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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第十章:縦海の大海戦

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第二三六話:縦海大海戦・緒戦――お忘れかもしれませんが、いままで水着でした。

「中枢近衛艦隊、出撃準備完了した」


 機動要塞『シトラス』前部艦橋大会議室で、俺は総司令官であるクリスにそう報告した。

 中枢近衛艦隊といってもその内訳は機動戦艦『バスター雷光号(らいこうごう)』、指揮艦『コマンダー』、そしていまいる機動要塞『シトラス』三隻のみなので、他の艦隊のよりも随分早く準備を終えることが出来た。


「水雷突撃艦隊、準備完了。いつでもいけるぜ」


 既にその四分の一が出撃済みで牽制を行っているエミルが、続いて報告する。


「機動遊撃艦隊、おなじく」


 こちらも四分の一が出撃済みで、中小船団の護衛、索敵、哨戒艦隊の援護を行っていたアステルからも報告が飛んだ。

 現在かなり複雑な指揮を行っているにもかかわらず、その声に疲れはみえない。


「白兵揚陸艦隊、準備完了です」


 刀の柄頭を握り、リョウコ。

 その真価は最終局面、すなわちタリオンの根城を攻略するまで発揮されないが、それでも通常艦隊としての火力と防御力に遜色はない。


「装甲前衛艦隊、出撃準備完了よ」


 双子の姉の聖女アンを伴い、ドゥエが簡潔に報告する。

 最前線にして艦隊防御の要である艦隊のため、ある意味ドゥエの艦隊が一番危険である。

 それ故、アンの出撃にはかなり難色を示したのだが、アンによる、


「こういうときに聖女が前に出ず、どうするんですかっ!」


 一喝で、おとなしく引き下がっていた。


「――全艦隊出撃準備完了、了解いたしました」


 総司令席で、クリスが頷く。


「現在、哨戒艦隊の尽力により、敵艦隊の位置ががだいぶ絞れてきました」


 慌てて出航するふりをするにはするが、目標は間違えない。

 それがクリスの方針である。

 そしてその方位は――奇しくも、俺が船団シトラスに到る航路と酷似していた。


「予定通り、私達はやや乱れ気味の輪形陣で出撃します。外縁部右翼にはパーム元帥の機動遊撃艦隊を、同じく左翼にはフラット元帥の水雷突撃艦隊を、外縁部前衛にはブロシア元帥の装甲前衛艦隊を、そして中枢にはマリウス大将の中枢近衛艦隊を、その後衛にはルーツ元帥の白兵揚陸艦隊を配置します。異論はありますか?」


 その場にいた誰からも、反論はなかった。


「出撃後、旧船団ノイエ付近で、哨戒艦隊と合流。哨戒艦隊はそのまま中枢船近海まで後退、補給と休息後、留守居役の護衛艦隊の指揮と、私達の連合艦隊との連絡役を務めてください」

