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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二三三話:引っ越し準備

「あー、もう! 柄の重さしかないのって、逆に使いづらい! しかも、刃に触っちゃいけないだなんて!」


 スカーレットの声が、部屋中に響き渡る。

 機動要塞『シトラス』演習室。

 そこには雷光号と紅雷号四姉妹、

 そして総司令官クリスと四人の元帥が、それぞれ光帯剣の訓練に(いそ)しんでいた。


 ちなみに、紅雷号四姉妹の中で一番光帯剣をうまく使いこなしていたのは、さきほど文句の声をあげたスカーレットになる。

 光帯剣の特性はそのまま特有のクセとなる。

 それをすぐに指摘して、対策を練っているのだから、たいしたものだろう。

 逆に、普段剣の扱いに慣れている者は、みていると少々危なっかしい。

 たとえば――。


「アステル。突きを攻撃の主体にするのは構わない。むしろ重装甲の敵に関しては極めて有効だが――構える瞬間の剣礼で、刀身が顔に近すぎる。同じ光帯剣をもつ敵に斬りかかれたら、致命傷を負いかねないぞ」


「リョウコ、突きの構えの時に刀身に空いた手を添えるな。峰のある刀なら有効だが、光帯剣だと最悪指がなくなるぞ」


「エミル。刀身の重さがないからといって、振り回しすぎは気をつけろ。たしかに光帯剣は手数が肝だが、慣れないウチに振り回しすぎると――」

「あちゃああああ!?」

「ほらみろ……!」


 今のが本物の光帯剣なら、エミルは訓練中の殉職扱いとなっていただろう。

 いうまでもなく、全員が練習用の光帯剣を使用している。

 それは例の斬れないミニス王専用の光帯剣の刀身部分に、ごく弱い雷の魔法を走らせていた。

 なので、いまのエミルのように触れれば痛みを感じるようになっている。

 触ってもなんともない場合、実戦の時に油断しかねないからだ。

 ちなみに、俺が封印される前は、軽い木の棒を用いていた。

 今思えばかなり前時代的な訓練であるが、あれはあれで良かったと思う。


 さて、光帯剣を一番うまく扱えているのは雷光号と紅雷号四姉妹の仲ではスカーレットがそうであったが、人間の方はというと――。


「あっは! いいわね、いいわね、クリスタイン!」

「刃の重さがないのなら、その分体力を温存したまま打ちかかれますからね」


 ドゥエとクリスが、早くも模擬戦に突入していた。

 とにかくこのふたり、適応力が高すぎる。

 おそるべきことに、ふたりは光帯剣が攻撃と防御が表裏一体であることを見抜いており、それをこの模擬戦で確かめる段階にまで達していた。


「マリウス! 私の双刃剣の光帯剣版、今度造っときなさい!」

「……了解した」


 光帯剣と光帯剣の、(つか)と柄を接続すれば簡単に双刃剣版の光帯剣ができあがるだろう。

 ――前後に光の刃があると、扱いは格段に難しくなるのであるが……。


「喋っていると隙が出来ますよ!」


 クリスが猛然と斬りかかっていった。

 回転しながら斬りかかることにより刃の長さを錯覚させつつ、右上段から斬りかかり、それが弾かれると再び回転しながら左中段から斬りかかる。

 対するドゥエも、刃の重さがないことをいいことに手首の回転だけでクリスの猛攻をしのいでおり、さらには――。


「くうっ――! 蹴ったぁ?」

「そりゃ蹴るわよ。実戦では剣だけじゃないのよ!?」


 以前、ジェネロウスでドゥエと対峙したときもそうであったが、ドゥエという武人はどこまでも勝つことを最重要視していた。

 それに、間違いなど微塵もない。

 自らの勝利、そして自軍の勝利こそが、もっとも味方の被害を抑えることが出来るのだから。

 そしてその姿勢を、その戦い方を吸収しているのが、他ならぬクリスである。

 時折口走る『成長期ですから!』は伊達でも大言壮語でもない。

 現に、今この時点でドゥエの魔技に等しい剣技を吸収しつつあり、それ故互角に持ち込んでいる。

 他にもリョウコから刀を、アステルから突剣を、そしてエミルから撃ち出させる銛『機撃銛(きげきそう)』の使い方を学んでいた。

 それは全軍の司令官が学ぶにしては過剰――本来、司令官は前線にはでてこないものだ――であり、そのことは俺も念のため指摘したのだが、こう切り返されてしまった。


「だって、マリウス大将もいざというときは前線に出るじゃないですか。船団を統べる最高責任者が前に出るなら、それを護るのが、全軍を預かる司令官の役目ですよ」


 正直、返す言葉がなかった。

 俺の隣にいたアリスが苦笑するほどである。

 ――確かに、俺はタリオンとの決戦では自ら前に出ることになるだろう。

 そのとき、クリスの援護を受けるのは――なるほど、悪い話ではなかった。


「くぅっ!」

「ちゃんと考えなさい、クリスタイン。単純に格闘技を混ぜても、膂力の差で弾かれるだけよ! あんたの取るべき道は、光帯剣の手数を増やすこと!」

「な、なるほど……! それならっ」


 クリスの動きが、目に見えて変わった。

 背が低いことを活かした、下段からの連続攻撃。

 これを凌ぐのは、なかなかに難しい。


「いいわよ、すごくいい!」


 だというのに、ドゥエは至極楽しそうであった。


「おお、みなさんやってますねー」


 そこへ、アリスを伴って聖女アンが様子を見に来た。

 手に持った籠は、差し入れのサンドイッチであろうか。


「それにしても、ここ最近のドゥエは嬉しそうですねー。クリスタイン守護元帥という、良い弟子が出来たからでしょうか」

「弟子――いや、なるほどな」


 そういえば、先の陛下も俺という小姓を抱えてからやる気が出たといったことがある。

 当時はなにかの冗談だろうと思っていたが、いまのドゥエとクリスとみていると、なるほどなと思ってしまう。


「ああ、そうだ。アン」

「はい? なんでしょうか、マリウス大船団長」


 返事の代わりに、俺はあらかじめ用意しておいた書類をアンに手渡す。


「この方向で進めるつもりだが……大丈夫か」

「これ――は――」


 書類の中身を確認しているうちに、緩んでいたアンの表情が、聖女のそれになっていく。

 正確には、元船団ジェネロウスの政治筆頭としての顔になっているのだ。


「可能です。可能ですが、よろしいのですか?」

「ああ、どのみち今のままでは各個撃破されて終わりだからな」


 そこで俺とアンがなにを話していたか、アリスも察したらしい。

 その表情は鋭く……何故か少しばかり、心配そうであった。


「わかりました、では――」


 聖女の貌のまま、アンが続ける。


「元いつつ分の船団、その全艦船を、ジェネロウスの中枢島へ移動させることを承認いたします」


 そういうことになった。


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