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第44話:ダンジョンを作ろう(2)

 ナナミの声に反応して無限ドリルを止めようとしたのだけれど、

 ほんの少し遅かったようだ。


 手に加わっていた圧力が、何故かスカッと消えてなくなる。

 急いで無限ドリルの回転を止めて、

 前方の状況を探るため、スキル【空間把握レベル2】を発動する。


 最後に削ったその先……そこには広々とした空間があった。

 偶然以外の何ものでもないのだが、

 俺がこの先に計画していたダンジョン部屋とほぼ同じ大きさの空洞。

 最初からここにあったのだろう、その一角に開通してしまったらしい。


 天井は掘り進めてきた通路より高く、

 底面は下方にあるはずだが……よくわからない。


 なぜなら空洞の中に――

 無数の存在が何層にもなって、ひしめいていたからだ。


 灯りの無い中、視界にある範囲をスキル【暗視】で確認する。

 魔物の正体がわかった。


 痺れムカデ。


 相変わらずナナミの索敵能力には驚かされる。

 掘り進めていたトンネルの先、

 まだ土の壁があった状態で、この魔物を察知していたなんて。


 確か……ドラワテのダンジョンでアンヌさんが無双した日。

 地下七階に現れた、人の身長ほどの長い身体を持つ多足の魔物。


 視界全てを埋め尽くす様に、長い身体が折り重なって密集しているため、

 いったい何体の痺れムカデがいるのか想像することさえできない。


 さらに、無数の足がわさわさと動き、

 それぞれがそれぞれの方向に、別の身体を押しのけて進んで行く。


 だが、その先にいるのも同種の痺れムカデ。

 痺れムカデがうごめく痺れムカデの中を泳いでいく――そんな光景だった。


 身体能力的なものはレベルアップで上昇しても、

 心の中から湧き上がる嫌悪感を抑える役には立たない。


 俺はムカデとか触れない程の虫嫌いじゃないし、

 たとえば自分の部屋に現れても、捕まえて外に逃がすことくらいならできる。


 だが、この量になると……。


 グロい映画のワンシーンのような総毛立つ光景を見せられて、

 スキル【暗視】なんてなければよかったと後悔するほど。

 今更目を閉じても、もう遅い。記憶にしっかりと刻みつけてしまった。


 そしてスキル【空間把握レベル2】が、

 この先にある広い空間全てが、痺れムカデで埋まっていると教えてくれる。

 自分の能力ながら余計なお世話だと思う。


「こっちに気づいたデス! ユウキ、一旦逃げるデス!」


 硬直して動けなくなっていた俺にナナミが叫ぶ。


 そこから急激に、そして連鎖的に事態が動き始める――

 まるでドミノ倒しのように。


 ナナミの声で我に返った俺が最初に思いついたのは、無限ドリルの存在。

 この桁外れの能力を持つ武器があれば、

 どれだけの数の魔物だろうと恐れることはない。


 相手はちょうど無限ドリルが空けた穴の先にいるのだ。


 ここで再始動すれば、

 向かってくる痺れムカデを一体たりとも後ろに通さず、

 全てを切り刻み、土砂が送られる異空間に消し去ってしまえるはず。


 ちょっと精神的にくるものがあるだろうけど、そこは目をつぶろう。


 ナナミの進言に逆らって、

 正面の痺れムカデの群れを目標に、無限ドリルを回転させる。


 こうして俺は、ドミノの最初の一枚目を、自分の手で倒してしまったのだ。


 回転を始めた無限ドリル。だが違和感はすぐに柄を握る両手を通じて届く。

 何故か、手に加わる圧力が、土砂を削るときの比ではなかった。


 無限ドリルの刃が痺れムカデの身体を切り刻むことができず、

 それどころか、がこっ、ががこっ、と断続的な音を鳴らし時々止まってしまう。


 これが二枚目のドミノとも言える出来事……さらに倒れて次に向かう。


 刃の回転が止まってしまえば、その反動は俺の手に伝わる。

 柄を握る手が、刃の回転する方向の逆に持って行かれそうになる。


 すぐに無限ドリルの回転を止めたので、反動は微々たるものでしかなかったが、

 全く予期していなかったため、身体をふらつかせしまう。

 そして、それを立て直すために、

 目の前の痺れムカデの集団から、一瞬だけ注意をそらしてしまう。


 これが三枚目のドミノ。


 無限ドリルの回転が止まってしまえば、

 八枚ある刃の隙間から、痺れムカデがくぐり抜けるのを遮ることができない。

 俺の注意がそれた瞬間に数体のムカデが顔を出す。

 そのまま噛みついてくるのを、俺は避けることが出来なかった。


 またまたドミノが倒れた……この出来事が四枚目。


 幸運なことに、痺れムカデのレベルは高くなく、

 噛み付かれた感触から判断して、

 おそらく、ドラワテのダンジョン地下五階……もしくはそれよりも上層、

 その程度の攻撃力だった。

 能力が底上げされている今の俺では、大したダメージにはならなかった。


 だが、この魔物の名前の通り、攻撃にはマヒ効果がある。

 もちろんスキル【毒耐性】で無効化できるのだが――

 発動するまでのタイムラグで、

 短時間ではあるが、攻撃の効果を受けてしまうという欠点もある。


 そして――

 痺れムカデに噛まれ、軽い痛みを感じてから一瞬の空白のあと、

 続いて身体を襲ったマヒ効果による痛みは……想像以上に強烈だった。

 俺はその痛みに耐えきれず、その場に膝をついてしまった。


 想像上の五枚目のドミノとともに。

 