「了解しました、総司令官」


 哨戒艦隊司令官、メアリ・トリプソン少将――緒戦の活躍にて准将から昇進――が頷く。

 彼女の艦隊には、俺が作成した無人偵察装置(魔力の塊で出来て、使い捨ての観測装置)が搭載されていたが、それでも無傷とは行かなかった。

 既に、数隻の損耗を記録してしまっている。

 幸いにして、旗艦である『超! 暁の淑女号』は健在であったが、表向き、彼女の顔に心労の様子は窺えなかった。

 ……もっとも、気丈に耐えているだけなのかもしれないが。


「それでは、全艦隊出撃――」

「あの……!」


 クリスが言い終わる前に、俺の隣に控えていたアリスが発言した。

 なにごとかと、俺を含めた全員の視線が集まる中で、アリスはおずおずと、


「あの、皆さんそのままだと風邪引きます……よ?」


 ――あ。しまった。


『その通りです!』


 繋ぎっぱなしであった通信機から、ミュウ・トライハル少将の声が響く。

 彼女の今いる場所は、機動要塞『シトラス』後部艦橋ではなく、船団アリス中枢島の臨時政庁であった。

 さすがに彼女たち事務方を丸ごと連れていく訳ではないので、もうしわけないとは思うが、再び引っ越しを頼んだのである。

 頼んだと言えば――。


「大船団長代理として、クリスタイン総司令官にお伝え致します」


 俺が中枢近衛艦隊の指揮を執るため、事務方筆頭のトライハル少将が、大船団長代理となった。

 当人はめちゃくちゃ渋ったが、恐れ多くもミニス王が、


「余が代わろうか?」


 と仰せになれば、よもやどうぞどうぞと言う訳にいかず、引き受けることとなったのである。

 とはいえ大船団長代理というのは、伊達ではない。

 特に事務方の筆頭として充分な能力を持つトライハル少将においては、強力に機能するのである。

 おそらく今回の出撃において、船団アリスの政治能力と事務能力は、少しも落ちないだろう。

 そんな彼女の懸念事項は、どうもアリスや俺と同じであるらしい。


「皆さんこれから北の海に行くんですよ? 全将兵の北部用制服を用意し、輸送艦単位に配布させましたから、受領、および随時着替えを行ってください!」


 すっかり忘れていたことだが、ここは南海である。

 故に全員の制服が夏服であるし、その下は濡れても構わないようにと水着を着ていることが多い。

 特にエミルのところやリョウコのところは血気盛んなものは上半身裸だし、エミル自身も水雷艇搭乗時は水着の上にツナギを着ていたものだ。


 無論、北の海でそれをやれば死ぬ。

 これは魔族も例外ではなく、冬の海に転落でもしようものなら、一時間ももたない。


「全艦隊、輸送艦隊から北方用の制服を受領するように……! しかるのち、出撃とします! ユーグレミア大尉、トライハル少将、指摘に感謝を!」


 こうして、艦隊の出撃は少しだけ遅れることとなった。




□ □ □




「クリスちゃん、かわいいです……」

「やめてくださいよ。それをいうアリスさんだって、その……かわいいじゃないですか」


 おそらく北へ向かうとわかった時点で手配していたのだろう。

 トライハル少将が手配した制服は、実用性と優美さを兼ねた意匠であった。

 まず全体は白を基調とし、アリスたち尉官は金の線が三本、ニーゴたち佐官(鎧姿であるニーゴにはマントが支給された。これはこれで大喜びである)は五本、そして俺とクリスの将官は金の帯となっている。

 そして女性士官には階級を問わずケープが追加され、裾の部分に同じように金の線が走っていた。

 これに寒暖差を考慮して随時外套、そしてマントが追加できるようになっている。

 また、水雷艇搭乗員や白兵戦要員を意識してか、布地は伸縮が効き、よけいな装飾が取り外せるようになっていた。

 そんな制服をアリスとクリスが着ると――口には出していないが、よく似合うのである。

 ……一体どんな生地を使ったのかを訊くと、海からなにを使ったのか詳細に教えられそうなので俺はまだ確認していなかった。

 願わくば、海藻製でないことを祈りたい。


「でも、とてもよくにあっていますよ! ――はい、こちらバスター雷光号」


 クリスですら驚く素早い切り替えで、アリスは通信士の貌になっていた。


『こちら遊撃機動艦隊。先行する高速巡洋艦『ブルーローズ』の偵察装置から、敵影を発見いたしましたわ! 皆様、情報の共有を』


 アステルからの報告により、バスター雷光号の操縦室内に、緊張の糸が張り詰める。


『どういたします? 映像がでるまで待機いたします?』

「マリウス大将?」

「すぐに下がるべきだ」

「——ですね。パーム元帥、『ブルーローズ』を直ちに下げてください」

『承知いたしましたわ』


 アステルの通信が切れる。


『大将、海図を出すぞ』

「頼む」


 中央前方の表示板に、広範囲の海図が表示された。

 下方には、輪形陣を敷く俺達の艦隊が、そして上方には――。


「数が……思ったより多いですね」


 クリスが、小さく唸る。

 魚鱗の陣を敷くその光点は、たしかに想定より多い。

 それよりも――。


「位置確定しました。敵艦隊位置、こちらからみて一時の方向です。このままいくと、衝突は――衝突は……」


 秘書官の時は怜悧な表情を崩さないアリスが、めずらしくも言いよどんだ。


「小さな島がありますね――小さな――あ!」


 クリスが思いあたったらしく、鋭く息を飲む。


「衝突は、旧魔王城東方沖といったところか」


 アリスのあとを引き継ぐかたちで、俺はそう呟いた。

 俺が封印から解けた場所、

 そして、アリスと出逢い、ニーゴと遭遇した場所。

 少しだけ、喉の奥が乾いていた。


「クリスちゃん。まだちょっと暑いので、水着の上にケープという形にしましょうか」

「いいですねアリスさん。それ、賛成です」

「やめてくれ、俺と作者の理性がもたない……!」

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