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勇者に封印された魔王なんだが、封印が解けて目覚めたら海面が上昇していて領土が小島しかなかった。これはもう海賊を狩るしか——ないのか!?  作者: 小椋正雪
第八章:船団長、魔王マリウス

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第二〇四話:長女の矜持

□ □ □



「うそ……」


 操縦席の中で、あたし――紅雷号・スカーレット――は、ひとり呆然としていた。

 最初は、蒼雷号・サファイアの並外れた命中力。

 氷で出来た標的艦に打ち込まれた銛に、自分の主砲を命中させて貫通させる。

 言葉でいえば簡単だけど、実際にはそう簡単にできることじゃない。

 それを、サファイアはやってのけた。


 つぎに、オニキスの斬撃の腕。

 パパが「あの刃の構造は絶対におかしい」といっていた刀と呼ばれる片刃剣を、オニキスは難なく振るってみせた。

 リョウコ中将から助言を受けていていたとはいえ……いや、助言を受けただけで実行できたということは、素養があり、鍛錬が足りていたということだ。

 普段は飄々(ひょうひょう)としてどちらかというと搦め手を使うことの多い妹が、いつのまにか鮮やかな技能を身につけていた――いや、それこそが搦め手なのだろうか。


 そして――。


『そろそろ行くわよ、スピネル。ステラローズ、先に行っても?』

『ええ、こちらはかまいませんわ』


 まって。


 ドゥエ元帥とアステル中将のやりとりに、思わず叫びかけた言葉を飲み込む。

 そんな無様な真似、出来る訳がない。

 でもここで先に出て無難に戦って、スピネルに華を譲ればそれほど失態がめだたなくなるんじゃ……。

 そんな後ろ向きの希望が、なかったといいきれなかったのは、確かだ。。


 果たして、スピネルは自分を改造するというとんでもない技能でもって、華々しく戦果をあげた。

 サファイアのような百発百中に対する、大容量の弾倉による弾幕形成。

 あたしには、とても思いつけないものだった。


 そう。

 あたしの妹たちは、いつのまにかそれぞれ驚くべき技能を身につけていたのだ。

 あたしと同じ時間、同じ訓練を受けていたはずなのに。


『スカーレット。そろそろ出ますわよ。よろしくて?』

「あ、は――はい!」


 アステル中将からの通信で、あたしは慌てて前を見る。


『スカーレット。なにかありましたの?』

「い、いえ。なんでもないです!」

『……スカーレット。(わたくし)の前で隠し事はよくないわ。そも、艦隊を預かる者にとって、小さな懸念事項はときとして戦局を左右するものなのよ」


 ――あ。


「もうしわけ、ありません」

『気付いてくれたのなら、いいの。それで、どうしたの?』

「実は――」


 あたしは正直に、妹たちが身につけた技能に驚いたこと、そしてあたし自身にはそういうものが一切ないことを、アステル中将に話した。


『なるほど、そういうことでしたの』

「演習には勝てるはずです。ですが、戦果に華を添えることができず、もうしわけありません……」


 あたしのみたところ、アステル中将はそういうものを大事にする司令官だと思っていた。思っていたのだけど――。


『そのような気遣い、一切無用です。スカーレット、(わたくし)は勝ちに行くの。それだけに集中しなさい』

「ですが――」

『そこに、あなたの()がありますわ』

「えっ……?」

『繰り返します。勝利を収めることに全力を尽くしなさい。敢えて付け加えるなら、より早く片が付くように。できまして?』

「は、はい。それならできます――!」


 幸運にも、あたしはサファイア、オニキス、スピネルと戦った標的艦隊の動きを見ることが出来ている。

 それならば、やれるはず。


『……それが貴方の強みでしてよ』

「えっ?」

『コホン、なんでもありません。さぁ、スカーレット。いきますわよ!』

「はい!」


 アステル中将による指揮のもと、あたしは主機を全開にさせた。




□ □ □




「なんだ……なんだ、この動きは……!」


 雷光号の操縦席で、俺は驚嘆せずにはいられなかった。

 高速戦艦『ステラローズ』と紅雷号、どちらも速力を活かした艦隊運用を行ってくると踏んでいたのだが――。


「これではまるで、水雷艇ではないか……!」


 紅雷号も、ましてや『ステラローズ』も、決して小さな艦ではない。

 だというのに、その図体の大きさを全く感じさせない動きで、二隻は標的艦隊を翻弄していた。


