第18話:着々とダンジョン攻略
襲撃者『沈黙の山羊』をどうするか――最初にハヤトが口を開いた。
「いくらなんでも素直に警備隊に行くなんて信じられないぞ」
「まぁ、そうだよね。でも――
全員でぞろぞろと警備隊まで連れていくなんてのも無駄だよね」
この発言はアンヌさん。俺もそう思う。
ダンジョンの構造上、上層への階段まで行けば出口はすぐそこだ。
しかし、もうこの第二階層はかなり奥まで進んでいる。
今更戻るには時間が勿体ないし、それがこんな奴らの為となればなおさらだ。
「そんな時間は無い。この件でユウキのレベルアップを更に急ぐ必要が出てきた。
しかしだ……、そうはいっても奴等を無罪放免する訳にもいかない」
そう言い終えたハヤトが意味ありげに仲間の顔を見渡す。
俺の顔を見てから、アンヌさんの顔を見て、最後に見たのはリリスの顔。
リリスはそれだけでハヤトの言いたいことを理解したらしい。
小さく頷いてアンヌさんに命じる。
「この男達を警備隊まで連行してちょうだい」
アンヌさんも何を言われるのか解っていたようだ。
肩から力を抜くような仕草をする。
「……はぁ、そうなるよね。全員で動くのは無駄。無罪放免はダメ。
命を危険にさらすような対応はまあ論外。なら答えは一つ。
誰か一人が連れて行って、残りはダンジョン探索を継続するのが上策だろう」
自分を納得させるように一度頷くアンヌさん。
「そして――その役目、ボクが適任だと言うのも事実。
男四人が歯向かってきても軽く対処できるからね。
索敵と罠解除はナナミちゃんの方が上手くなっているから、
いまボクが抜けても問題ないし――」
そこまで言ってからハヤトに視線を向ける。
続いて彼女の口からでたセリフの意味がすぐには理解できなかった。
「それに――ハヤトが自分とキャラの被る、ボクを邪魔だと思うのもわかるから」
これは珍しい――ハヤトのキョトンとした顔。
俺も同じような顔をする。ハヤトとアンヌさんのキャラが被るって……どこが?
その反応が不満なのかアンヌさんが更に言葉を続ける。
「なんだい、その顔は……。
いいかい? 同じ竜騎士、これだけでも十分だけど、
武器は片手剣とサーベルで同じようなもの。
魔法も得意で火魔法と風魔法っていう似たような攻撃魔法。
凛々しい容姿で女の子に人気がある。全くもって鏡を見ているようだよ。
だからこそボクのライバルなんだけれどね」
最後に「てへっ」と笑顔になる。
言われてみればかなりの共通点だ。今まで全然気がつかなかった。
それほどまでに二人は似ていないのだけれど。
当たり前のようにアンヌさんの妄言は全く無視される。時間も勿体ないし。
「……じゃあ、すまないがそれで頼む」とリリスに云うハヤト。
「……わかりましたわ。アンヌ、男達の戒めを解くから縄で拘束して」
「……」自分の言葉を無視されたアンヌさんが、ジト目になってリリスを見る。
……とりあえず結論が出た。
怯えながら待っていた男達の元に戻り、結果をハヤトが告げる。
「良かったな。命は助けてやる。
この凛々しくて同性から人気のある女性がお前達を警備隊まで連れていく。
言っておくが、お前達全員が束になっても勝てない力量の持ち主だ。
暴れても無駄だから大人しく従うんだな」
言葉の端にアンヌさんの妄言に対する皮肉があるけど気にしないでおこう。
聞かされた男達にも裏の意味が通じるはずがない。
アンヌさんもニコニコ聞いているし。
ということで、自分達の処遇に安堵した男達は一斉に感謝の言葉を告げた。
「……ありがとう」「恩に着る」「もう悪さはしない」「真面目になる」
さっきみんなが脅したのが効いたようだ。髭面の男なんか涙を流している。
これなら、これ以上何かをしでかすこともないだろう。
まぁ、アンヌさんが連行するのだから、したくても何もできないだろうけど。
リリスが男達の身体を覆う氷を消して、アンヌさんが縄で拘束する。
「じゃあ、行ってくる。
多分この階のボスを倒したころには戻れるだろうから、
ボス部屋から下に降りて、地下三階に出てくるところで待ってるよ」
◇ ◆ ◇
アンヌさんと一時の別れを告げて、
ダンジョン探索を再開しようとすると――
今まで黙っていたソニアさんが、クレアの口を借りて話し始める。
「揉め事は終わったようじゃの」
今までの経緯も見ていたらしい。
俺はソニアさんにお礼を言い忘れていたのを思い出す。
「ソニアさん、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「なに、最初はハヤトに気に入られて憎らしいとまで思っていたが、
クレアの目に映るお主の姿を見て、そのような気持ちも薄れていった。
