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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
あっちでもこっちでも事件
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第56話:旅路を邪魔するモノ(1)

 ナナミの故郷の人たち、猫人族……老いも若きも男も女も合せて八十人。

 新たな故郷へ向かう旅は初日から順調だった。

 準備万端出発したのだから、それも当然。そうでなくては困る。


 お世話になっていた町から荷車十台を餞別として貰い受け、

 買い付けた食料とみんなの荷物を載せ、街道をひたすら歩き続ける。


 その荷車なんだけど、引くのに馬とかは使わない。人力だけ。

 俺やナナミも含め、若い者が中心になって、その役目を交替で担う。

 けれども、そこに疑問を抱く者は誰ひとりいなかった。


 何故なら、猫人族は普通の人間を遥かに超える身体能力を持っているから。

 それは、小さな子供でさえも。


 だからこそ、彼らの頭の中には馬に引かせるなんて選択肢すらなかった。

 実際の道中でも、山積みの物資を載せた荷車を二、三人で軽々と走らせる。

 どんな坂道だろうと、他の旅人を追い越してしまう勢いで。


 とはいっても、そこには少ないながらも弊害はある。

 八十人の猫人族の集団が行進していて、その上、荷物運びは人力。

 その光景が、やはり街道を歩く他の旅人を驚かせていた。


 特に、荷車を引いているのが、

 ナナミひとりだったりすると、一段と周囲の注目を浴びてしまう。

 だって……クレアを肩車しながらだし。


 傍から見ると虐待と取られかねないけど、もちろんそんなことはない。

 ナナミはこの集団の中でも、さらに飛び抜けた身体能力の持ち主。

 猫人族の成人男性すら軽くあしらえるほどの、だから。


 今も気楽な調子で鼻歌を歌いながら、

 荷物満載の荷車を引いて、元気良く笑顔で林の中の街道を歩く。


「ユウキ! みんなで旅行は楽しいデス!」


 八十人の猫人族の集団は、

 他の旅人の邪魔にならないように、横に広がらずに縦に長い隊列を組んでいる。


 俺たちがいるのは、その列の先頭の場所。

 一番前は何かあった時の調整役、リリスとアンヌさん。

 後ろに長老のカラタさん。そのまた後ろに俺とナナミとクレア。

 隣りを並んで歩いているのがナナミの友達のマール。


「ナナミ、大丈夫? 荷物運ぶの重くない?」

「大丈夫デス、ナナミは力持ちデスから。マールは景色でも見ながら歩くデス」

「じゃあ、クレアちゃんは私が肩車するわ」

「クレアはナナミと合体技を使うから、いつも一緒なのデス」


 ナナミの頭の上でコクコクとクレアがうなずく。


 マールにクレアの肩車をお願いしないのは、

 それだけが理由じゃなくて、クレアが人見知りだというのもある。

 けれど、ナナミはそれを知っていて、あえて口にしない。

 クレアへのその思いやりは、まるで保護者のようで、見ていて微笑ましい。


「それよりも、新しい場所がどんなとこかマールに教えるデス。

 ユウキがダンジョンを造ってて、ナナミとクレアが手伝ったデス。

 スコップで地面を平らにしたり、灯りつけたり、宝箱に罠を仕掛けたり……」


 マールに説明するナナミの眩しい笑顔。

 こうなる以前に見せていた笑顔が嘘だったとは思わないけど、

 それでも、故郷の仲間に再会できてからのナナミは本当に嬉しそうだ。


 ――それもこれも、ハヤトがナナミの故郷を探し出してくれたからだよね。


 改めて、ここにはいないハヤトに心の中で感謝する。

 たぶん口に出してお礼を言っても嫌がるのだろうけど。


 そんなことを考えながら街道を歩き続けていると、

 またまた、ゆっくりと歩いている旅人たちを追い抜く形になった。

 彼らがこちらを見て、驚いた顔をしている。


 こうして追い抜いたり、すれ違ったりすると大抵そんな顔をされるのだ。

 それでも、これが原因でトラブルになったりはしない。


