表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/385

第二二六話:輝け! 第二回鳥戦艦コンテスト!「え? まだやんの!?」


「イカなぁ……たしかに、一部のは、飛ぶよな。それも結構長く」


 それをみて、エミルは語り出した。


「おとぎ話の中には、あまりにも永く飛びすぎたんで干物になったっていうのもあるくらいだ。だけどよ……」


 船団アリス演習海域。

 今は無風の海面に浮かぶ雷光号をみながら、エミルは続ける。


「戦艦を、イカにするやつがいるか」

「イカではない。あくまで、飛行装置だ」


 たしかに空を飛ぶイカを参考にしたが、イカそのものを造った訳ではない。断じて。




 飛行装置は、長大なものとなった。

 航行形態の雷光号と合体すると、その全長は1.5倍、全幅は3倍超となる。

 前方には菱形をまっぷたつに割って左右に取り付けたかのような前翼が、後方には二等辺三角形を同じくマップ達にして左右に取り付けたようにみえる後翼がある。

 また、飛行装置全体が翼と段差がないように、流線型となっている。

 速度が出ると、空気の抵抗が予想以上に大きくなったためであった。


「で……今度は乗るのか」

「ああ。模型での試験は成功したからな」


 最初に1/700、次に1/144、そして最後に1/100を試している。

 そのどれもが、優秀な成績を修めてた。

 そういうわけで、今回は有人での実験となった。

 参加するのは、俺、アリス、クリス、そしてエミルとアステル、スカーレットであった。

 リョウコとアンとドゥエ、それにサファイアとスピネルとオニキスは、他の艦からの見学となる。

 これは、雷光号の臨時座席が足りないのではなく――本人達の、希望であった。

 その気持ち、わからなくもない。

 空を飛ぶというのは、別次元の体験だ。

 いくら安全性を確保しても、それにつきあうのには、歴戦の指揮官であっても尻込みするものであろう。

 現に――。


「ひょ、表情が硬いぞ、クリスタイン。もしかして、びびってるのか?」

「そ、そういうエミルさんこそ! さっきから足踏みばかりしているじゃないですか!」


 こんな感じで、エミルとクリスがお互いの緊張を解消しあっている。

 アリスも、言葉にはあらわしていないが先ほどから何度も安全(たい)を確認したり、座席の調整をしていたりしているので、内心緊張しているのだろう。

 その中で、唯一平静を保っているのは、アステルだけであった。

 さすがは貴族、内心を表に出さないことは、長けているのだろう。

 付き従っているスカーレットも平静を保っているようにみえたが、あれは直属の上官であるアステルにならっているだけであって、額の汗は隠せていなかった。


「これより、新たな飛行実験を始める」


 操縦席から振り返り、俺は全員に説明をはじめる。


「まずは演習海域で離水速度にまで加速、離水後に進路を南に取り水平飛行に以降、音速を超えるまで加速する。その後緩やかに旋回して演習海域まで旗艦、同海域を目指して着水する。なにか質問はあるか」

「南を選ぶ理由は?」


 エミルがそう訊いてきた。


「ここより南には主立った船団がないからだ。北だとタリオンを刺激するし、東西は船団上空を飛ぶことになるから、演習を知らない民を驚かしかねない」

「なるほどな」

「ほかにはないか――ないなら、今一度席の安全帯を確認してくれ。離水、着水時はかなり揺れるはずだからな」


 全員が、座席の安全帯を確認してくれた。

 普段その必要がないため確認に手間取るスカーレットを、アステルが手伝う。

 そのほかは、特に問題ないようだ。


「アリス、周辺の確認」

「了解です。現在演習海域に他の艦船はありません」


 今回、規模が規模なので海上からの見学は演習海域外からとなっている。

 各場所に俺が魔力による映像の送信装置を設置してあるので表示板から現状を知ることは、可能であった。


「よし、雷光号、微速前進」

『お、おう!』


 緊張しているのだろう。どこか声が上擦っている雷光号であったが、動きそのものには、よどみがない。

 雷光号は、滑るように海上を進み始めた。


「雷光号、今のうちに前後の翼の動作確認」

『おう!』


 垂直の舵を水平にした――各翼の後半部分が、ぱたぱたと動く。

 ここが動作不良に陥ると、墜落へと文字通り真っ逆さまだ。

 もちろん、緊急時には雷光号が飛行装置を排除し、強襲形態となって全力で下方向に推力をふかす予定であった。

 これならば、かなりの衝撃であるが負傷することはない……計算上は。


『大将、前後の翼、問題なしだぜ!』

「よろしい。それでは雷光号、最大戦速!」

『おう!』


 ぐんと、加速する感覚が全身を包む。

 だが、離水するときはこの比ではないはずだ。


「雷光号、最大戦速に到達しました!」


 アリスが報告する。


「よし。総員。肘掛けをしっかり掴め。雷光号、飛行装置機関――全開!」

『お、おう! しっかり掴まっていろよ!』


 後方で、機関の駆動音が響いた。

 並列二基の充填式魔力機関が前回となったのだ。

 そう、この飛行装置には魔力機関がふたつも搭載されている。

 雷光号、鬼斬改二(おにきりかいに)轟炎再来ゴゥファイヤーアゲイン、そして紅雷号四姉妹にも一基しか搭載されていないものをふたつも搭載しているのは、それだけ空を飛ぶという行為に大出力を求められるためであった。


