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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二一六話:魔王ですが、王にお呼ばれです。

 船団ウィステリア、中枢船。

 その艦橋はどの船団のそれよりも大きく、城と呼ぶにふさわしい威容を誇る。

 なにせ、艦橋の横幅が中枢船の横幅と等しい。

 その規模は、封印される前の居城であった魔王城の総構えには及ばなかったが、ひとつの建物としてみればそれをも上回っていた。

 城下町の機能も一部内包した、いわゆる箱城と呼ばれる形式である。

 その中には船団ウィステリアの政治・軍事・情報がすべて内包され、一点集中的に機能しているとのことであった。

 そしてその最上部、『宮廷』。

 機能を詰め込んだ下部、上部と異なり、ここのみが戦うこと、そして船であることを放棄した造りになっている。

 つまり、純粋な王の住居として、機能しているのであった。


「ご足労、感謝致しますわ」


 前に王から舞踏会へ招待されたときと同様、受付と案内役はアステルが担っているようであった。

 だが、前回のように気品と余裕に満ちた表情を浮かべていない。

 代わりに、極度の緊張と押し殺した恐怖――それでも表情に浮かぶほど根の深い――の色を浮かべていた。


「それでは、こちらにどうぞ」

「俺だけか?」

「いいえ。陛下からは、クリスタイン公とユーグレミア(きょう)も同行するようにと言い付けられております。従いまして――クリスさん、アリスさん、どうか御一緒に」

「それは……かまいませんが」


 真意を測りかねる顔で、クリスがそう答えた。

 隣に控えているアリスも、同じような気持ちなのであろう。珍しいことに、眉根が少しだけ寄っていた。

 ちなみに、クリスは元帥である上に船団シトラスの護衛艦隊の司令官なので、公爵扱いであるらしい。

 そして俺は以前ウィステリアで難産の妊婦を助けたため男爵に叙勲、同じくアリスも俺の配下として騎士の身分に叙されていた。

 なので、クリスタイン()と、ユーグレミア()ということになるわけだ。

 余談だが、俺は男爵なのでマリウス(だん)とでも呼ばれそうなものだが、そうはならない。

 男爵、そして次の階級の子爵は貴族の階級でも下の方になるので(それでも叙勲されればたいしたものなのだが)、騎士階級のアリスと同じく、マリウス卿となる。

 クリスのように階級で敬称が変わるのは、子爵のひとつ上、伯爵になってからだ。

 繰り返すが、そこまで昇爵されるのは、たいしたものであるし、そもそも相当の功績をあげなければならないのだが。


「顔色が悪いな。なにがあった?」


 さすがに気になって、アステルに訊く。


「おおよそ見当は、ついているのではありません? マリウス卿」


 本当に余裕がないのであろう。少しばかり言葉にトゲが残ったまま、アステルはそう答えた。

 たしかに、いつつあった船団のうちみっつの従属を認めたのは、他ならぬ俺である。

 そして残るひとつはここ、船団ウィステリアのみとなれば、空気が張り詰めるのも仕方がないといえた。

 だが、どうもそれだけではないような気がする。

 船団ウィステリア全体ではどうか知らないが、少なくともアステル本人は、余裕や優雅さを失うことはないのではないか。

 そう思っている間に、王の間の前にたどり着いた。


「陛下、マリウス卿、ユーグレミア卿、そしてクリスタイン公をお連れしました」

「はいるがよい」


 アステルの父、チクロ・パーム元帥――いや、この場合はパーム公爵といった方がいいか――の声が響き、俺達は王の間へと足を踏み入れる。

 前回の舞踏会と同様、夜の星空を模した、天井が高く広い空間。

 地上の灯りは、前回より幾分か強い。

 どうも、それが通常時の『宮廷』であるらしかった。


「よくぞ参った」


 パーム公爵と異なる、幾分か若さの残る男の声。

 それは、王の間最奥に設えられている玉座におわす、ミニス王のものであった。

 隣に控えているパーム公爵が、ちらりと俺をみる。

 その眼光は、いままで以上に厳しいものであった。


「まずは論功である。マリウス男爵、卿は海賊狩りの称号を正式に得ただけでなく、船団シトラスの船団長に就任したそうだな?」

「仰せの通りです、陛下」


 その場で跪き、頭を垂れて、俺。


「軍の階級も上がったか? 戦功も著しいかったと、(だい)ステラローズ、(しょう)ステラローズの双方から聞いておるが。大将くらいには昇進したか?」

「中将でございます、陛下。小官は船団を仮に預かる身。艦隊を率いる提督ではありませんゆえ」

「そうか。だが、大義である」

「もったいなきお言葉です――」


 さらに深く、頭を垂れる。

 この場にタリオンがいたら、人間に這いつくばるとは何事でございますかと、激怒したに違いない。


「では、そなたに此度の論功を申し渡す。船団シトラスの奪還、そして北の脅威の退散、さらには船団フラット、ルーツ、ジェネロウスを従属させた功績を鑑み――」


