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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二二二話:「大将が大将になった! って書くと、ほんとわけわかんねぇな!」

 久々の雷光号共用居室。

 そして久々の休暇。


「大船団長か……」


 長椅子に寝そべって、俺はそう呟いていた。


「さっきからそればかりですね。マリウス()()


 アリスに淹れてもらった茶を飲んでいたクリスが、少し呆れた声でそういう。

 そう、俺は大将になった。

 船団長代行管理官になった際に、中将に昇進していた俺であったが、今回の船団統合の功績で大将へと昇進したのだ。

 そしてクリスは、いままで俺を艦長や管理官と役職で呼んでいたが、今回は大将と階級で呼ぶようになった

 クリス曰く、この方が呼びやすいからだとのこと。

 たしかに大船団長はやや長いので、実に合理的であると思う。


『しっかし、大将が本当に大将になるとはなぁ。オイラびっくりだぜ』


 雷光号が、声のみでそんな感想を漏らした。

 封印が解けたばかりの俺であったら、きっと同じ感想を持つであろう。


「かくいう貴様も、大佐だろう。大出世だぞ?」

『そうなんだよなー。いまだ実感無いけどよ』


 そう、雷光号ことニーゴは、少尉から一気に大佐に昇進した。

 もちろん、これには訳がある。

 雷光号型一隻、紅雷号型四隻の地位を、()()()()()()()()()()()したためだ。

 もっと正確に言うと、シトラス以外の船団では、紅雷号達を大佐として扱っていたため、統合したいま、ニーゴの地位をそれに合わせる必要があったためだ。

 たしかに紅雷号四姉妹は乗組員が操縦のために乗る必要が無い。

 なので、彼女たちの地位を保証するのは操舵手ではなく艦長の方が正しい。

 だからそれに併せてニーゴも艦長となるのは、妥当な判断であった。

 さらには、クリスに言わせると――。


「いままでもだいたいそうでしたが、マリウス大将の指揮をもとに、ニーゴ艦長が操艦するというかたちになります。いってみれば、雷光号一隻のみの艦隊を指揮していただくという感じでしょうか」


 なるほど、大将ともなると単艦の指揮を執るには階級が高すぎるということなのだろう。

 だが、単艦とはいえ形式上は艦隊の指揮を執る形にし、それを元に艦長が艦を指揮する形にすれば、体面は保たれるという訳だ。


『なんか、いままでと変わんねぇ気がするけどな?』

「いや、これからはより貴様の判断に任せる。細かいことは言わん、自分の思うとおりにやれ」

『――おうよ! 期待に応えてみせるぜ、大将!』


 今のところ麾下の艦隊は雷光号以外にいないが、いずれ艦隊の指揮を執る必要はでてくる。

 タリオンと激突することが確定している以上、それは避けることが出来なかった。


「でも、雷光号ちゃんがわたしより偉くなったのは、嬉しいです。ちょっと、落ち着きませんでしたから」


 台所からお茶のおかわりをもってきたアリスが、そんな感想を述べた。


「とはいえ、アリスさんも中尉から大尉に昇進ですよ」


 お茶を受け取ったクリスが、礼を述べながらそう指摘する。

 考えてみれば、二〇〇歳超の俺や年齢不詳の雷光号より、十四歳で大尉に昇進するアリスが、一番すごいのかもしれない。

 もっとも、すぐ隣に十二歳で元帥のクリスがいるから、実感が湧かないのかもしれないが……。


「そうなんですよね……えっと、小型艦の艦長相当でしたっけ?」

「そうなるな。もっとも俺の副官という立場だから、直接指揮を執ることはないが」


 とはいえ、このまえのブロシア姉妹の喧嘩を収めに、臨時で雷光号の指揮を執ったアリスである。

 その際、ニーゴからは適切であったという感想をもらっているので、才能が無い訳ではなさそうであった。


「安心してください、アリスさん。私はマリウス大将の側から離すような人事はしませんし、するつもりもありませんから」

「ありがとうございますっ!」

「ところで、マリウス大将? さきほどから大船団長についてぶつぶつと呟いていますが、いったいなにがあったんですか?」

「ああ、それはだな――」


 話が元に戻ってきた。

 俺は、大船団長から連想した、大魔王について、アリスとクリスに簡単に説明する。

 大魔王。

 それはすべての魔王を統べる存在なのだという。

 伝承上の話であるが、かつては魔族の長が魔王と呼ばれ、その魔王達を統べる存在として、大魔王がいたのだという。

 魔王には七二の位階が存在し、歴代魔王はそのどれかに相当する――俺自身が、その七二番目に相当する。また、先の陛下は何故か番外となっている――ようになっているので、あながちただの伝説というわけではなさそうな話である。

