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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二二七話:天駆ける提督令嬢

「申し訳ありませんが……」


 と、リョウコ・ルーツ元帥は視線を微妙にそらしつつ、言葉を続けた。


「我が艦隊――いえ、私が預かる艦隊には、空を飛ぶ戦艦の運用は無理かと思われます……」


 機動要塞『シトラス』将官専用小会議室。

 正面の表示板には、空を飛ぶ雷光号の映像が表示されている。

 参加しているのは、五人の元帥、すなわち元船団シトラス司令官クリス・クリスタイン、元船団ウィステリア司令官アステル・パーム、元船団ジェネロウス司令官ドゥエ・ブロシア、元船団フラット司令官エミル・フラット、そして元船団ルーツ司令官リョウコ・ルーツであった。

 ちなみに、俺の背後には秘書官であるアリスが控えている。


「おなじく、ウチの艦隊でも向いていないわよ」


 こちらから問う前にドゥエがそう発言した。


「知っての通り、こっちでの運用は殴られ続けながら殴り返す、だから。そりゃ、音の速さの二倍で突っ込むなんて、ちょっとやってみたくはあるけどね」

「オレんとこもそうだなぁ。そいつ、水雷艇(バイク)積めねえだろ?」

「数隻なら積めなくもないが……高空はかなりの低温だぞ。耐えられるのか?」

「気合い!」

「無理だ」


 高空の気温は、高山のそれとは比較にならないほど、寒い。

 加えて、音の二倍の速さで飛ぶのだ。

 雷光号の操縦席、および居住区は緊急時の潜水などに対応するため密閉し、気圧、温度を一定に保っているが、さすがに水雷艇の格納庫にまでそれを施すことは出来ない。

 第一、下手に密閉し与圧すると、いざというときの緊急発進時に搭乗員たちが酷いことになる。

 これを防ぐには、気温、気圧を調整せず防寒着を着てもらうしかないのだが……そこまでやるのは、する方もされる方も厳しいだろう。


「とすると、やはり私の方で預かる形でしょうか。運用する場合、単艦でのそれになりますが……」


 クリスがそう呟いた。

 リョウコもドゥエもエミルも、そもそも飛ぶものへの抵抗感がまだ強い。

 そういう意味で、俺もクリスが預かるのが妥当だと考えていたのだが――。


「おまちください」


 そう発言したのは、アステルであった。


「その空飛ぶ装置、(わたくし)の高速機動艦隊で預かりましょう」

「……いいのか?」


 念のため、確認する。

 たしかにアステルも雷光号の飛行試験に同乗していたし、元々は高速戦艦の艦隊を指揮しているのだから、妥当といえば妥当だが……。


「ええ、もちろん。ただし、現在建造中の単体稼働用の艦に(わたくし)の注文を加えていただくことが条件ですけれど」

「それは構わないが……」


 単体稼働用の艦とは、要するにクリスの戦艦『バスターⅡ』に対する指揮艦『コマンダー』、リョウコの揚陸戦艦『鬼斬改二(おにきりかいに)』に対する強襲揚陸艦『鬼斬』のように、雷光号と合体した後に残る、艦の中核部分だ。

 (エミルの駆逐艦『轟炎再来ゴゥファイヤーアゲイン』は丸ごと合体するので該当しない)

 ただ、その艦の運用が難しい。

 単体では空を飛べないし、かといって指揮艦『コマンダー』のように司令部要員を載せること運用にするとそれだけ乗員の安全に気を配る必要が出てきてしまう。

 そのことを俺が説明すると、アステルは間髪入れず、


「中枢となる艦は要りませんわ。飛行時に武装を制限されるわけですし、乗員の数も制限されるでしょう。そして分離後単体ではそれほど戦闘力がない――となれば、単体では不要といえるのではなくて?」

「その通りだが、それではどうする?」

「簡単な話ですわ」


 髪をかき上げて、アステルは自信満々に続けた。


「紅雷号に、直接装着するようにすればよいのです」

「――なるほど、その手があったか」


 紅雷号四姉妹は基本的に雷光号の武装をそのまま使うことが出来る。

 だから蒼雷号が『轟炎再来ゴゥファイヤーアゲイン』と合体して轟炎蒼雷号になることも可能であるし、黒雷号が『鬼斬改二』と合体して鬼斬黒雷号になることも可能ではある。

 つまり、この飛行用装備を紅雷号と雷光号が交互に使いわけることも、可能というわけだ。


「ただ、この前の飛行試験でみたとおり、通常の武装は使えないに等しい。その部分はどうする?」

「そこについて、紅雷号と事前に相談していたのですけれど――」


 そういって、アステルは俺に書類を手渡した。


「このような武装、建造することは可能かしら?」




□ □ □




 ふ。

 ふは。

 ふはは。

 ふはははは!

 ふははははは!

 ハハハハハハハ!

 ハーハッハッハッハァ!

 やはり物作りはたーのーしーいーなー!




