、タリオンの一手よりも――。

 次の瞬間、白の七九達が、銃身の下から輝く刀身を展開させたからだ。


『あいつら、銃身の下に光帯剣しこんでやがった!』

「やはり銃剣か……!」


 長銃という武器をみてから、その銃身の先に短剣をとりつけ、槍として使うのはありだとは思っていた。

 タリオンの方は、その先を行って実用にたどり着けていたのだろう。

 その銃剣が、下に向かって九〇度折り曲がり、光の刃が海面に突き立てられる。

 当然、海水は急速に沸騰し、辺りに蒸気が立ちこめる。


「『白狼紫雷号』、『聖女の二重奏』準備!」

『こちら白狼紫雷号、準備完了しました!』


 ドゥエではなく、アンの声が響いた。

 その背後で、ドゥエが立て続けに指示を飛ばしていたので、代わりに出たのだろう。


『視界が晴れるぜ!』


 雷光号が緊張気味の声を上げる。

 そして蒸気が晴れた先にいたのは――。

 十二機三列、計三六機の白の七九が、長銃を構えていた。

 最前列が片膝をつき、次の列が立ったまま腰だめに構え、最後の列が肩で構えてこちらをまっすぐ狙っている。


 回避する瞬間もない。

 一斉に放たれた三六の光条は、矢衾(やぶすま)となってこちらの艦隊を貫く――、

 はずだった。

 だが、その直前に巨大な双腕を掲げた白狼紫雷号が、最前線で仁王立ちとなる。


「聖女の二重奏、発動しました!」


 アリスがそう叫んだ直後、目の前に虹色の波紋が広がった。

 聖女の二重奏により、光の矢衾(やぶすま)を悉く防いだのだ。

 艦隊を半球状に覆う力場の盾は、荷電粒子砲を周辺の海へと押し流し、今度はこちら側を大量の蒸気が覆うこととなる。


「いまのうちです。右翼機動遊撃艦隊、左翼水雷突撃艦隊、挟撃の準備を」

『心得ましたわ』

『りょーかい!』


 アステルとエミルからの返事が届き、両翼の艦隊は陣形を維持したまま、その旗艦出力を最大まで押し上げる。


「荷電粒子砲の砲撃、やみました!」

「いまです」


 こちらは、蒸気が晴れるまで待たせはしなかった。


『機動遊撃艦隊、相手の頭を抑えなさい! 決して散開、浸透させないように!』

『水雷突撃艦隊、オレに続け! いいか、やつらを絶対ばらけさせるな! こっちに紛れ込まれたら終わりと思え!』


 言い方は違うが、ふたりとも狙いは一緒である。

 すなわち、知性のある海賊――機動甲冑最大の特徴である高機動力を封じようとしているのだ。

 アステルの艦隊はその快速を活かして包囲しつつ射撃を垣間なく続けて足を封じ、エミルの艦隊は果敢にも二隻の水雷艇の間に張り巡らせた特殊鋼の綱で相手の足を絡め取り、余裕があれば『爆撃銛(ハナビ)』による雷撃で撃沈を狙うというやり方で、敵の先鋒を封じたのである。

 こうして足を封じれば――。


「装甲前衛艦隊!」

『わかってるわよ! 制圧射撃開始!』


 守勢にあったドゥエの艦隊が、攻勢に転じた。

 輪形陣の最前部――すなわち単横陣となっていた戦艦隊が、正確無比な主砲撃が叩き込み、巨大な水柱がいくつも上がる。


「とりあえず序盤は、こちらが有利を取れたか」

「まだ油断は出来ませんよ」


 安堵した俺に対し、クリスがそう指摘する。


「以前交戦した大砲持ちがまだ出てきていませんし、なにより空を飛んでいたのも同様です。油断は禁物ですよ」


 ちがいない。

 この俺自身が、九割勝っていた状況から戦況をひっくり返されたのだから。

 とはいえ、序盤に勝ちを得られたのは大きい。


『よっしゃ、次行くぞ次!』

『まだまだ油断はできませんわよ!』


 艦隊全体に、戦意の高揚が得られたからだ。

 それは、なによりも代えがたいものであった。


『……どうしたの? スピネル』


 ドゥエが通信機越しに疑問の声を上げる。

 どうも、白狼紫雷号になにか不都合が起きたようだが……。


『め――』

『め?』

『めっちゃこわかったでありますー! 防げるとわかっていても! 並んだ銃口を前に立ちはだかるの、めっちゃ怖いでありますよー!』


 ――なるほど。


『わかる』


 バスター雷光号が、ごく短く同意した。

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