第二三二話:真・バスター雷光号
「ほう、これが――」
光の刀身で床をこつこつとつつきながら、ミニス王は満足げな声を上げてくれた。
無論、床には焦げひとつない。
「ふむ、熱くはないな」
自らの手で刀身を握りながら――本来なら、付きの者か、俺自身で試さないといけないのだが――ミニス王。
剣としての機能のない光帯剣ということで、俺が作り上げたのが、この儀礼用光帯剣である。
本来斬るために造った光帯剣を斬れないようにするという基本設計に、開発にはかなり難航し、一時期は最高難易度である時の魔法の魔法によって光の魔法の効果を明るさだけに固定しようかと考えるほどであったが、発想の逆転によって、あっさりと解決した。
光帯剣は、放出される光の魔法を力場で抑えこみ、刃の形にしたものである。
故にその刀身には力場による芯とでも呼ぶべきものがあり、一瞬で焼き切れない分厚いもの、あるいは――あまり考えたくない事態だが――同じ光帯剣で斬り合った際に、その刃がしっかりと止まるようになっている。
今回の発想の逆転とはまさにここで、儀礼用光帯剣は、この芯と光の魔法の位置を逆転させてある。
つまり、片方が閉じた円筒状の力場(試験管といえばわかりやすいだろうか?)の中に、光の魔法を充填されているという訳だ。
これにより儀礼用の光帯剣は、ただの伸縮する光る棒となっている。
強度は――金属並みであるが、重さがほとんどないためよほど膂力が強くないと凶器とはならないだろう。
「見事である。マリウス公」
「お褒めにあずかり、恐縮です」
「これならば、余も諸侯と共に光の剣を抜くことができような」
「……! 仰せの通りです、陛下」
それはおそらく、船団の民を高揚させるのに充分すぎるくらいの効果をもたらすだろう。
計算されたものか、無意識にやったことかはわからなかったが、見事な采配であった。
「苦労をかけたか?」
「いえ?」
「それはまことか」
「――申し訳ありません、多少は。ですが、それに見合う成果を得ることができました」
「そうか。それはなによりである。」
今のはお世辞ではない。
光の魔法を斬れないように制御する過程で、みつけたものがある。
それは、今後の戦局を大きく動かしかねないものであった。
■ ■ ■
低い重低音が、辺りに響き渡っていた。
船団アリス、演習海域。
いつもは航行形態の雷光号は今回強襲形態となっており、その手には、光の刃を展開した光帯剣が握られている。
いうまでもなく、雷光号に見合った大きさの、だ。
あの白き七八が装備していた超大型の光帯剣を、俺達も手にすることが出来たのである。
光の魔法を束にして撃ち出す荷電粒子砲、単純ながらも制御が極めて難しい飛行装置、そしてこの雷光号大の光帯剣により、タリオン側と俺達側との技術格差は解消した。
とはいえ、タリオンがこれ以上の隠し球をもっている可能性はあったが、いまはそれを考えないこととしている。
『ついにできたんだな……! オイラの、光帯剣!』
柄を目の高さまで掲げながら、雷光号が感慨深げに呟いた。
魔族や人間大のものはニーゴの時に何度か借りて使っているとはいえ、自分専用のものをもつのは、なにかと嬉しいのだろう。
「扱いには、気をつけろよ……」
『おう!』
通常の大きさの光帯剣も十分に危険な武器だが、この雷光号大のものはさらに危険なものとなる。
一振りするだけで、通常の艦船を容易に輪切りにすることが出来るのだ。
ましてや生身の魔族や人間など、苦しむ間すら与えまい。
『つまりよ、訓練するときはニーゴのときってこったろ?』
「そういうことだ。そのための光帯剣も用意してある」
『マジか! ありがとよ、大将!』
