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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二二八話:魔王ですが、提督聖女の要求に応えます

「まじめな話」


 不真面目な表情で、前衛艦隊司令官ドゥエ・ブロシア元帥は言葉を続けた。

 雷光号居室。

 タリオンのいう期日まであまり時間は残っていなかったが、あえて休みを俺達は取っていたまさにその日に、ドゥエは単身乗り込んできたのであった。


「ウチの艦隊ってのは、姉さん――聖女を護ることにその存在意義がある訳よ」

「だろうな」


 対面上に並べた長椅子に座り、俺。

 ドゥエの戦い方は、ある意味一番よく知っていた。なぜなら――。


「といっても、聖女がアステルんとこみたいに高速機動戦を許されている訳でもないし、リョウコんとこみたいに移乗白兵戦を行う訳でもないし、ましてやエミルんとこみたいに単身突撃して銛をぶち込むなんてことをするわけがない。聖女に許されている戦法はただひとつ――」

「制圧前進」

「……アンタ、本当まじめにあそこで勉強していたのね」

「そうだな」


 ドゥエのいうあそことは、船団ジェネロウスで行われた灰かぶり(シンデレラ)杯のことであろう。

 たしかにあそこの座学では、聖女の戦法について、簡単だが講義を行っていた。

 だがしかし、俺が即答できたのは、そのためではない。

 魔王に許されていた戦法はただひとつ――制圧前進だったからだ。

 相手の攻撃を躱すことなく受け止め続け、正面から撃破する。

 なるほど、どんな攻撃をしてもそのように進軍してくる敵は、確かに脅威だろう。

 だが俺の代で、その風習には退場してもらった。

 理屈はそうでも、非効率極まりなかったからだ。

 単に、俺の代では魔王軍はだいぶ弱体化していて、その戦法を採るのが物理的に厳しかったというのもあったが……。

 やはり、元船団ジェネロウスは、魔王の文化風習を色濃く遺している。

 それがわかる一幕であった。


「まぁとにかく、ウチはひたすら殴られながら相手を殴り倒す、そういうやり方をずっと続けるしかないのよ。今までがそうだったぶん、これからもきっとね」


 それが元船団ジェネロウス艦隊、現前衛艦隊としての矜持なのだろう。


「だから、頼みがあるのよ。一個人としてね」


 そこで、ようやくドゥエはまじめにこちらを見据えた。


「敵が使う、あの光の柱。防げるようにすることは出来る?」


 やはり、それか。

 俺は内心で息をつく。

 ドゥエの艦隊は、被弾に対する対策を最優先に編成された艦隊だ。

 故に装甲、特に正面の装甲は分厚く、また被弾時に敵弾をなるべく弾けるよう、独特の傾斜を設けてある。

 この傾斜確度は俺も知らなかったもので、以降の開発に、ある程度取り入れていたりする。

 例を挙げれば、先に試験がすべて終わった飛行装置がいい例だ。


 だがしかし、いかに優れた装甲であろうとも、荷電粒子砲を防ぎきることは出来ない。


 それでは、ドゥエの艦隊は存在意義を失う。

 それは、どうやってでも避けたいのだろう。


「……手段はある」

「よかった、あるのね」

「ただし、色々と制約があるが……いいか?」

「構わないわ」


 一瞬も迷わずに、ドゥエは即答した。


「あれを防げるのなら、ありとあらゆる方法でやってちょうだい」

「了解した。戦艦『白狼(はくろう)』を改造する方向でかまわないか?」

「それでお願い。……あと、これを」


 そういって、ドゥエは報告書をこちらに手渡した。

 分類は『極秘』関係者以外が目にすることが出来ない、最上級機密だ。


「これは?」

「読んでみればわかるわ」


 俺は書類の(ページ)をめくる。


「――なんだ、これは……!」

「火薬の量を高密度にした強装、硬化処理を施し形状も貫通力を高めた徹甲、そして着弾した後弾頭後部に仕込まれた着火薬による焼夷――それらをひとつにまとめたものよ。私達はこれを禁忌として『聖女の殉教』弾と呼んでいるわ」


 あきらかに、船団を護るための用途とは逸脱している砲弾であった。

 これはむしろ侵略――いや、殺戮のためにあるようなものだ。


「これは、もしや……」

「ええ、そうよ。万が一、船団ジェネロウスが他の四船団と戦争状態になったときに備えた、禁忌中の禁忌。でも今回はアンタみたいなでたらめと同じことができるのが、敵なんでしょ? だったら、出し惜しみをする必要は、ないわよね?」


 ただし何かあった場合、()()()()()()()()()()()()()()