 それは、流線型の盾と中口径の砲を組み合わせた形をしていた。


『よっこいしょっと……』


 強襲形態になった紅雷号が、例の氷で出来た標的艦を目標に、それを構える。

 右腕全体を覆うようになったそれを、左手で支えるようにして構えれば、射撃可能となるのだが――。


「なんだあの砲身」


 指揮艦『コマンダー』艦橋。

 案の定というかなんというか、そこから身を乗り出すように眺めていたエミルが、その形状を指摘した。


「二連装、三連装ならまだわかるが……七連装か? ありゃ」

「上から順に二連装、三連装、二連装となっているわね」


 ドゥエも鋭い視線でそれを見つめる。


「でも、あんなに砲身が近づいていると、一斉に射撃すると砲弾がお互い干渉して、命中率が極端に落ちるわよ。それくらい、知っていると思っていたんだけど?」

「無論、知っている」


 と、俺。

 封印前に使われていたのは主に単装砲であったが、魔王城や要塞の砲に二連装、三連装の案は既に考案されていた。そして上下二連にした四連装砲で、ドゥエのいう干渉が発生し、手痛い失敗をしたのもよく覚えている。


「あれの中心にあるものは、砲塔ではない。回転軸だ」

「「回転軸ゥ!?」」


 エミルとドゥエの声が、重なった。


「そうだ。砲身が回転することにより、砲弾の充填と激発、そして排莢を同時に行えるようになっている」


「……ええと?」


 リョウコが、困った様子で俺をみる。

 おそらく、上手く想像出来なかったのだろう。


「このようになっている。アリス」

「はい。例の模型ですね」


 そんなこともあろうかと、構造がわかる模型を作っておいたのだ。

 アリスがそれをもってきたので、俺は各部をみせながら説明を続ける。


「まず、砲身が回転する。そこに帯状の弾薬庫から砲弾が供給される。それは一番上に位置する一本前で装填され、一番上のときに激発される。そして、一本後で排莢されるという仕組みだ」

「それなら、砲身は三本でよかったんじゃない?」


 ドゥエが鋭い指摘を入れた。


「俺も最初はそう思った。だが――紅雷号、やってくれ」

『はい、パパ! 超高速連射砲、射撃開始!』


 落雷に似た轟音が、響き渡った。

 落雷と決定的に違うのは、一瞬で終わるはずの轟音が、数秒間続いたことだ。


「このように、超高速連射を行うと、砲身の寿命が極端に縮む。なので、最小運用本数である三本の倍、六本としたわけだ」


 それ以上増やせば、もちろん寿命は延びる。

 しかし、その分この武装が重くなるため、この本数で妥協したのであった。


「いや、ちょっとまて。標的艦が消滅しているんだが……何発ぶち込んだ!?」

「一瞬で消えたから、よくわからなかったけど、速射砲のそれとは段違いだったわよ……どうしたの、リョウコ?」


 エミルに続いてそういったドゥエが、リョウコを怪訝な様子でみる。

 彼女の額に、滝のような冷や汗が浮かんだからだ。


「六発です……」

「おいおいリョウコ、たった六発で標的艦が消滅するかよ」

「いえ、()()()()()()()です。射撃時間は五秒でしたから、三十発……!」


 ちょっとした静寂が、艦橋内を支配した。

 おそらく、刀による白兵戦の鍛錬に事欠かないリョウコだからこそみえたのだろう。


「巡洋艦の主砲に使うような、中口径の主砲を、一秒間に六発……?」

「三十発っていえば、だいたい三隻分が斉射したと考えればいいかしらね……そりゃ、標的艦、消滅するわ」


 エミルとドゥエの額にも、冷や汗が浮かんでいた。


「それでマリウス殿、あの盾はなにに使うのでしょう。盾にしては大きすぎますし、腕の動きを阻害しているようですが……?」

「ああ、あれは盾としても使えるが、別の側面があってな。紅雷号、航行形態に変形」

『了解よ!』


 そういって、紅雷号が変形した。その際、超高速連射砲は一度紅雷号の手を離れ――航行形態の前甲板を、すっぽりと覆うように装着された。

 一見すると、まるで紅雷号そのものが、巨大な流線型の砲塔になったかのようにみえる。


「雷光号の飛行試験のとき、予想以上に空気の抵抗というものが大きかった。なので、それを受け流すためにこのような形状にしたわけだ」


 実は航行する際も意外と馬鹿にならないことが判明している。

 この状態の紅雷号は、武装こそ前方の超高速連射砲のみとなるものの、航行速度は一割増しになっていた。


「そして、飛行中はかつ前方の敵のみにしか効果的な射撃を行えない。なので、威力を補うために、このような連射速度になったというわけだ」


 強襲形態の雷光号が、例の飛行装置を航行形態の紅雷号に装着させる。

 もともと飛行装置も流線型であったため、雷光号よりも一体感のある艦様となった紅雷号をみつめ、俺は続ける。


「さて、アステル。この飛行装置と超高速連射砲を装着した紅雷号を、なんと呼ぶ?」

『――そうですわね』


 通信機越しに、アステルの声が響いた。

 そう、彼女は『コマンダー』の艦橋にいない。

 紅雷号の、緊急用操縦席から一部始終をみていたのだ。


『なるべく連射速度の速い速射砲と注文したのは(わたくし)ですけれど、まさかここまで早いものが出来るとは思いませんでしたわ。――それはさておき。紅雷号、空は飛べて?』

『あ、はい。可能ですけど……パパ?』

「かまわん。ただし、音速は超えるなよ」


 現在すぐ近くに『コマンダー』をはじめとする艦艇がいるため、うっかり音速を超えると衝撃波に巻き込まれかねない。


『了解! 紅雷号、離水しま――』

『いいえ紅雷号、こう名乗りなさい。――ステラ紅雷号と』

『――了解っ! ステラ紅雷号、離水します!』


 海面を激しく泡立てさせて、ステラ紅雷号が離水する。

 そのまま空へと舞い上がるその様子は、まるで巨大な白鳥が優雅に飛び立っていくようであった。

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