「とはいえ、一度は実際に振ってみなければわからんからな――こういうものを用意した」
それは、既に演習海域を高速で移動していた。
例の氷で出来た標的艦の形を変え、強襲形態の雷光号の高さに合わせたものだ。
さすがに斬り合いの練習用として光帯剣を装備させることは出来なかったが、氷の弾を撃ち出す艦砲の類はそのまま備え付けてある。
「全四体だ。なるべく早く斬り倒してみせろ、雷光号」
『あいよ!』
機関を最大限にふかして、雷光号は突進した。
俺の遠隔操作により、海賊型標的艦は距離を取りつつ氷弾を乱射するが――。
『――ひとつ!』
一番近くにいたそれが、斜めに両断された。
崩れ落ちる海賊型標的艦に――。
「うわっ!?」
同乗していたクリスが声を上げる。
雷光号が、撃破した標的艦を踏み台にして、高く飛び上がったからだ。
『ふたつ!』
真っ向から光帯剣を振り下ろし、雷光号は標的艦を頭からまっぷたつにした。
『みっつ!』
その隙をついて背後から近寄った三機目を、横から振り抜く形で両断する。
もちろん距離は取っていたのだが、雷光号は振り返らずにそのまま後に跳んだのだ。
(おかげでアリスとクリスが肘掛けにしがみつくこととなった)
『よっつ――!』
一対一となってはもはやどうしようもない。
四機目の海賊型標的艦は、突撃を兼ねた突きで胸部を貫かれたあと、×の字に切り捨てられた。
「うひょー、すげぇ! 氷の斬れる点を探さなくてもぶった斬れるようになったぜ!」
「ああ、そうだな……?」
氷を斬る点?
――いまなんか、すごいことをいわなかったか?
『とりあえず、これで終わり――』
「残念だったな! おかわりだ!』
海中から、追加で八機の海賊型標的艦が現れる。
『ちょ、大将!? さすがに数が多いぜ!?』
「だろうな。なので――アリス」
「はい! 『バスターⅡ』前進せよ!」
小回りの効く指揮艦『コマンダー』ではない。
先に白の七八を交戦した際小破した部分を改修し、さらには改良を加えた『バスターⅡ』である。
「バスター雷光号を改良した。具体的に言うと装甲は『魔王鋼』と『玉鋼鍛法』を組み合わせ、弾薬には通常弾の他に徹甲拡散焼夷弾『聖女の殉教』を搭載、そして艦首部分に左右三連装計六連装の『爆撃銛』発射管を新設、ついでに機関は魔力機関と『封歴禁書』に記された新機関の同時搭載だ!」
『マジかよ!?』
マジだ。
もはや新造した方が早かったが、折角なので外観を変えずにここまでやった。
こうすれば、タリオン側からは新型装備とは思われないだろういう狙いもある。
『よっしゃ行くぜ! 雷光号、合体するぜぇ!』
「了解、『バスターⅡ』から『コマンダー』離脱します。クリス総司令、合体承認を!」
「雷光号、合体を承認します」
クリスの承認により、三胴艦となっている『バスターⅡ』から真ん中の『コマンダー』が離脱した。
そしてその代わりに雷光号がその間に挟まる。
『真・バスター雷光号!』
「……真?」
特にそう名付けた憶えはないのだが……。
『いいじゃねぇか、気分だよ、気分!』
他ならぬ雷光号の言なので、そういうことなり――。
真・バスター雷光号は先ほどの四機よりも早く、残りの八機を殲滅したのであった。
■今日のNGシーン
「扱いには、気をつけろよ……」
『おう!』
通常の大きさの光帯剣も十分に危険な武器だが、この雷光号大のものはさらに危険なものとなる。
一振りするだけで、通常の艦船を容易に輪切りにすることが出来るのだ。
ましてや生身の魔族や人間など、苦しむ間すら与えまい。
「水着のお姉さんが集団で現れても、絶対にそれで斬るなよ」
『んなイカれた状況なんてねーだろ』
「そう……だな……」




