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第19話:新たなスキル

 第五階層――怒涛の戦闘ラッシュ。


 出現した魔物は今まで現れた全種類。大緑サイ、ブルータイガー、

 灰色オオカミ、大イノシシ、大コウモリ、大ウサギ、大ネズミ。

 もちろん五階層レベルに強化されている。


 ナナミが魔物の気配を「あっちデス」と見つけると、そっちにダッシュ。

 お互いに身構える暇もなく戦闘に突入。

 俺の担当分を残して時間をかけずにリリスとナナミが退治する。


 一方の俺はといえば、槍の攻撃でHP1を削るのが精一杯(適当)。

 ギリギリまで弱らせてもらった魔物に何回もの攻撃を加えてトドメを刺す。

 その中でじわじわと自分の能力が上がっていくのを体感する。

 体の動き、筋力、反射神経、動体視力などなど。

 それでも与えるダメージはHP1(たぶん)。


 しかし、いつかは努力は実る。

 この階層で二十回を超える戦闘を繰り返し、

 今も大イノシシを攻撃していた最中に、俺の攻撃に一つの転機が訪れる。

 頭の中にファンファーレが鳴った訳ではないが、

 明らかに槍の扱いがスムーズになったのである。まるで体の一部のように。


「うおぉっ!」と思わず声を出してしまう。


 説明を受けなくても理解できた――スキル【槍術】が身に付いたのだと。

 狙ったところに槍が向かう。魔物の身体に無理なく届く。

 魔物に与えるダメージが実感できる。


 大イノシシに対して今までにない鋭い感触の一撃を加えて戦いを終わらせる。

 それからひとり、しみじみと感動していると、

 俺の変化に気づいたリリスとナナミが近くに寄ってきた。


「ユウキ様、【槍術】のスキルを手に入れましたわね」

「うん、どうもそうみたいだ。わかるのかい?」

「動きが突然よくなりましたから。これで初心者を卒業ですわ」

「ユウキは強くなったデス!」

「でも普通は、一日でスキルが取得できるってのは珍しいんじゃないのか?」


 技能結晶なら話は別だけど……、そう思いつつハヤトに視線を向ける。


「そうだな……初心者なら第一階層を一ヶ月以上かけて、

 それでようやく武器用のスキルを取得するのが一般的だからな。

 勿論才能があればの条件付きで。

 それでも……この階層でこれだけ戦えば当然とも言えるか」


「いや、ボクの考えじゃ、ユウキ君に才能があったんだと思うよ。

 こんな強制レベリングなんて普通やらないから比較できないけどね」


 ハヤトもアンヌさんも俺の【槍術】スキル取得を喜んでくれている。

 俺は自分の成長を試したくて、疲れを忘れて次の戦闘に向かった。


 そうして試した結果――まだ一対一で倒すのは無理だが、

 相手の動きを抑えながら、ちまちまダメージを与えられるようになっていた。


 たった一日で初心者を卒業とは、さすが強制レベリングの効果は凄い。

 さらに今まで攻撃ができなかった空からの敵、大コウモリに対しても、

 近くに寄って来たところに槍の攻撃を当てられるようになった。

 これは嬉しい。


 喜んでいるところにハヤトが次の方針を提案してきた。


「よし、ボス部屋の近くの部屋――別名『無限の部屋』に行くか」


 そこは「そっちはまだ行かなくていい」と言っていた場所。

 ……名前が不吉だ。

 高揚していた気持ちが一瞬で冷えるほどのインパクト。


「……なんか名前が怖いんだけどな」


「大丈夫だ、ザコ敵が固まって出てくるだけだ。

 名前も無限というが百体も出てこない。安心しろ」


「……」それは大丈夫じゃないし、安心もできない。


「その部屋の攻略が階層ボス挑戦の目安なんだ」


「でも今の俺ってようやく初心者を卒業した程度なんじゃ……」


「その部屋ではオレとアンヌも手伝う。

 全員で魔物を抑えるのに専念してユウキに戦って貰おう。

 最初の内は手心を加えるが、なるべく一人で倒せるようになってくれ」


 その場所は地図で見ると階層ボス部屋のすぐ隣。ちょっと大きめの部屋。

 実際にその場所まで行くと部屋の入口に結界扉があった。向こう側は見えない。


「この結界扉は出入り制限も時間制限もない。

 ただ単に魔物だけを中に封じ込めておくためのものだ」


 ハヤトが説明してくれた。

 危なくなったら逃げられるのなら少しは安心だ。


「ユウキ、心の準備はいいか」


 恐怖を煽る言い方に「ちょっと待て」と言いたいのをグッと堪えて俺は頷く。

 全員で一列に並び結界扉をくぐる。


 そこに俺は地獄を見た……。


 部屋に入ると一面の魔物が一斉にこちらを向いた。

 本当にこれで百体程度なのか、最初にそう思った。

 興奮した魔物達があげる咆哮が耳に痛い。

 ハヤトとアンヌさんが一番前に出て壁のように立つ。

 その後ろにリリスとナナミ。俺は一番後ろ。