 暗にドゥエはそういっていた。

 いつもは必ず姉を伴って――というか姉に随伴する形にしている彼女が、伴もつけずに単身でいるというのが、その証拠だろう。


「っていうかクリスタイン。そっちもあるんでしょう? そういうの」

「ええ、ありますよ」


 当然のように居室でくつろいでいたクリスが、あっさりとそれを認める。

 どうやら、元船団シトラスにも、そういう禁忌はあるらしい。


「というか、次回の会議で各船団から一斉に出すって話になっているようですよ」

「え、それ聞いていないんだけど」

「そりゃそうですよ。発案したの、アンさんなんですから」

「……ん?」


 ドゥエが首を傾げる。

 どうやら、いつものように双子姉妹のすれ違いらしい。


「じゃあなによ、姉さんも責は自分が負うとか考えているんじゃないでしょうね……」

「そういうドゥエこそ、そういうこと考えているんじゃないんですか?」


 当のアンが、さも当然という顔で、そう答えた。

 ちなみに、風呂上がりである。

 戦艦『白狼』にも、もっと大きな浴場を作っておいたのだが、本人曰く、雷光号の風呂が大きさ的にちょうどいいらしい。


「なにやってんのよ姉さんーっ!」

「それはこっちの台詞ですよドゥエーっ!」


 クリスが呆れたように肩をすくめ、アリスが困ったような笑みを浮かべる。

 もういつものことなので、俺はさっさと設計をはじめることにした。

 荷電粒子砲を艦隊規模で防ぐには……。




 ふ。

 ふは。

 ふはは。

 ふはははは!

 ふははははは!

 ハハハハハハハ!

 ハーハッハッハッハァ!

 資材がどこにあるって? 海底工場が最大稼働中だから安心しろ!




「おお……」


 アンが、感嘆の声を上げた。


「いや、これは……」


 逆にドゥエは、困惑の声を上げる。


「随分大きくなりましたね」

「っていうか、これもう元の『白狼』の面影ないじゃない。改造していいとはいったけど、まったく別の艦にしろなんていっていないわよ!」


 たしかに、まったく別の艦にしてしまっては、改造の意味がない。

 それならば、新造した方が早いし、建造作業そのものも楽だからだ。

 だが――。


「艦橋に入ってみてくれ。そうすればわかる」


 俺に促されるまま、皆で艦橋に入る。


「あ、中はまったく一緒なんですね」

「逆に気持ち悪いわよ。どこをどうやったらそうできるの」


 実は、わりと苦労した部分である。


「操艦面での一番の違いは、乗員の少数化だ。本艦はその設計上、雷光号や紅雷号四姉妹と合体することを考慮して作られている。故に、格闘戦に備えて乗る乗員は必要最低限で済ませるようにした。事実上、艦橋以外に乗員を配置する必要はない」