『すげぇなオイ。お互いがお互いを隠したり、いきなり撃ってきたりしてんぞ』


 雷光号のいうとおり、お互いがお互いを隠蔽してこちらの射線が定まらないように動いている。

 それはまるで、紅雷号と『ステラローズ』がお互いの航跡でふたつ編みをしているかのようであった。

 そして、その間隔が極めて短いため、表示板の上でさえも、時折二隻の船がひとつの光点にみえてしまっている。

 おそらくそれは、俺にはそうみえるということを理解した上で、お互いぎりぎりまで接近することにより実現しているのだろう。

 おそるべき操艦の腕であった。


『どうする? 大将』

「どうもこうもない。動きをよむしかあるまいよ」

『あいよ。そんなら、こうだ』


 表示板には各艦の動きを記録する機能もある。

 これにより、二隻の航跡がまるで一筆書きのように表示されていた。


「これならば――」


 『ステラローズ』の青、紅雷号の赤い航跡を読み取りながら、俺は標的艦隊を操作する。

「次は紅雷号か……」


 全標的艦隊の射撃標準を、次に紅雷号が『ステラローズ』の陰から出現する位置を割り出す。


「いまだ。撃て!」


 しかし、そこから飛び出た影はこちらの射撃よりも早かった。


「なんだと――!」


 『ステラローズ』に身を隠している間に変形、しかも見つからないように横っ飛びの姿勢で強襲状態になった紅雷号は飛び出すついでに両肩の主砲をもっとも近くにいた標的艦に叩き込み、沈める。

 残りの標的艦が慌てて照準を修正するが、紅雷号は再び理解不能な速さで弧を描き、こちらの射撃を回避していた。


「紅雷号、なにかを掴んでいます! あれは――」

「『ステラローズ』の錨だと!?」


 アリスの声と共に雷光号が映像を拡大してくれたのでわかった。

 強襲型の紅雷号は『ステラローズ』の錨を片手で掴み、それの伸縮を利用して急制動をものにしていたのだ。


『いきますわよ!』

『はいっ!』


 『ステラローズ』が全速力のまま急速回頭を行う。

 これにより紅雷号は弾かれるように飛び出し――。


『てえええええい!』


 錨から手を離した紅雷号がその勢いのまま、抜剣して次の標的艦を切り裂く。

 続いて沈む直前にその艦を足場にし、『ステラローズ』の方へ、跳ぶ。

 そして海面に落ちる直前の錨を掴んで、紅雷号は再び複雑な機動を描く。

 その間に『ステラローズ』が一隻をしとめ、最後の一隻は――。


『せいっ!』


 紅雷号が、剣を投げる。

 それは狙い通りに標的艦に突き刺さり、


『おちろっ!』


 自分の剣の柄に主砲をたたき込み、紅雷号は最後の標的艦を正面からまっぷたつに()()割ったのであった。


「みごとだ。まさか蒼雷号がやった射撃と黒雷号がやった斬撃、そして紫雷号がみせた自艦隊との連携をすべてものにするとは――」


 それらを、紅雷号はすべてやってのけたのだ。


「なるほど、あのアステルさんが気に入るわけです」


 提督席でクリスが呟く。


「何かに特化しているのではなく、すべてを平均以上にこなす。そういう指揮官的な技能を、あのひとは好みますから」




□ □ □




『おつかれさま。よくやったわ、スカーレット』


 アステル中将の声で、あたしは我に返った。


『すごいです、お姉様!』

『おみごとでありますな。自分と同じか、それ以上の連携をみせるとは思いませんでした』

『刀の斬撃と同じ効果を、自分の剣を撃つことによって再現させるなんて、良くとっさに考えついたね――さすがはボクの姉さんだ』

「え……? え……?」


 サファイア、スピネル、オニキスの労いに、困惑する。

 あたしはただ、いかに素早く相手を沈めるか、考えただけで……。


『それが貴方の、他の姉妹にはない特性ですわ』


 アステル中将が、会話に割り込んでそういってくれた。


『だから、もっと胸を張りなさい。紅雷号・スカーレット!』

「……はいっ! ありがとうございます、アステル中将!」

『ふふ――少しは元気になって、よかったわ。さぁ、凱旋よ』

「了解しました!」


 あたしは紅雷号を通常形態に変形させ『ステラローズ』に随伴すべく、航路を変える。

 その遙か後方に浮かぶ、パパが乗る雷光号からはなにも通信はなかったけれど、なぜか褒められている気がして――あたしは少し、照れくさかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 四姉妹の成長早い! のはいいけれど、魔王様四連敗ですな… パパの威厳がちょっと心配に
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