 そこから先はあまり思い出したくない。いや……ほとんど思い出せない。


 泣き出しそうなナナミの顔。ニコニコ笑顔のアンヌさん。

 心配そうな顔のリリス。表情の変わらないハヤトとクレア。

 そして途切れることのない魔物たち。


 ナナミは俺の前に出て魔物にトドメを刺そうとするのだけれど、

 アンヌさんに笑顔で「大丈夫、大丈夫」と押し止められる。

 心配そうに回復魔法をかけてくれるリリスに、

 冷静な顔で「これもユウキの為だ」とハヤト。

 クレアは何故か俺から目を逸らす。


 そんな中で延々と魔物を倒し続けた。槍を振るい続けた。

 首が吹き飛ばされてもおかしくない掌底攻撃。襲い掛かる牙。

 突進してくる角。上空から体当たり。そんな魔物の姿がフラッシュバックする。


 そして――『無限の部屋』の攻略を終える頃には、

 五階層の大イノシシ一体なら一人で倒せるほどになったのである。


 それは第一階層ボスの大イノシシなら軽く倒せるほどの実力。

 思えば遠くへ来たものだ。


「ユウキ、お前ならできると信じていた」


 力強く言うハヤトの頭の上、

 クレアが言葉には出さないが心配そうな顔で俺を見る。

 幼女のそんな顔は初めて見た。


「ボクもびっくりだよ。最後までよくやれたねぇ」


 最後までニコニコしていたくせに……。

 アンヌさんは嗜虐趣味もあるらしい。


 リリスは「御無事で何よりですわ」と引きつった笑顔を浮かべている。


 ナナミは「心配したデス……」と涙声で顔が赤い。心配をかけてしまった。


 確かに無慈悲な方法だったが、こうして無事やり遂げることが出来た。

 それはハヤトとアンヌさんがしっかりと俺の力量を見極めて、

 絶妙なさじ加減で魔物と対決させてくれたからなのは明らかだ。


 だから「無茶苦茶だろう!」と叫びたい気持ちを抑える。

 本当のところはあまりの疲労に怒る気力もないからなのだけど。

 その代りに皆に感謝を伝える。息も絶え絶えに――でも何とか笑顔で。


「ハヤト……アンヌさん……クレア……ナナミ……リリス……、

 みんな……ありがとう」


 その後、少し長めに休息をとる。アンヌさんは笑顔で魔石の回収。

 残念なのは、あれだけ倒しても技能結晶は現れなかったこと。

 見逃した可能性もあるけれど、それを考えても仕方がない。

 しばらくして俺の呼吸が落ち着いたのを見計らったハヤトが告げる。


「では――今日の最終目標……第五階層ボス――サラマンダー三体の攻略だ」


 もうどうにでもしてくれ――俺は投げやりにそう思った。



 ◇ ◆ ◇



 ――が、実際のところ階層ボス戦で俺の負担は少なかった。


 まぁ、それも当然か……。


 サラマンダー。全身が真っ赤なトカゲ。

 大きさはブルータイガーと同じくらい。それが三体。

 人の頭を丸かじりできるくらいの顎を持っている。

 身体からは常時高温を発していて部屋の中は熱気が充満している。


 大イノシシをようやく退治できる程度の俺ではまだまだ足手まといだ。

 強くなった実感があっさりと消えてしまう。

 しかしリリスとナナミにはまだまだ余裕がある。


 ナナミが三体の注意を引き付け、

 隙を見せた一体にリリスが得意の氷魔法【氷結縛】を使って動きを止める。


 それを見たナナミは近い方の一体に蹴りを放ち、

 自分の身体の何倍もある巨体を吹き飛ばして戦いの場所を変える。

 即座に駆け寄り拳での攻撃。

 さすがに一撃では倒せないようだが、数撃でふらつき始める。

 ナナミの鋭い攻撃は、表皮にまとう高熱の影響を受けていないようだ。


 一方のリリスは氷の大剣を魔法で作り上げ準備完了。

 別の一体と対峙している。


「来なさい!」


 凛々しい声でサラマンダーを挑発する。

 対するサラマンダーは彼女との実力差を感じているのか、

 用心深く様子を窺っている。


「来ないのなら……」こちらからと……リリスは最後まで言えなかった。


 サラマンダーが大きな口を開けて火の玉を放ったのだ。

 リリスの上半身を呑みこむほどの大きさ。

 しかし速度はそれなり。俺でも避けられるかもしれない。


 だからリリスも避けようとすれば簡単だったのだろうがそうはしなかった。

 手に持つ大剣が動く。斬――斬――斬――と三撃で切り裂き、

 火の玉と氷の刃の対決はあっけなく氷側の勝利となった。


 霧散する火の玉の残骸を蹴散らして突進するリリス。

 火の玉攻撃が破られたのにようやく気付いたサラマンダーに瞬時に肉薄。

 もう一度氷の刃を振るう。斬――斬――斬――斬――斬――と五撃。

 サラマンダーは魔石を残し光に還っていった。


 ナナミの方も同時に倒し終えていた。残るは最初に氷漬けにした一体のみ。

 リリスが呪縛を弱めナナミが拳で数撃。

 弱ったサラマンダーが用意された状態で、俺はようやく戦いに参加する。