「機関室は?」


 ドゥエがすぐさま指摘する。

 たしかに、通常の蒸気機関であれば、機関室は必須だろう。

 他には、主砲や速射砲の砲塔、艦橋よりさらに上にある、測距儀内部であろうか。


「機関は、雷光号や紅雷号四姉妹と同じく魔力式に換装した。故に艦橋から制御できる。砲塔と測距儀は無人化に改造済み。こちらも艦橋から制御可能だ」


 おそらく操艦に慣熟するまでは、従来より艦橋につめる人数は多くなるだろう。

 故に、艦橋は違和感を抱かない程度に、ほんの少しだけ大きくなっている。


「あ、私の席、ちゃんとドゥエと同じ高さにしてくれたんですね。ありがとうございます!」

「ちょっ!?」


 それは、アンからの注文であった。

 内緒でお願いしますというから黙っていたのだが、もう秘密にしなくていいらしい。


「それじゃ、どっちが上なんだかわかんなくなるでしょ!」

「いいじゃないですか。戦場じゃ私は戦意高揚以外役にたたないんですから。それに、伝統とかは私達の後の聖女と艦隊司令官が決めればいいことです。ね?」

「……好きにしなさいよ、もう」


 ぷいとそっぽを向いて、ドゥエ。

 どうも、照れ隠しであるらしい。


「で? マリウス。なんでこの『白狼』が大型化したのか、教えてくれる?」


 そう、最初にアンが感想を漏らしたように、この艦は大型化している。

 全長は約五割増し、全幅と全高に到っては二倍近い。


「砲塔が増えている訳ではないようだけど……?」

「艦としての武装は増やしていない。そのままだ」

「それじゃ巨大化は何故? 防御力をあげるため?」

「それもある。万が一を考えて装甲はすべて多重化した。荷電粒子砲の直撃を受けても、十数秒は保つようになっている」

「それだけ?」

「……いいや? これからその試験を始めよう。雷光号、合体準備」

『おう!』


 強襲形態になった雷光号は、俺達が乗る戦艦『白狼』――いや、要塞戦艦『白狼』の背後に立つ。


「ドゥエ。合体の承認を」

「え、ああ」


 慌ててドゥエが提督席に座る。

 となりの聖女席――要望通り、一段低くして提督席と高さを合わせてある――には、既にアンが座っていた。


「この表示板にあるやつね」

「ああ」

「あの! 私の席のすぐ前もぴかぴか光っていますけど!」

「聖女か司令官のどちらかが承認すれば、合体可能だ。今回はドゥエがやってくれ」

「わかったわ。雷光号、合体を承認します!」


 表示板に触れ、ドゥエが声高々に宣言する。

 すると、要塞戦艦『白狼』が震えだした。

 合体用に、変形をはじめたのだ。


『うおお!? 後がばかばか空いていくぜ?』

「前方は戦術上、常に敵へと向いているだろうからな。雷光号、鎧を着るように合体しろ」

『おう!』


 リョウコの揚陸戦艦『鬼斬改二』の場合は、雷光号の後から合体し、変形していく形をとっていた。

 今度の要塞戦艦『白狼』は、変形し、雷光号の前から合体する方式をとっているのだ。


 『白狼』の艦橋から前が横ふたつに割れ、背負い式になっている主砲一番砲塔が右に、二番砲塔が左に移動し、巨大な手甲となる。

 艦橋から後部も同じようにわかれ、雷光号の腰から下を覆う形になる。


『合体完了! 白狼雷光号!』


 それは、巨大な腕と重装甲の鎧を全身に着込んだ姿をしていた。

 陸戦の経験が十分に積まれたものなら、装甲兵にみえたことだろう。

 ただし、剣や刀、あるいは槍などの接近戦装備は所有していない。

 その巨大な腕が、この白狼雷光号最大の装備そのものだからだ。

 ちなみに、俺達が今いる艦橋は、白狼雷光号の胸部装甲最上部となっている。

 雷光号の操縦室からみれば、ちょうど見下ろす形で、白狼の艦橋がみえているはずであった。


「……随分、物々しいわね」


 ドゥエが唸る。


「それだけの必要はあるということだ。次、エミル。準備を頼む」

『もう出来てるぜ……だけど、本当にいいんだな?』


 俺達の前方に雷装駆逐艦『轟炎再来ゴゥファイヤーアゲイン』と合体した蒼雷号、つまり轟炎蒼雷号が立ちふさがった。

 肩の荷電粒子砲は、既に発射準備を整えている。


『わりぃが直撃はさせねぇぞ。艦橋右横をかする程度だ』

「ああ、それでいい。雷光号、アン、ドゥエ。『聖女の二重奏』準備」

「なによその名前!?」


 抗議したのは、ドゥエだけであった。

 両腕を前に突き出して構え、アンが表示板に浮かんだ光に手を触れ、承認する。


「ほらっ、ドゥエもはやく!」

「これは特殊すぎる装備だからな。聖女と艦隊司令官ふたりの許可が同時に要るようになっている」

「――わかったわよ! 『聖女の二重奏』承認!」


 いちいち名前を叫ばなくてもいいのだが……それは黙っていよう。

 そしてドゥエが承認した途端、白狼雷光号の手首から先が一段階伸びた。

 そして内部から蒸気機関に使うような三二枚の羽根車が飛び出すと、高速回転をはじめる。


「準備完了だ。エミル、撃て」

『間違っても真っ正面から食らうんじゃねえぞ! 轟炎蒼雷号! 荷電粒子砲、発射!』

『了解! お父様、白狼雷光号叔父様、お気をつけて!』


 轟炎蒼雷号が、あの青の〇一〇との打ち合いで競り勝った荷電粒子砲を発射した。

 まばゆい光の柱が、白狼雷光号をかすめ――、


 なかった。


 両手の平を広げ、手首の付近の羽根車を高速回転させる白狼雷光号の点前で、荷電粒子砲はまるで水面の渦に巻き込まれる落ち葉の群れのように、次々と巻き込まれていく。

 そして――、


「なっ――!」


 驚くドゥエの声に合わせるように、半球状の形を描いて、拡散するように消滅した。

 その範囲、単艦ではない。

 一個艦隊は悠々護れるだけの広さがあるのである。


「――これが荷電粒子砲対策、超大規模力場障壁『聖女の二重奏』だ。範囲はだいたい前衛艦隊全艦分。白狼を中心に、半球状に展開する。だから、麾下の艦隊は決してその前にでないように」


 実は、あまり意味のない忠告である。

 ドゥエの旧ジュネロウス艦隊、現前衛艦隊は、旗艦から左右後方へと錐のように布陣するからだ。


「いや、あんた、これ……」


 ドゥエが絶句する。

 音声は聞こえないが、おそらくエミルはいつもの「そこまでやるか?」を操縦席で呟いているだろう。


「すっごい綺麗でしたね!」


 その場の雰囲気をかき消すかのように、アンが無邪気な声をあげる。

 これならば、『聖女の二重奏』はうまく運用できるだろう。

 そう思う、俺であった。



『なぁ、大将。ブロウ◯ンマグ◯ムはねぇの?』

「ない。プロ◯クトシェ◯ド二枚張りだからな」

「なにふたりして危ない会話しているんですかっ!」

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