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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
ダンジョン攻略後半戦
29/67

第29話:嵐の前の静けさ

 巨大蜘蛛を倒した後、

 宝箱を確認して――からだった――第八階層に向かう。

 手にしたばかりのスキル【土石操作】をすぐにでも試してみたかったが、

 階層ボス部屋で留まっていると後続の探索者に迷惑がかかる。


 はやる気持ちを抑え切れず速足で階段を下りる。

 地下八階に出る結界扉をくぐった先にある少し広い空間。

 顔に笑みが浮かぶのを止められない。


「ちょっと試してみる」


 クレアを肩から降ろして皆に了解を貰う。

 仲間たちは俺の気持ちに理解を示して、興味津々な顔で見守っている。


 巨大蜘蛛が使っていた土の壁を造るスキル――【土石操作】。

 それ以外の情報は無い。使い方も今は知らない。

 けれど身体は理解しているはず。スキルとはそういうモノ。

 心を落ち着け、眼を閉じて念じる。炎の魔法石を使った時のように。


 不思議な感覚と共に身体全体に力が満ちてきた。

 その感覚――何かが表に出ようとしている――に従い、

 自然体のまま左手の平を上に向けて、さらに強く念を込める。


 手の平が熱い。

 目を開けると――そこには、小指の先ほどの小さな土の塊が浮かんでいた。


「【石飛礫】……」リリスのささやく声。


 その言葉をきっかけにして、俺は自分が生み出したモノに命令をする。

 誰もいない反対側の壁を意識しながら。


「飛べ!」


 小さな風切音を発して手の平から発射される石飛礫。

 狙った場所に命中して細かく砕ける。

 その威力は――指ではじいた小石程度。


 もう一度、今度はもっと強く念じてみたけれど、

 土の塊は大きくならず、飛翔する速度も変わらなかった。

 頭に描いていた土の壁との落差が激しい。


 ――それでも魔法は魔法だ!


 初めて使った魔法の喜びと、

 期待外れな威力に微妙な感情を抱いていると……、

 

「やはり呪文は必要ありませんわね」とリリス。


 集中しすぎて思考が硬直してしまっていたが、ようやく我に返る。

 そう云われればそうだ……、呪文を唱えていない。


「魔に属さない者が魔法を使うには呪文が必須です。

 幾つかの代替手段もありますが、結局は呪文に相当する行為が必要になります。

 けれど……いまユウキ様は呪文を唱えていない。そうですね」


「うん。スキルを使おうと念じただけだ」


「魔物の持つスキルだからなのでしょう。それはとても有利な点です。

 威力については……最初は誰でもその程度ですわ」


 俺の微妙な感情を見抜いて励ましてくれるリリス。表情が優しい。

 あれ? でも魔に属する存在がひとりいるけど……、


「クレアの【やっ!】とか【とう!】は?」

「あれは呪文じゃなくて掛け声ですわね」


 確かにそうか。納得した。


 改めて感触を確かめるように【石飛礫】を壁に向けて放つ。

 声に出して命令する必要はない。

 同じように飛んで行く石飛礫。これで三発目。疲れは感じない。

 自分の魔力量とか消費魔力なんかは、その内に掴めるだろう。


「ついに俺も遠距離攻撃が使えるようになったな……」


 しみじみと呟くと……何を誤解したか、

 それを耳にしたクレアが「アタシは……要らない子?」と寂しい声を出す。


 全力で「いやいやいやいや!」と否定する。


「でも……遠くの敵の相手ができるようになった」


「ぜんぜんだよ!