 槍術のスキルに従い綺麗な一突き。

 俺の攻撃はサラマンダーの残りの体力を消すのに成功した。

 光に還り魔石が残る。


 そして――出た。待望の技能結晶。だが、それだけではなかった。


「……【熱耐性】……?」


 言葉ではなく意味が頭に浮かんだ。瞳に映るモノの意味が。

 俺の眼の能力が発動した……と、はっきり理解できた。


「ユウキ……どうした。技能結晶がでたのか」ハヤトが声をかけてくる。


「そうだ……それだけじゃない。

 俺の眼の能力が発動して……技能結晶の意味が分かった。

 ここにある技能結晶が【熱耐性】のスキルだと教えてくれた」


「ユウキ様! 聖魔眼ですか!」


 そういえば……そういう名前になったんだった。

 大げさな呼び名に「……そうだ」と応えるのが遅くなった。


 上昇する技能結晶を指で摘まみ吸収する。微かな感触。

 それから後ろを振り向きみんなを見渡してから、もう一度説明する。


「サラマンダーから技能結晶が現れた。そして俺の眼「聖魔眼!」が……」


 リリスはその呼び方が気に入ったらしい。

 俺のセリフに被せてくる。


「聖魔眼が意味を教えてくれた。

 俺が手に入れたスキルは【熱耐性】らしい」


 サラマンダーから得るには、そのものずばりって感じのスキルだ。


「確認したいから……そうだ、アンヌさん火魔法が得意ですよね。

 俺に何か火魔法を使ってみてくれませんか」


「任せなさい!」と答えたアンヌさん。


 何か高速で口を動かし、手が高速で印を結ぶ。忍術を使う時にするような仕草。

 魔法でも印を結んだりするんだ。格好いいなぁ。


 そしてアンヌさんの正面に小さな火の玉がひとつ……

 大げさなわりに可愛い魔法だ――なんて気楽に考えたのも束の間。


 ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! ボボボボボボッッッボッ!!


 周囲に無数の火の玉。三桁とか四桁の数。

 そしてアンヌさんの顔が歓喜の炎に照らされて――


「全てを焼き尽くせ! 【炎獄乱……「【氷結縛】!」……」


 途中に聞こえたのはリリス得意の魔法。

 氷漬けになったアンヌさん。無数に浮いていた火の玉は消滅した。


「ありがとう……リリス様」お礼を言ったのはハヤト。


 二人の様子でおおよその事情は理解した。

 俺は氷の中で半笑いしているアンヌさんをジト目で見る。


「ユウキ様。ワタシも火魔法を使えますわ。弱いのから試しましょう」


 リリスもアンヌさんをそのままにして、

 簡単に呪文を唱えて指先から小さな魔法の炎を出す。


「まずは手を近づけてください」


 言われた通りに手をかざす。

 炎に炙られて熱さは感じる……が痛みはない。

 大丈夫だと頷いて見せる。


「少し火力を上げます」リリスがそう言うと炎の色が紫色に変化した。


「熱が上がったのは感じる……けど痛みはないな」


 落ち着いた声で感触を伝えると、

 ナナミが真剣な顔で炎と俺の手を見つめる。


「焦げてないデス」


「そうですわね……もう少し上げてみましょう」炎の色が青色になる。


「うん、熱さは感じるけど、痛みは感じない。大丈夫だ。

 どの程度耐熱出来るかはまた後で調べよう。

 とりあえず俺の眼で「聖魔眼!」……、

 ……聖魔眼で見えたのが技能結晶の効力だと確認できた」


「前の二回はスキルの効果までは分からなかったんだな」とハヤト。

「あぁ、何処に違いがあるんだろうな」

「オレの考えでは……聖魔眼のレベルが上がったんだと思う」


 ハヤトが聖魔眼と口にした時に笑顔になったリリス。


「ワタシも同じ考えです。聖魔眼のスキルが上がって能力が追加されたのですわ。

 この階層での特訓の成果ですわ!」とナナミの方に笑顔を向ける。


「そうデス! 聖魔眼レベルアップしたデス!」手を取り合って喜び合う二人。


「へぇ、凄いね、ユウキ君」


 そこに何食わぬ顔でアンヌさんが会話に加わる。

 氷漬けになっていたはずなのに……。


「聖魔眼のレベルアップも凄いけど【熱耐性】かい。

 ボクの火魔法に対する挑戦のようだね。

 いつかボクの【炎獄乱舞】と是非対決して欲しいものだね」


 いや、さっきそれ使おうとしたでしょ――と口には出さなかった。

 どうも【熱耐性】スキルが爆炎の竜騎士様のお気に召さなかったようだ。

 いつになく半目で不気味に笑うアンヌさんだった。



 第19話、お読みいただき有り難うございます。


 次回は――「二日目の終わり」です。

 ユウキは異世界に来てまだ二日目。ダンジョン攻略初日だったのです。


 ということで日数で章分けをしてみました。


 次回更新は1月27日を予定しています。


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