「翼の舵を下げろ。雷光号、飛行装置の出力解放!」

『おう!』


 途端、雷光号が急加速した。

 以前やった緊急出港のそれとは比較にならない衝撃が、それも一瞬ではなく、今も続いている。


『うおおおおお!』


 激しく揺れる操縦室内に、雷光号の雄叫びが響く。

 現在の速度は、音の1/4程度。それでも、雷光号単体が出す最大速度の三倍を軽く超える。

 ほとんど波のない日を選んだが、その速度に達すると、海水の抵抗がすさまじい。

 そのため、操縦室内は激しく揺れているのだ。


「離水速度、到達しました!」


 激しい揺れの中で、アリスが叫んだ。


「雷光号、離水!」

『あいよ! あがれえええええええ!』


 直後、揺れがふっと消えた。

 代わりに操縦室全体が、前方へと大きく上に傾く。

 そして見える景色は――空のみであった。


「雷光号、離水に成功しました」


 アリスの報告が、揺れの収まった操縦室内に響く。


「雷光号、安全な高度に到達するまで上昇を維持」

『あいよ! すげぇ、勢い任せじゃなくて普通に飛んでるぞオイラァ!』


 たしかに、今までの砲弾のように勢いに任せて突き進むのは違い、今回はアリスが気付かせてくれたように、風を掴んで、それを飛ぶために力に変えてある。

 今度こそ、雷光号は空を飛ぶことに成功したのだ。


「あの、マリウスさん。高度は――」

「そうだな……」


 操縦席の操作盤をいじり、正面の表示板から下方を映す。

 あれだけ大きい機動要塞『シトラス』が、眼下では豆粒のように映っていた。


「雷光号、水平飛行に移行しろ」

『おう。えっと翼を水平に、ちょっとだけ当て舵の要領で少しだけ上向きな?』


 そういって、操縦室内が水平に移る。

 続いては――。


「雷光号、旋回。進路を南に取れ」

『あいよ。まずは後の翼を片方上、片方下、んで前の翼を両方とも上――っと』


 雷光号が傾斜をとり、継いで旋回していく。

 俺とアリス以外、誰もなにも喋らなかった。

 ただひたすら、操縦室からみえる風景を凝視している。

 特に、クリスは目を輝かせていた。

 どうも緊張よりも、好奇心が勝っているらしい。


『旋回終わり、進路南だぜ』

「よし、ここまでが事実上の実験第一段階で、たったいま無事に終了した。続いては、実験第二段階に移行する。アリス、現在の速力」

「あ、はい! えっと――現在音の8/10倍です」

「マジかよ……」


 エミルが唸った。

 大まかにいえばそれは、エミルの水雷艇のおおよそ十倍の速さとなる。


「音の二倍まで加速する。雷光号、速力が上がれば上がるほど、翼の舵のちょっとした動きで、雷光号は大きく進路を変える。気をつけろよ」

『あいよ。ほんじゃま、加速するぜ!』


 再び、俺達は加速感に包まれた。

 今度は、ひたすら前だけから押しつけられるような感覚だ。


「間もなく、音速の等倍に到達します」


 アリスの報告と共に、雷光号が小刻みに震え出す。

 後になってわかったことだが、これは音速の壁と呼ばれる、一種の境界突破であった。


「雷光号、音速に到達! さらに加速して、音速の1.1倍……1.2倍!」


 アリスの声も、少しだけ緊張の色を含んでいた。

 それはそうだろう。音の速さを超えるなど、いままで想像もしていなかったに違いない。


「――雷光号、音速の二倍に到達しました!」


 そして、音の速度を明らかに超えたとき、雷光号の振動は嘘のように収まっていた。


「すげぇな……」


 雲ひとつない空を、雷光号が一直線に飛ぶ。


「いま甲板にでたら、すっげぇ気持ちいいだろうな!」

「即座にふっとばされますわよ」


 突拍子もないことをいうエミルに、アステルが呆れたようにそう答えた。


「すごい……これが空を飛ぶということなんですね……!」


 そしてクリスは、純粋に感動していた。

 普段の彼女であれば即座にこの事実を新しい戦略に組み込んでいるはずであるが、今はこの封印される前の俺ですらなしえなかった事実に、感動しているようだ。

 だが、俺は感動している場合ではなかった。


「雷光号、照準の具合はどうだ」

『ぶっちゃけるぞ、大将。前以外無理!』

「だろうな……」


 こちらは音速の二倍で飛んでいるのだ。

 馬に騎乗して横向きに矢を射ることも相当難しいものであったが、その比ではないだろう。


「とすると、砲塔は前方固定か」

「後につかれたら、ある程度は動かせそうだけどな」


 それはそれで、避けたい事態であった。

 その状態になったら、反撃する前に急旋回、あるいは急降下、急上昇でもって相手の射線からずれた位置に移動しないと、あっという間に蜂の巣だろう。

 そして空の上でそうなったら――それはもう、墜落しか待っていない。


「仰角はどうだ」

『水平じゃねえと無理じゃねえかな』

「なるほどな――」


 やはり、空中における雷光号の行動は、ある程度制限されるようだ。


「つまり――こういうことですわね」


 そこで考え込む俺に、後からアステルが声をかける。


「エミルさんの水雷艇のように、前方に固定した武装。そして砲塔の数よりも、連射機能。そういったところでしょうか」

「――! そうだ、そうなるな」


 俺が考えていたことと同じことに、アステルは思いあたっていたらしい。

 つまり――。


「雷光号と合体()()()()()()()での運用――かなり、新しい発想が求められそうですわね」


 そうに違いない。

 音の二倍に達した空の上で、俺は深く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお、とうとう雷光号が空を飛びましたね! 色々と試行錯誤の末の成功だけに、感慨深いものがありますね。 それにしても参考にしたイカ、おとぎ話とはいえ干物になるまで飛ぶなんて……美味しそうで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