 まだ敵にあてられるかもわからないし、威力だって弱い。

 手で投げたほうがいいくらい……なん……だから……」


 自分で言って、再び落ち込んでしまった。

 その通り――経験値で身体能力の上がった今の状態では、

 落ちている小石を手で投げた方が威力もあるし正確だ。

 クレアの風の刃や銃の威力とは比較するのも恥ずかしい。


 俺の気落ちした雰囲気に気付いたクレアが、

「大丈夫、アタシがついてる」と慰めの言葉をかけてくれた。

 力なく「ありがと」と応え、再びクレアを肩車する。


 それから気を取り直して他の仲間の顔を見渡すと……、

 ナナミがキラキラした瞳で俺を見ていた。


「凄いデス! ユウキは凄いデス! どんどん強くなるデス!」


 ナナミの素直な賞賛が気持ちを温かくする。


「まだ威力は弱いけどね……でもこれから鍛えていくよ。

 約束通り、ナナミを守れるようになるためにもね」


「はいデス!」ナナミが輝く笑顔を見せてくれた。


 アンヌさんも微笑んでいる。


「技能結晶の意味は【石飛礫】じゃなくって【土石操作】だったんだよね。

 それなら土魔法全般が使えるようになるってことだよ。

 あの蜘蛛が使っていたのも【土の壁】だったし」


 あの巨大蜘蛛の生み出した土壁を見て手に入れたスキルだったから、

 期待を大きく持ちすぎた。

 でも、いつかはそれが使える可能性があるってことだ。


「そうですわ。操作とおっしゃってましたから……

 土魔法の操作部分だけで、素材を生み出せないかもと考えましたけど、

 しっかりと石飛礫が現れました」


 そうか……【土石操作】の意味だけを考えれば、

 周辺の土を動かしたりするだけのスキルだ。

 でも発射する土の塊は、拾ったのではなくて魔法で生み出したモノ。


「おそらく魔物のスキルなので、

 魔法という概念がないためにそう意味が伝わってきただけで、

 実際はワタシ達の言う土魔法と等しいスキル――

 いえ、呪文が必要ない分、より優れたスキルなのでしょう」


 リリスの冷静な分析にハヤトも力強く頷いている。


 ちょっと贅沢になっているな……俺。

 強くて優しい仲間に、聖魔眼と技能結晶吸収というチート能力まであって、

 こうして簡単に魔法の習得までしてしまったというのに……。


 魔法の威力はこれから鍛えればいい。

 リリスの言う通り、呪文が必要ないだけで十分すぎる利点だ。

 せっかく手に入れた魔法の威力が低くてガッカリするなんて、

 傲慢にもほどがある。


 もう一度【石飛礫】を放つ。魔法だ、俺の魔法。


 魔法を使える喜びを素直に受け入れて、

「みんなありがとう! がんばって鍛えるよ!」と笑顔でみんなに応えた。


 その後――少し早いがキリが良いのでそこで昼食。

 携帯食料なので時間もかからず、

 仲間にも疲労は無いので――アンヌさんが一番やる気に満ちていた――

 すぐに腰を上げて第八階層の攻略を始めることになった。



 ◇ ◆ ◇



 午後の攻略は――、

 実力を如何なく発揮するアンヌさんを先頭にして、順調に進めていった。


 まずは地下八階。


 湿地帯で川が流れて湖があるステージ。属性は水。


 樹木はそれほど密に生えていないが視界を遮るには十分。

 さらに多少の高低差がある地形とヨシのような背の高い草が生い茂り、

 熱帯雨林だった七階層ほどではないが見通しは良くない。


 地面はぬかるみばかりで足を取られて歩きづらい。


 湿地帯に現れる魔物は大足カエルに虹色ナメクジ。

 川と湖では赤目ザメと浮遊ピラニア。

 水魔法を使う魔物は湖の周辺を縄張りにしている水オサガメ。


 ここは川や湖の中に依頼対象になるアイテムが眠っているそうで、

 しっかりと攻略するには、それなりの装備が必要になる。

 実際に、出会った探索者は水に潜る準備万端だった。


 しかし俺達の目的は一通りの魔物を倒すだけ。

 水の中にいる魔物を見つけるのはナナミでも困難だったが、

 水辺に近寄るだけで攻撃を仕掛けてくるほど好戦的だったので、