 それは、先頭を歩くリリスとアンヌさんの人当たりの良い対応と、

 二人が事前にした街道沿いにある全ての町への根回しのおかげ。


「すみませんが、先に行かせていただきます。

 少々列が長いですが御容赦願います。皆様もお気をつけて旅を続けてください」


「はーい、ごめんなさいねぇ。大人数で引越しなんだ。

 みんな旅が楽しすぎて、スキップしながらだから、

 どうしても足が速くなっちゃうんだよ。追い抜かせてもらうけど許してね」


 気品のあるリリスのあいさつと、明るい笑顔で事情を説明するアンヌさん。


 そのあとに続く俺たちも追い越しをするときに、

 こちらから「すみません、先に行かせてもらいます」と声をかけると、

 相手からも「お気をつけて」と笑顔が返ってくる。


 後続の猫人族も順に笑顔で旅人に挨拶をしている。

 ほのぼのとした旅の一コマという感じで、何かが起こるはずもなかった。


 さらに、ひとつ付け加えると……、

 猫人族の旅だと周知されているせいか、

 この集団を襲おうとするやからも現れなかった。

 それもまた当然。そこまでの度胸があるのなら、

 ダンジョンとかで、普通に魔物を倒して魔石を集めた方が割が良い。


 やがて日が暮れて、

 有り難いことに何ひとつ問題が起こらないまま夜を迎える。


 その日の宿泊場所を決めるのは、俺の頭の中にある地図と、旅の進捗具合と、

 調査担当の人に先行してもらって街道沿いの様子を実際に調べた情報から。


 水場が近くにあり、テントが張れるような広さのある場所を、

 日が暮れる前に選んでおいたのだ。


「みな、お疲れさま。今日はここで休むとしよう。

 各自、宿泊の準備を始めてくれ。近くの水場で汗を流すのは順番でな」


 先頭にいた長老のカラタさんが大きな声で皆に号令を掛ける。


 こうやって泊まる場所をその日ごとに決めるのは、

 状況に合わせて旅程を変更できるようにしたかったからだ。


 この日も終わってみれば、

 誰ひとり無理をしていたわけでもないのに、予想よりも随分と先に進んだ。

 猫人族の体力と、新たな故郷への期待がそうさせたのだろう。


 もし野宿じゃなくて、どこかの町で宿を予約していたら、

 こうして一日の移動距離を、その日その日の状況で延ばすこともできなかった。

 結果から見ても、その選択は正しかったというわけだ。


 猫人族の皆は旅の疲れも見せずに、

 食事の用意とかテント張りとかで動き回っている。


 テントはある分だけを設営。

 当然、全員分に足らないことは皆が承知している。


 水場で順に体の汚れを落として、それから夕食。

 日持ちしない物から食材にして、煮たり焼いたり全員分。

 みんなの表情は明るい。それが一番、俺の心を軽くしてくれた。


 ――この旅を提案したのは間違っていなかった……ってことだよね。


 そして就寝。

 俺たちは少ないテントのひとつを貸してもらった。

 断ると角が立つと思ったし、

 こちらには女性が多いので素直に受け入れたのだけれど。


 でも良く考えたら、俺のパーティは女性が多いんじゃない――

 この旅の間はハヤトがいないため……俺以外、全員女性だった。


 当然、遠慮して外で寝ようかと思ったのだけど、

 一番嫌がりそうだと思ったリリスが自然な笑顔でこう言ったのだ。


「野宿ならこういうのも有りですわ」


 そしてアンヌさんも……。


「まぁ、そうだよね。ユウキ君、今日は一緒に寝ようよ」


 だから俺は……。


「アンヌさん、寝ている俺にセクハラは止めてくださいね」

「ユウキ君……ボクを何だと思っているんだい?」


「みんな一緒に寝るデス!」とナナミ。そしてコクコクと頷くクレア。


 俺はテントの中の一番端っこで横になり、

 隣にナナミ、クレア、リリス、アンヌさんの順。

 ナナミが隣で寝るのはもう慣れているので、気持ちの妥協点をそこに見出す。


 それに、この世界に来てからは――

 寝ようと思った時にはすでに寝ているって状態なので、大丈夫だと思ったし。

 で結局、気がついたら朝だったって感じ。取り越し苦労ってやつだった。


 そして出発から四日、何事もなく旅は続いた。

 