 現に、封印される前の俺が魔王として諸魔族を統一した際、タリオンから大魔王就任の打診もあった。

 だが俺はそれを辞退し、やるとしても人間を滅ぼしてからと返答した。

 結果として、あの忌々しい勇者とやらが出現し、その話は宙に浮いたのだが――。


「大魔王よりも、その七二の位階というのが気になりますね」


 と、興味深げにクリス。


「要するに、称号みたいなものだがな。魔族の名前は、その位階からあやかって付けられることが多い」

「え、わたしそっちの方が興味あります」


 アリスがくいついてきた。

 どうも、俺の名前の由来が気になっていたらしい。


「七二番目の位階は、アンドロマリウスという。俺の名前、マリウスはそこからあやかって付けられたんだ。そして魔王就任時に、アンドロ・マリウスとなった」


 本当はもっと長いのだが、そこは省略する。


「ちなみにタリオンは七一番目の位階、ダンタリオンからだな。俺が魔王に就任し、同時にやつが宮廷魔術師になったときに、ダン・タリオンと名乗るようになった」


 本当は、魔王に就任しなければ名乗れない名前である。

 今思えば、タリオンは俺が大魔王に就任することを見越して、布石を打っておいたのだろう。


「なるほど……」


 ポケットからメモ帳を取り出し、丹念に記録するアリスであった。


「それで、魔王を統べる大魔王という存在は、一体なにをするんですか?」

「絶対に、逃げられないらしい」

「なんですか、それ」

「俺にもわからん。あくまで、伝承上の存在だからな」


 かくいう俺も先の陛下に回り込みばかり鍛えられた記憶がある。

 魔王だって逃げられない存在なんだからねっ!

 そんなことを、先の陛下は仰っていたが――。

 あの頃から何故か、先の陛下はただの小姓であった俺を後継者にしたがっていた節があった。

 ある意味、先見の明であったのだが――。


「でも、話を聞いていると船団長を魔王、大船団長と大魔王と置き換えると、随分しっくりときますね」

「それなんだ」


 本当に、しっくりしすぎている。

 まるでこれも、タリオンの策なのではないか。

 そう思っている俺がいるのは事実だ。

 もっとも、そう思わせること自体が、タリオンの策である可能性があるが。


「なるほど……一度辞退した大魔王の地位に、図らずも就任した気分になると」

「それもある」


 アリスもクリスも、鋭かった。


「どうしますマリウスさん。逃げられない練習でもします?」


 アリスが冗談めかしてそういうが――。

 逃げられない練習――。


「――陛下、炎の玉を投げつけるのはおやめください。それとなんですかそのブルマという運動着は。破廉恥です破廉恥すぎます。あああ、連射しないでください……!」

「マリウス大将!?」

「マリウスさん!?」


 陛下ではなくコーチと呼びなさい!

 そう叫びながら、得意の炎の魔法を連射する先の陛下――。

 つい、過去の記憶が蘇ってしまう俺であった。


「す、すまない――とにかくだな。どのみちは俺の思い込みだ。こういうものは、気にしないに限る」


 そう、この手の心理的揺さぶりは、気にしないことが最良の対抗手段なのだ。

 もっともそれには、相応の胆力と気力を求められるが――。


「俺は魔王であったし、いまは大船団長だ。期待と責任には、応えねばなるまいよ」


 いちいちそんなものを思い煩っていては、きりがない。

 それよりも、やるべきことをやらなくてはならなかった。


「そうですね。私もそうだとおもいます」


 自らが元帥であり護衛艦隊の司令官――つまりは、全艦隊の指揮官――である、クリスが頷いた。


「そして、私がそれを支えればいいんですね」

「そうだな……ああ、そうなる」


 副官の顔で応えるアリスに、俺は頷いて肯定する。


『それじゃ、オイラは実戦ってとこだな』

「ああ、頼むぞ。雷光号」

『おうよ! ――って、機動要塞『シトラス』から通信だ。これはミュウの姉ちゃんだな』

「繋いでくれ」


 たとえ休暇中であっても、みな階級が高い。

 それ故、急を要する報せというものは、どうしてもある。


『お休みのところ、申し訳ありません。マリウス大船団長』


 かくいうミュウ・トライハル准将は、まったく休んでいる様子がなかった。

 そろそろ、休暇をむりにでもとらせようかと、俺とクリスで共謀するほどである。


『ミニス王陛下と、聖女アン猊下より、明日の会議に議題がひとつ追加されました』

「明日は、空を飛ぶ青の〇〇六の対策が主たる議題だったが――それに追加するものとは?」


 ミニス王も、聖女アンも、船団を統合してから妙に生き生きとしている気がする。

 それはある意味、喜ばしいことではあった。


『ええとですね……折角統合したのだから、新しい船団名を考えるべきである――とのことです』

「新しい船団名」


 軍事的には、なにも意味が無い。

 だが、政治的には——船団に住む民にとって——それはとても意味があることは、わかる。

 わかってしまう。


「了解した。お二方に議題に加えることを了承すると伝えてくれ」

『かしこまりました』

「それとトライハル准将、そろそろ休暇を――」

『それでは法整備の続きがありますのでこれで!』


 強引に通信を切るトライハル准将であった。


「新しい、船団名ですか」


 難しそうな顔で、クリスが呟く。

 実際、それはとても難しい。

 まったく新しい船団が生まれるのならともかく、それぞれに歴史のある船団が統合して生まれるからだ。


「いっそのこと、船団マリウスにしていかがですか?」

「それだけは、やめてくれ……!」


 かなり本気でそんなことをいうアリスに、俺は全力で辞退したのであった。





「それで、マリウスさんはカイザー◯ェニックスとか使えるんですか?」

「いや、俺は炎の魔法ではなく雷の魔法の方が得意だからな」

「なるほど」

「それとな、大魔王なのに使う魔法がカイザー(皇帝)なのが気になるんだが」

「そ、それは……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先の陛下、ブルマなんてどこから持ってこられたのか。 大人の女性が履いたら確かに破廉恥なことになりそうです(笑) 炎の玉を、今のは最大威力じゃないわ、最小威力よ!と楽しそうにマリウスさんに投…
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