 探す手間はかからなかった。


 で。今日二個目の技能結晶が水オサガメから。


 手に入ったのは――【潜水】だった。


 無呼吸で行動できるスキルだろうと考えて、

 次の魔物を捜している間、口と鼻を押さえて試してみたが、

 確かに考えられないくらいの時間、呼吸をしなくても全く問題がなかった。


「ユウキ様のスキル……どんどん人間離れしてきましたわね……」


 今までに技能結晶で手に入ったスキル。

 毒耐性、暗視、熱耐性、空間把握、土石操作、潜水。


 その内、耐性系のスキルは毒耐性と熱耐性と今回の潜水。


「そのスキルを身に付けるには、命がいくつあっても足りないですわ」


 これが魔物の持っているスキルを得られる技能結晶の最大の利点だ。

 普通であればスキルを会得するにはきっかけが必要。

 てことは……普通に考えれば、その環境に身を置く必要がある。


 ――あんまり想像したくないなぁ。


 自分の能力のチートさを改めて実感した。


 といっても、直接攻撃力を上げる能力ではないため、実戦では目立たない。

 五階層の無限の部屋で鍛えた能力も、

 この八階層で再び心許ない状況になってしまった。


 アンヌさんが弱らせてくれた魔物にトドメを刺すのに、

 力の限りの攻撃を何回か加えてようやくといった感じだ。

 魔物が強くなって、相対的に自分の一撃一撃の効果が小さくなっている。


 それでも、今日はこの階層と次の第九階層までだ。

 攻略自体は予定通りだし、もう少し頑張ろうと自分に言い聞かせる。


 その後、この階層の魔物をひと通り退治してから階層ボスに挑戦。

 そこは今までのボス部屋とは様子が全く違っていた。

 半分が石畳でその先全てが水面。いかにも水属性階層のボス部屋だ。


 水の深さの確認もできないまま、

 いきなり水柱と共に現れたのは巨大なタコ――クラーケン。


 凶悪な様相だったのだが……その実力の一端すら見ることができなかった。

 あっさりとアンヌさんが【炎の蛇】で拘束してしまったからだ。

 そしてそのまま陸に引き摺りだされ、生焼けの状態で俺の目の前に用意される。


 俺の攻撃は通りにくいが、それでも何度か槍を振るいトドメを刺す。

 技能結晶は現れなかった。宝も無し。


「よーし! 後は第九階層だね。どんどん行こう!」


 アンヌさんの笑顔が眩しい。



 ◇ ◆ ◇



 そして地下九階。

 話に聞いていた火山のステージ。もちろん階層の属性は火。


「この階の魔物ってみんな熱耐性がありそうですけど……、

 アンヌさん大丈夫ですか」


「ふふふ……見くびってもらっては困るよ、ユウキ君。

 それはこっちも同じ。

 確かに魔物やユウキ君の持っている【熱耐性】スキルには及ばないけど、

 ここの環境はボクにとっても不利にはならない。

 だからこそ、実力差がはっきりと現れるのさ」


 この階層に現れる火属性の魔物、

 サラマンダーや火の鳥なんかを【炎の蛇】が絡めとり拘束する。

 すると明らかに【炎の蛇】の火勢が増して、魔物は逆に弱りだす。

 炎による熱攻撃なら耐性のあるサラマンダーがあれほど弱るはずがない。


 アンヌさんが使っているのは、

 リリスが教えてくれた火魔法の隠された効果――熱量の吸収。


「わははははぁ!」


 この階層でもアンヌさんのおかしな笑い声が響き渡る。


 そして、それは階層ボスのイフリート相手でも同じだった。

 このダンジョンではラスボスの次に強いはずの魔物。

 だというのに、手加減しながら相手ができる――それが爆炎の竜騎士さん。


 イフリートにとって生命力に等しい身体にまとう炎を吸収し、

 ちっちゃな「元イフリート」と呼ぶしかない魔物にしてしまう。


 そこをすかさず俺の槍の攻撃で時間をかけてトドメを刺す。


 これで第九階層攻略終了。今日の予定達成だ。


「うん、こんなもんでしょ」


 今日一日活躍したアンヌさんの最後の締めの言葉。

 どうやら満足してもらえたようだ。