 しかし……やはり事件は起こるのであった。



 ◇ ◆ ◇



 旅は五日目。


 全てが順調に進み、ハヤトが待つ『猫人族の村』予定地、

 俺の試作ダンジョン前までの旅路が、残すところ四割を切っている。


 この調子でいけば、あと三日もすればこの旅も終わる――

 今朝、出発する時にはそんなことを考えていたのだけれど。


 時間はもうすぐお昼時。

 歩いているのは、急な斜面を持つ山に挟まれた峠道。

 両側の山には葉の多い樹木が生い茂り、

 街道も大きく右に曲がっているため、その先が見通せない。


 そして今、とある事情でひとりの男性が俺たちの行方を遮っている。

 とはいえ、決して険悪な雰囲気というわけではない。


「すまないが、ここから先は通れない。

 身軽ならば迂回して先に行けるが、馬車や荷車は通れないぞ」


「はい、ここに来る途中で、道を引き返す人からお話を伺いました。

 なにか……道が崩れて通行できなくなっていると聞きましたが……。

 やはり、こちらにある荷車だと先には進めませんか」


 今の状況は、男性とリリスの会話のとおり。


「お前たちは猫人族の集団か……話は聞いている。

 移住先に向かって旅をしているそうだな。

 けっして、おまえたちの旅の邪魔をするつもりはないのだが……、

 すでに聞いている通り、この先の道が崩れて通れなくなっているのだ。

 そこまで荷物を積んでいる荷車などは試すまでもないな」


「そうですか……。でしたら、街道を修復するお手伝いさせていただけませんか。

 見てのとおり、人手はたくさんありますから」


 リリスの後ろには俺たちを含めて八十人以上が並んでいる。

 旅の途中で崖崩れの話を聞いたので、この提案をしようと決めていたのだ。


 先に進むためなら街道の修復作業を手伝うのも厭わない――と。


 ちなみに、猫人族といっても手は人間と変わらない。

 決して猫の手を借りるとか貸すとか、そういうシャレを言うつもりはない。


「いや、その気持ちはありがたいが……」

「何かあるのですか?」


「道が崩れた理由なんだが……どうやら魔物の仕業らしい。

 それもだ……現場の状況から、かなりの巨体を持つ魔物だと思われる。

 これをどうにかしないと、危険すぎて修復作業に手を付けられないのだ」


「そうですか。では魔物退治が先というわけですね。

 とすると……魔物退治の専門家はお呼びしているのですか?」


「あぁ、そうだ。というか、一人だけだが、すでに来てくれている。

 有名な竜騎士らしい。ただ……現場を見て、頭を悩ませているようなんだ。

 もしかしたら応援を呼ぶとか、そういった話になるのかもしれない。

 そうすると……まだまだ時間がかかるだろうな」


 竜騎士……あの剛岩の竜騎士ローグだといろいろ面倒だ。

 でも、あいつはハヤトとアンヌさんに返り討ちにあって、

 いまはもう役人に捕まっているんじゃなかったっけ。


 そういえば、もうひとり――

 知り合いと言っていい竜騎士の人がいた……その人だろうか。


「期限のある旅ではないのですが、出来ることなら早めに先に進みたいのです。

 これも提案なのですが……魔物退治のほうもお手伝い出来るかも知れません。

 ワタシ自身も魔物退治の経験はありますし、この者も竜騎士のひとりですので」


 リリスがアンヌさんを視線で示す。

 アンヌさんはというと、いつもの軽薄な笑顔、

 もとい……優しそうな笑顔ではなく、凛々しい表情をする。TPOってやつだ。


「うむ、私はちまたで『爆炎の竜騎士』と呼ばれているアンヌという者だ。

 いまはこの方……リリス様の護衛として、猫人族の旅に付き添っている。

 その竜騎士とも知り合いかもしれない。会って話をさせてもらえないだろうか」


「ほう……そうなのですか」


 そんな話をしていると、

 街道の先、生い茂る樹の陰から一人の女性が姿を現す。

 整った顔に柔らかな笑顔。ウェーブのかかった長い金髪を後ろで束ねている。


「すみません、警備隊のかた、少々お聞きしたいことが……」


