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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二二四話:アリスの由来



□ □ □




 それはまだ、初代聖女が天に反旗を翻す前の話です。


 初代聖女は、ひとりぼっちでした。


 それをみた天は哀れに思い、初代聖女の友となるように、初代聖女と姿がよく似たアリスを造りました。


 初代聖女とアリスは、天の思惑通り、たいそう仲の良い友となりました。


 始終眉間にしわを寄せていたその顔に、笑顔が浮かぶようになったのです。


 ――しかし、その幸せは、永くは続きませんでした。


 アリスはアリス故に、普通の生命より寿命が短かったのです。


 アリスは最期に、初代聖女に泣かないように頼んで、息を引き取りました。


 以降、初代聖女は決して人前で涙を流さなかったといいます。


 そして――天へと反旗を翻したのでした。




□ □ □




「以上が、いわゆる外典(げてん)に記されている、初代聖女とアリスのくだりです」


 機動要塞シトラス、小会議室。

 室内には、俺と、聖女アン、そして双子の妹のドゥエしかいなかった。


「ここでいうアリスとは、名前では無いわ。正確な解釈とは言いがたいけど、おそらく擬似的な生命を指す言葉だったのでしょうね」


 ドゥエが、そう補足してくれる。


「なので、アリスという名前は、あまり使われないのです。短命であり、しかも誰かに造られたという存在ですので」

「だがそれは、元・船団ジェネロウス内でのみ、通用する話だろう」


 アンが再び言葉を継いだところで、俺はそう指摘した。

 たしかに、色々と符合はする。

 符合はするが、話が飛躍しすぎている。


「というかだな、貴様らが信仰する初代聖女も、旧き神と同じように天の使いとやらと戦ったのか」

「ええ、そうよ。そこらへんは他の船団の伝承とほぼ一緒」


 と、ドゥエ。

 元々は軍人であったはずだから、姉の負担を減らすべく、聖女の勉学に励んだのだろう。


「そして天の使いに封じられて、以降は信仰の対象となった。そのうち、ジェネロウスが分離独立する瀬戸際に立たされたとき、当時の指導者が、二代目聖女を名乗ったのよ」

「なるほど、な……」


 ジェネロウスに対する大きな疑問がいま、氷解した。

 聖女アンからさかのぼり、俺のすぐ後の聖女にまで到達すれば魔族の行く末がわかるのではないかと期待していたのだが、どうもその可能性は極めて低いようだ。

 なぜなら二代目は、血縁や同族のよしみなどではなく、必要に駆られて自ら名乗ったのだから。


「それにしても、天に反旗を翻す――か」


 その話は、いままで他の船団の伝承からは聞いたことがなかった。


「その一文があるから、外典扱いなのよ」


 頬杖をついて、ドゥエ。


「そうですね。正典によると、天の使いは、初代聖女が民になにもかもを捧げるのを諫めるために出現した存在と記されています。ですが、外典では、明確に反旗を翻したと記載されている――」


 聖女の顔になって、アンは続ける。


「ですから、教義としては、かなり重要度が低いのです。ですが、先ほどのアリスの下りは、正典、外典を併せても珍しい描写なので――」

「場合によっては、天の使いと同じ存在であるというわけだな」

「……そうですね。法学者の間では、そういう解釈が一番多いです」


 つまり、アリスは恣意的に創られた生命であり、そしてあの忌まわしい勇者とやらと同じ存在ということになる。


「ちなみにマリウスさん、その……アリスさんは……」


 アンの気持ちはわかる。

 人間、魔族に限らず、妙な一致というものは、心に不穏を巻き起こすのだ。

 だから、俺は――


「――断言しておくが」


 こめかみをほぐしながら、即答した。


「アリスは、正真正銘の人間だぞ」

「あ、そうなんですか。よかった!」

「――理由」


 安堵する聖女アンとは対照的に、ドゥエが即座に確認を取る。


「身体検査をした」

「アンタすでに手を付けてたのっ!?」

「そういう意味では無いっ!」


 いいのか、詐称とはいえ聖女を名乗っていた者がそういう連想をして!


「――文字通りの、身体検査だ。以前、アリスがタリオンの手の者に正体不明の粘液を吹きかけられたことがあってな」


 それに未知の病原体でも含まれていようなら、かなり厄介事となる。

 故に俺は身体検査用の装置を突貫で作り上げて、アリスとクリスの検査を行ったのだ。

 結果として、その粘液はただの嫌がらせであったのだが、反面なにかの病気を仕込まれた訳では無かったので安堵した憶えがある。


「その際、アリスの肉体構造はつぶさに調査してある。魔族の血はいっさい混じっていない、純粋な人間だ」


 実は、少しだけ期待していた。

 こちらは偶然だと思うが、アリスが綺麗な石なるものに触れたら、俺の封印が解けたのだという。

 であれば、アリスには多少魔力を保持するか、あるいはその素質があるのでは無いかと思ったのだ。

 すなわちそれは、魔族と人間が混血しているのでは――という仮定であったのだが、幸か不幸か、それは否定されたのであった。

 ちなみに、一緒に検査したクリスも同じ結果を得られている。

 その際念のためアリスの数値と比較したのであるが、ふたりの間に有意の差はみられなかった。


「そんなことまでわかるなんて、まるで医者ね」

「さすがは初代聖女です!」


 アンが嬉しそうに、賞賛する。

 それは少し、くすぐったかった。


「とりあえず、アリスの名前の由来はわかった。だが、このことは他言無用で頼む」

「そうね。公表したら無用な混乱を招くだけだし、なによりアリス本人に悪影響を及ぼす恐れがあるわ」


 と、背筋を伸ばしてドゥエ。


「外典は聖女しか読めない――ま、あたしも読んだけど――から、そう簡単には流布されてないと思うわ。こっちでも一応、箝口令を出しておくけど」

「ああ、頼む」

「ただそういう古事があるということだけは憶えておいて。なにかあったとき、役に立つかもしれないから」

「そうだな。了解した」


 たしかにそういう知識をもっていることにより、旧い文献を調査するときに役立つ可能性が、十分ある。

 これでなにか古い資料を調べているときにアリスという文字列を急に目にしても、動揺することはないであろう。


「とりあえず、アリスの名前の由来はわかった。わかったが、しばらくは保留としよう」

「そうですね……アリスさん本人にお伝えする内容ではありませんから……」


 少し表情を暗くして、聖女アン。


「それより、もっと大事な議題があるでしょ? あしたからとりかかるんですって?」


 聖女の妹から元帥の顔になって、ドゥエがそう尋ねる。


「ああ。明日からは、例の――空を飛ぶ青の〇〇六対策だ」


 困ったことに、相手は空を飛ぶ。

 それに対し、こちらは有効な対抗手段を構築していない。

 それゆえ、その対策は難航しそうであった。

 せめて、空を飛ぶ原理が掴めればいいのだが……。

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