 そこで一瞬、ミニス王の声に悪戯っぽい調子が混じった。

 まるで、ちょっとした仕掛けが動き出すのを楽しみに待つように。


「そなたを、大公に(ほう)ずる」

「た、大公!?」


 顔こそ上げなかったが、声は少しひっくり返ってしまった。

 頭を垂れているためアリスとクリスの表情をみることができないが、俺と同じく驚いているに違いない。


 大公。

 あるいは、大公爵。

 貴族の階級としては、最上級となるものだ。

 これ以上はもう、王になるしかない。

 そもそも、大公の時点で――。


「無論、大公国を興すことを許す」

「お戯れを……」


 大公、大公爵の他にある、三つ目の呼び名。

 主に領土内使われるものとなるそれは――。

 ()()

 形式上は従属という形を取るものの、それは独立国を興せる階級であった。


「戯れではないのだがな……。また、配下である騎士、ユーグレミア卿とニーゴ卿は、それぞれ子爵と準男爵に叙するものとする。クリスタイン公には余からはなにも与えられぬ。許させよ」

「いえ、陛下。もったいなきお言葉です」


 形式通りに、クリスは答えた。

 元帥、それも他の船団の司令官となると、おいそれと昇爵させるわけには行かないのであろう。

 というか、俺が今(ほう)ぜられた大公の位が、あまりにもおかしい。

 仮に正式な船団長だとしても、クリスと同じく公爵相当、まだ仮の身分なのだから、大きく見積もってもそのひとつ下の侯爵が妥当ではあるまいか。


「マリウス大公、クリスタイン公、ユーグレミア卿、面を上げよ」


 ミニス王から声がかかり俺達は顔を上げた。


「これより、そなたらと内々で話をしたい。大ステラローズ、よいか?」

「アステルを残すので、あれば」


 直立不動の姿勢のまま、パーム公爵は短くそう答えた。


「よい。小ステラローズはここに」

「お父様!?」


 予想外であったのだろう。アステルが悲鳴に近い声を上げる。


「よ、よろしいのですか?」

「構わぬ。ステラローズの次を背負うものとして、義務を果たせ」

「――かしこまりました」

「……頼んだぞ。それでは、陛下」

「うむ」


 ミニス王に一礼して、パーム公爵が王の間を退出する。

 その後に続いて、柱の陰から複数の武官、文官が後を続いていた。


「マリウス公、この王の間にいるのは、本当に余とそなたらだけか、わかるか?」

「――少々お待ちください、陛下」


 俺は生命感知の魔法と、魔力感知の魔法を同時に使い、王の間の状況を確認する。


「確認しました。ここにいるのは陛下と小官らだけです。盗聴の類いもありません」


 魔法感知に引っかからなかったということは、通信機を取り外してこの王の間の何処かに隠し置いていることもないようであった。


「ふむ……魔法というものは、便利であるな」

「やはり、お気づきでしたか」


 特に口止めはしていなかったが、アステルからパーム公爵、そしてミニス王へと、俺の正体は伝わっているらしい。


「それが益となれ害となれ、情報を必ず伝えるのが、大ステラローズである。そして約束を必ず守るのも、な」


 感慨深そうに、ミニス王はそう呟いた。

 どうも、俺が想像している以上に、ミニス王とパーム公爵の間には、強い絆というものがあるらしい。

 かつての、俺とタリオンのように。


「さて。ここまでがそなたを呼んだ、表向きの用件であった」


 表情を改めて、ミニス王は続ける。

 その一挙手一投足には――自分に実権はないと自嘲しているのにもかかわらず――間違いなく、王の風格があった。


「ここからが、そなたを呼んだ……真の用件である」


 王の間を、緊張の糸が張り詰める。

 おそらく事前にその内容を打診されたのだろう。

 アステルの顔はもはや蒼白に近かった。

 そしてそれを感じ取ったクリスも、アリスも、そして俺も表情を引き締める。


 おそらくは、ウィステリアの従属宣言であろう。

 悪くて、退位の宣言もありうる。

 アステルの表情からいって、その可能性が高まってきた。

 俺としては、それはなんとしてでも翻意させたいところだが、実際はなにが宣言されるのか――。


「マリウス公」

「はっ……」


 俺を大公という地位に上げることすらを表向きの用件とするのなら、

 その真の用件は一体……。


「余は、そなたに禅譲(ぜんじょう)したい」

「は……?」


 アステルが、全身全霊で悲鳴を押し殺し――。

 代わりに鋭く息を飲む音が、静まりかえった王の間に響きわたる。

 禅譲。

 それはつまり――。

 ミニス王は、この俺に、王の位を譲るといっているのであった。

■今週のNGシーン

「無論、大公国を興すことを許す。そうだな……ジ○ン公国というのはどうだ」

「お言葉ですが、陛下——勘弁してください」

「やはりだめか」

「自分の名前を国の名前につけるセンスはちょっと」

「で、あるか」

「名字ならまだしも名前は——本当にどうかと思うのですが」

「で、あるな」

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