 ――やっぱり、あの人か……。


 俺がそう思ったのと同時――

 その女性が『びゅん』と音がするほどの素早さで駆け寄ってきた。


「アンヌじゃない! なんでこんな所に!」


「びっくりだねぇ、こんなところでレイラに会うなんて」


 見覚えのある顔……激水の竜騎士レイラさんだった。

 前回の自滅憑依体事件の時、

 憑依されていた人物の動きを水魔法の大技で見事に封じていた人。

 彼女の瞳が、いま確かにキララランと輝いた。


「ハヤト様はっ! ハヤト様もいらっしゃるのですかっ!?」


 アンヌさんの両肩を掴み、グワングワンと揺さぶる。

 だんだん表情が険しくなり「言え! 言うんだ、アンヌ!」と口調まで変わる。

 やっぱりこの人、ハヤトのことになると人格が変わるなぁ。

 警備隊の人に聞きたかった話はもういいのだろうか。

 その警備隊の人はあっけに取られて口をポカンと開けているし。


 一方で、アンヌさんは、されるがままにグラグラと揺すられている。

 どうにでもしてって顔。

 それを見るリリスが一瞬だけジト目をしていた。珍しい。

 だけど、すぐにすました表情になって、レイラさんの問いに答える。


「レイラ様、ハヤト様はここにはいません。ワタシ共の拠点のほうで別行動です」

「リリス様……、先日はお世話になりました」


 リリスに視線を向けて真顔に戻るレイラさん。ただしそれは顔だけ。

 アンヌさんを揺する手は止まらない。ぐわんぐわん、ぐわんぐわん。


「いえ、あの時はお力になれなくて……。

 それより、そろそろアンヌを離してやってください。目が虚ろになっています」


 そう言われて、ようやくレイラさんがアンヌさんの肩から手を離す。

 青い顔で目を回しているアンヌさんが、その場でゆらゆらと揺れている。


 その姿をレイラさんは一瞥すらしない。

 代わりに目を伏せて寂しげな表情を見せたけど、

 それはハヤトを想ってだということくらい俺でもわかる。


 レイラさんはそれで納得できたのか、

 すぐに何事もなかったかのように、あの柔らかな笑みを浮かべる。


「そうでしたか。それで、なぜリリス様たちがここに?」


「近くの町には連絡をしていたのですが、

 猫人族の方々の移住のお手伝いをしていまして……。

 目的地に向けて、今ここにいる人達と旅をしている途中なのです」


「そのお話、ここに来る前に町の警備隊でお聞きしました。

 あの話がリリス様たちでしたか。お役目ご苦労様です」


「はい、お気遣いありがとうございます、レイラ様。

 それで、この先が通れなくなったというお話は伺いましたけど、

 出来ることなら……ですが、早めに先に進みたいと考えております。

 日程的に余裕がないわけではありませんが、これだけの大所帯ですので」


「そのお気持ちはわかりますわ」


「魔物が現れたと聞きましたが、どのような魔物なのでしょう。

 もしお困りなら、ワタシたちにもお手伝いさせてください。アンヌもいますし」


「そうですね……ここはわたくしの矜持などにこだわらずに、

 リリス様たちにご協力をお願いするほうが良いのかもしれません。

 その前に……詳しい状況をご説明いたしますわ。ちょっと厄介な状況ですので」


「崖崩れを起こすような魔物ですよね。巨大な魔物ですか。

 レイラ様が頭を悩ますほどとなると、一つ目巨人とかそのような類の……」


「いえ、崖が崩れて道がふさがれたのではなく……」


 整った顔立ちのレイラさんが眉間にかすかな皺を寄せる。


「街道が陥没してしまっているのです」



 第56話、お読みいただき、ありがとうございます。


 次回は「旅路を邪魔するモノ(2)」

 街道を陥没させた魔物。敵は地下なのか。

 再びユウキの無限ドリルが土を削るのか(俺の銃が火を噴くぜ的な意味で)

 ……です。


 更新は12月8日を予定しています。


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