 今日の成果は技能結晶二個――宝は無し――だった。

 残すは第十階層、ラスボスの攻略だけ。



 ◇ ◆ ◇



 その後、探索組合で、

 今日の分の魔石を預けて、代わりに昨日の分のお金を受け取る。


 このパーティ――

 アンヌさんとリリスとハヤトが全くお金に困っていないらしく、

 収入に対して無頓着で分配する様子がない。

 その内、ナナミやクレアにお小遣いを上げるように進言してみよう――

 なんて考えながら宿に戻る。


 そしていつも通り打ち合わせ。

 殊勲賞はアンヌさんだけど、好きでやってたのでご褒美は無し。

 逆にアンヌさんがリリスとナナミとクレアにデザートを御馳走した。


 明日はいよいよラスボス挑戦。


 これは、ここ十階層ダンジョンの攻略総日数が――四日間になるってこと。

 普通なら一階層の攻略だって一ヶ月とかそんな単位でかかるはず。

 それも才能があればの話で。


 楽をし過ぎているんじゃないかとか、もっとじっくりと攻略したいとか、

 強制レベリングのお陰だなとか、これってチートかなとか、

 いろいろ複雑な思いはあるけれど、今はそれに目をつぶる。

 今の状況は確実に目標に向かって進んでいると理解しているから。


 ハヤトが口を開く。


「懸念はガウスだ」

「今度も情報を掴んでいるだろうね」と、アンヌさんが当然のように答える。


「それって探索組合に内通者がいるってことですか」アンヌさんに尋ねる。


「いや、そうとも限らない」答えてくれたのはハヤト。


「オレが思うに――

 闇魔法で使い魔を生み出して、それを使って組合を探っているのだろう。

 害意を持たずに気配を消されれば、

 ナナミでも見つけられないほど隠密性の高い使い魔。

 あいつのそういう能力は超一流だ。自分のためにしか使わないがな」


「そうだね、内通者と考えるよりはそっちの方がありそうだ」

 アンヌさんが同意する。


「それで、明日のラスボス攻略の時にガウスが現れたらどうするかだが……」

「来るとすれば、待機部屋だよね」

「そうだ……攻略後は待ち伏せには向かないからな」

「うん、ハヤトの部屋からひっきりなしに探索者が出てくるからね」


「考えたんだが……ガウスが現れたらオレが相手をするから、

 アンヌは皆を連れてラスボスを攻略してもらえないか」


「……ま、それでもいいけど、

 ボクはガウスにでっかいヤツをバーンとくらわす宣言をしちゃったしな」


「確かにリリス様にナナミ、そしてクレアがいれば、

 ラスボス攻略の適正レベルだろうが……、

 そこで無理をする必要はない。――アンヌ、頼まれてくれ」


「それもあって、今日ボク一人がやるのに賛成したんだ……?」


「……まぁ、それもある」


「やっぱりハヤトは抜け目ない。いいよ……わかった。

 自分の不始末は自分でつけたいってハヤトの気持ち、よくわかるからね。

 ガウスが現れないならそれが一番だけど……

 もし来たらハヤトに任せて、みんなでボス部屋に這入るよ」


「すまない……皆にもそれでお願いする」


 ハヤトが頭を下げる。

 攻略の方針について、ハヤトとアンヌさんが決めたのなら反対する理由は無い。

 全員が同意して、ガウスの相手はハヤトに任せることが決定した。


 こうして、攻略最終日前日の打ち合わせが終わり、

 後は男女別れて入浴、一日の汗を流し明日に備えて眠るだけ。


 ――今日は大きなトラブルが起きなかった。


 ナナミの寝息を聞きながら、

 これが嵐の前の静けさでなければいいなぁ――なんて考えて、

 異世界生活四日目の眠りについた。



 第29話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――ラスボス攻略開始です。あの男が再び現れます。


 事情により、

 次回更新は二週間後、4月12日を予定しています。

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