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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第九章:新船団・誕生!

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第二一五話:魔王ですが、歴史のお勉強です。

「さてと、これであとはウィステリアだけだな」


 元帥円卓会議。

 そう名付けられた機動要塞『シトラス』小会議室には、エミル、リョウコ、ドゥエ、そしてクリスが文字通りの円卓に着席していた。

 俺はまだ中将なのだが、船団長であることを理由に、助言者として参加している。


「一番難しいんじゃないの? 彼らが一番大事にしているのは、貴族階級そのものでしょ?」


 円卓を頬杖をついて、ドゥエがぼやくようにそう呟いた。


「元々、ウィステリアから離脱して生まれた船団が、我々ですからね」

「そこを詳しく説明してくれないか?」


 リョウコの発言に対し、俺はそう口を挟んでいた。

 断片的に色々と歴史の出来事は聞いてはいたが、ひとつなぎに俯瞰したことがなかったからだ。


「では、それは私が話しましょう」


 と、クリスが言葉を引き継ぐ。


「まずは、ひとつの船団がありました。いつつの船団がひとつになっていた時期といえども、その規模はいまの船団ひとつに対しても、まったく及ばない小さな規模だったといわれています」

「そのときの船団名は?」

「抹消されました」


 抹消とは、穏やかではない話だった。


「時の王――これが今のウィステリアのミニス王陛下直系の祖先になるのですが、最初の分裂のときにひどく心を痛められ、そのため船団名を現在のウィステリアに改名したそうです。その際、旧来の船団名は、不吉だということでありとあらゆる資料から抹消したようですね」

「なるほど……」

「その最初の分裂ってのが、ウチことジェネロウスね」


 と、ドゥエが口を挟んだ。


「政教分離って知ってる? 要するに政治に信仰を利用するなってことなんだけど、当時よっぽど我慢できないことがあったんでしょうね」


 それは、容易に想像がついた。

 いつの世になっても、()()()()()()には事欠かないらしい。


「そのときの聖女は第何代か、わかるか?」

「……? たしか一五代目、ラスト・エリだったかしら」

「一五代……なるほどな」

「なによ、なにかひっかかることでもあったの?」

「いや、初代とそれくらい離れていると、初代と歴史的断絶が起きているなと思ってな」

「――なるほど。今度姉さんに詳しく聞いてみるわ、そこら辺の話」


 これがたとえば二代目聖女だったりした場合、それは初代——ということになっている——俺のすぐ跡をついだことになる。

 もっといってしまえば、封印される前の、魔王であった俺の関係者である可能性が非常に高い。

 だが、一五代ともなると、俺との関係はほぼないといっていい。

 もっといってしまえば、()()()()()()()()()()という疑問もある。

 俺自身、自分が本当に第三六代の魔王であったのか、疑っているくらいだからだ。

 おそらくその辺は、ドゥエも実感しているのだろう。

 なので、あとでアンに聞いてみるといったのだ。


「それで、そのあと離脱したのが――」

「はい。私達、ルーツとフラットです。当時はひとつの船団でしたので」


 そう答えたのは、リョウコであった。


「こちらは武門と政治をわけたようですね。どうも、当時の軍事力を束ねていたのが私とエミルさんの先祖だったようです」

「右軍と左軍って名前だったみたいなだな。どっちがどっちだったのか、もうわかんなくなっちまってるが」


 と、エミルが注釈をいれてくれた。


「まぁ、政治と軍事を切り離すっつても、ウィステリアは自衛能力を持たせなきゃならんし、うちらはうちらで(まつりごと)をしなきゃいけないんだから、皮肉なもんだけどな」

「そういうものだろう」


 おそらく、ルーツとフラットの先祖は、ウィステリアの先祖からなにか不当な扱いを受けたのだろう。

 推測だが、振るった武に対する恩賞が、適切なものではなかったではあるまいか。

 そういったものは、俺が魔王として君臨していたとき、配下の軍団に対し非常に気を配っていたので、痛いほどよくわかるのであった。


「そして最後に、貴族社会から自由を求めて、離脱したのが、私達シトラスですね」


 締めくくるように、クリスが話を引き継いでくれた。


「初代の話はしましたよね」

「ああ、彼の全裸の」

「――! そ、それですけどもうちょっと別のものを思い出してくださいっ」


 思い出そうもなにも、逸話がそれしかなかったのでそれ以上の感想はでてこない俺である。

 それに、その話をなぞるように、クリスも――いやなんでもない?


「どうしたマリウス。今一瞬(エロ)っぽいものをみた顔になったぞ」

「なっていない、なっていない」

「そうか? クリスタインが真っ赤だが」

「なっていません!」


 ますます赤くなるクリスであった。


「あんた……まさか……?」


 ドゥエが怪訝な顔を向ける。


「本当に、そういうことにはなっていない」

「ってことは、クリスタインがなんか先走ったか」

「うっ!」


 今日はすこしばかり、うかつなクリスであった。

 ただそのせいで、事態は多少好転したようであるが。


「と、とにかくですね。私達がウィステリアから独立したあと、ルーツとフラットが分裂して、いまの五船団の形になりました。それを、マリウス管理官がひとつにまとめるとは、思ってもみませんでしたが」

「そうだな。俺もそう思う」


 タリオンが北の船団を掌握していなければ。

 そしてエミルやリョウコやドゥエとアンが素早く決断していなければ。

 俺はいつつの船団をひとつにまとめようとは、思いもしなかっただろう。


「となると、船団ウィステリアがこちらに合流する障壁は、もうひとつ増えたことになるな」

「それは、なんでしょうか?」


 俺の呟きに対し、リョウコが質問をする。


「簡単だ。ウィステリアからわかれたものが、シトラスを中心に再びまとまる――彼らにしてみれば、元盟主のつもりであったのに別の盟主が誕生したとなれば、面白くないだろう」

「ああ……確かにな」


 いわれてみりゃあ、その通りだ。と、エミル。


「で、話は一番最初に戻るって訳ね」


 ドゥエが再び円卓に頬杖をついて、ぼやくようにそういった。


「私らにはどうやって合流させればいいのか、全く案が浮かばないわ。そこんとこどうなの? マリウス」

「そうだな……」


 彼らの貴族社会を維持させなければならないのは確かだが、それでは合流してもすぐに分裂しかねない。

 かといって、貴族制を解体してしまえば、それこそ叛乱が起きかねないだろう。


「なかなかの、難問だ……」


 俺が魔王諸部族をまとめたときは、頂点が俺自身であったのでまだやりやすかった。

 各部族の長を叙勲させ、一貴族として(ほう)じればよかったからだ。

 だが今回は、ミニス王という立派な王がいる。

 そう、王がいる。


「ミニス王を説得して、そこから新体制を作らねばなるまいな……」


 妥当な案であったのだろう。

 エミルもドゥエも、リョウコもクリスもなにも言わなかった。

 そこへ――。


「失礼致します」


 入室してきたのは、アリスだった。


「マリウス船団長代行船団管理官宛てに、歓談の招待状が届いております」

「どこからだ? アリス――中尉」


 一応この場は元帥会議という形を取っていること、なによりアリスが俺を肩書で呼んだので、俺も相応の対応をとる。


「それが……」


 珍しく、アリスが言いよどんだ。

 そしてこの場にいる全員を見回したあと、再度俺を見つめると、


「船団ウィステリアの、ミニス王陛下からです」


 ……!


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