 しかしまだドミノを止めることができるはず。

 毒の効果は一度受けてしまえば次からは軽くなる。

 ここで立ち直れば、微々たる噛み付き攻撃と、ほぼ無効化できるマヒ毒攻撃、

 そして巻き付き攻撃くらいならば、いくら大量にいようと逃げる程度はできる。


 まだ焦る時間じゃない。

 俺の体力が尽きるまでに相当の時間の余裕があるはずだ。

 落ち着いて逃げ出せばいい。


 しかし――


「ユウキ!」


 ナナミが俺のピンチだと思い、駆け付けてきてしまった。

 その判断を責めることは出来ない。

 自分を落ち着けようと、あえて楽観的に考えているが、

 危うい状況なのは間違いないのだから。


 だが、この場はまずい。

 俺はいい。スキル【毒耐性】で毒は無効だ。


 だが……ナナミは。


 ナナミが毒に侵されてしまえば――

 これだけ大量にいる痺れムカデの毒に晒されれば、

 いくらレベル差があろうとも、無事だと考えるのはさすがに楽観的過ぎる。

 この魔物の持つマヒ毒は、レベルを超えて効果を発揮するほど強烈なのだ。


 しかし、ナナミはもうここに来てしまった。

 もうすぐ俺の硬直が解けるだろうという、その前に。


 いくら素早いナナミでも、これだけの大群に囲まれて、

 一度も攻撃を受けないような戦い方は不可能だ。


 そして一度でも噛みつかれて、マヒ毒をその身に喰らえば、

 動きが鈍り、立て続けに毒を受け、

 ついには身動きできなくなってしまうのが目に見えている。


 まずい。六枚目のドミノが倒れてしまう。

 その先を止める手段が俺には見えない。


 その時――


「やっ!」


 突風が吹き、俺の身体が浮き上がる。

 襟首が掴まれて、強い力で引っ張られる。


 ふわりと宙に浮かび、気づいたときには――


 ナナミにお姫さま抱っこされていた。


 近くにあるナナミの真剣な顔。そしてその上、これまた真剣な表情のクレア。

 どうやらクレアが風魔法【旋風】で俺を魔物から引き離す様に浮かせて、

 間髪入れずに、ナナミが俺の身体を引き寄せ、抱きとめたらしい。


 俺の頭の中にあった六枚目のドミノは倒れなかった。


 ネコミミ少女と魔族幼女の連係プレーで。


 そこからの逃走劇もまた凄かった。

 ナナミはクレアを肩車しているだけじゃない。

 俺をお姫さま抱っこしている。

 言い直すと……俺が、ナナミに、お姫さま抱っこを、されている。


 言葉にするとちょっと恥ずかしい。

 いや、そんなことを言っている場合じゃない。


 その体勢で、ナナミは洞窟の中を走り抜けた。

 俺が掘り進めた右に左に何度も曲がるトンネルを。


 俺は体験した――壁走りってやつを。


 もしかしたらナナミならできるのかな……と、

 そう密かに考えていたけれど、やっぱりできたのだ。


 それもクレアと俺がおんぶに抱っこの体勢で。


 まだ完全に抜けきらない緊張と、危機から脱した安堵と、

 華麗に壁走りをやってのけるナナミへの感動、

 そして見事に俺を救い出してくれた二人への感謝。


 いろんな感情が整理できないままだったが、

 痺れムカデの追跡を振り切り、

 無事に試作ダンジョン(最初の通路のみ)から脱出したのだった。



 ◇ ◆ ◇



「洞窟の入口を埋めるんだ!」


 俺の指示にナナミが「やるデス!」と良い返事をして、

 入口の近くに残しておいた予備の工具が入っている袋に駆け寄る。


 その姿を途中まで見て、俺は自分の行動に取り掛かる。


 ここは土の中じゃない。スキル【地中適応】の効果が消えてしまっている。

 このままでは三流能力者でしかない。


 そのためにできること。


 例の儀式もあるが、

 あれは効果が万全ではないし、「ぐるぐる」自体に力の一部を取られてしまう。


 だが俺にはもうひとつ考えていた方法がある。

 地面を掘っても良い場所ならば、

 無限ドリルで自分の身体がすっぽり入る穴を掘ればいい。

 それなら一瞬だ。


 俺は地面に無限ドリルを向けて、斜めに穴を掘り、そこに身体を入れる。

 もし観客がいれば、ネコミミ少女と魔族幼女だけを戦わせて、

 自分は穴の中に隠れようとしている……そうとしか見えない行動だ。


 男のくせになんて情けない奴だと思われるだろう。


 そんなことを想像して自己嫌悪に陥ってしまうというのが、

 この手段の最大の欠点だ。


 とはいえ効果は十分。胸の位置まで隠れて……じゃない、

 土の中に身を置いて、スキル【地中適応】が九割は発動している。


 これで俺の方は準備万端。

 スキル【土石操作】で入口を土砂で埋め尽くしてしまおう。

 ひとりでは困難だがナナミにも手伝ってもらって、

 出てくる痺れムカデを倒しながら、どうにか出来るはず。


 いや、しなければならない。


 そう固く決心をして、自分で掘った試作ダンジョン入口に視線を向ける。

 そろそろ最初のムカデが出てきてもおかしくない頃合いだ。


 俺たちの姿を見失ったとは言っても、あれだけ密集していたのだから、

 別の場所に続く通路を見つければ、そちらに向かおうとするのは至極当然。


 もう、あまり時間もないはず。


 と考えていたら――



 第44話、お読みいただき有り難うございます。


 次回――魔物に占拠されてしまった試作ダンジョン。

 このままではソニアに顔向けできない。ユウキは一体どうするのか……です。


 更新は8月25日を予定しています。


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