今ではもう同志のように思っておる」
……危なかった。
世界を破滅できる力の持ち主に憎まれていたなんて……はぁ、命拾いした。
「まぁ、わらわも見たかったものを見終わったようじゃから……、
ハヤトよ、しばらくはクレアの眼から離れるから安心して良いぞ」
「あぁ、そうしてくれ」はっきりと表情に出さないが、ほっとした様子のハヤト。
「それと暇な時に小僧を連れてわらわの所に来るがよい。
小僧、いつか直接顔を見せに来い。わかったな」
「はい、わかりました!」俺は姿勢を正して返事をする。
「それではまた会おう。クレアも元気でな、さらばじゃ」
「母様、またね」同じ口でソニアに別れを告げるクレア。
あっさりとソニアさんとの別れが終わった。
クレアが少しだけ寂しそうな顔をしていたので、
俺――このダンジョン探索が終わったらソニアさんに会いに行くんだ……、
そんな何かのフラグみたいなことを心に決めたのだった。
それからもうひとつ思い出した。
大コウモリから新たなスキル【暗視】を得ていたことを。
話の途中で襲撃されたので忘れそうになっていた。
ダンジョン探索を再開したので効果の確認をしてみると……、
その結果は上々だった。
通路の灯りは均一ではなく光の射さない所がある。
そういった場所は何があるのか全く見えなかったのだけれど、
今では、はっきりと分かるようになっていた。
暗い場所が『見える』のではなく『分かる』という感じ。
そこに天井に逆さにぶら下がっている魔物を見つけたので、
ちょっと自慢したくてリリスに尋ねる。
「あそこの暗闇にいる大コウモリ――見えるかい?」
「さっきの【暗視】能力ですわね。あそこにいる大コウモリですか?
気配は分かりますけど暗くて良く見えません。さすがですわ!」
気配は分かるんだ……。
「ナナミは……どうかな……」
「見えるデス。ユウキと同じデス」
尋ねる途中で答えが予想できてしまって言い方が弱々しくなる。
返事はやっぱり思った通り。
無邪気に笑うナナミ。そうだよね。ナナミなら見えるよね。
「ハヤトは……?」
「見える……。まぁ、ここは光がないわけじゃない。
本当の暗闇でないとそのスキルの真価は判らないんじゃないか」
ハヤトの優しい目が逆に心に刺さる。
俺が会得したスキルは今のところ【毒耐性】と【暗視】だ。
さっき【毒耐性】は役に立ったし、【暗視】も大コウモリを見つけられた。
しかし――
技能結晶からスキルを手に入れるなんてチート能力なんだろうけれども……、
あまりぱっとしないスキルでちょっと微妙と感じるのは贅沢だろうか。
と、そんな風に考えていると――
発見した大コウモリが襲い掛かって来た。
その数三体。苦労することもなくナナミの斧とリリスの魔法で仕留める。
「さて、ユウキの【暗視】能力も確認できたし、攻略スピードを上げるぞ」
ハヤトの言葉に俺達は足を速める。
少しずつ経験値による能力アップしているようで、
荷物を持ちながらジョギングの感覚で走っても疲れは感じない。
もちろんナナミもリリスも苦しい顔ひとつしない。
罠を発見したナナミは足を速め、先に解除をしてしまう。
その余裕があるってことは、ナナミにとって今の速度は遅いくらいなのだろう。
時々他の探索者を追い抜くのだが、皆驚いたような顔をする。
やはり、こんな風に走ってダンジョンを攻略するのは珍しいようだ。
片手を上げながら横をすり抜けていく。
魔物に遭遇すると――
二人の少女がすれ違いざま攻撃。一体だけ残して退治する。
そして少女のどちらかが手加減攻撃で弱らせた残りの一体が俺の分担。
地下二階に来て、俺と魔物の力の差は少し広がっているようで、
そこまでお膳立てをされないとなかなか俺の攻撃が当たらない。
少し心苦しいが……それは贅沢な悩みだ。
そんな調子で地下二階。階層ボス部屋に到着。
相手は灰色オオカミ一体と大イノシシが二体。
初めての敵――灰色オオカミは体の大きさが大イノシシと同じ程度。
違いは敏捷性。
速度にそれほど違いはないが、右に左にと素早く移動し的を絞らせない。
その敏捷性を駆使して牙や爪で攻撃をしてくる。
やはり今の俺では手が出せない。
しかし、ナナミとリリスならば、まだこのレベルでは敵ではない。
まずはサクッと大イノシシを退治する。
それから少しだけ灰色オオカミの攻撃を様子見していたが、
恐れる必要もないと判り、前の階と同じように弱らせて動けなくする。
そして俺の眼の前へ。
もう躊躇わない。数回の攻撃を加えて止めを刺す。技能結晶は……無い。
こうして地下二階攻略終了。残念ながら宝箱は空だった。
◇ ◆ ◇
そして第三階層――地下三階へ。
階段を下り、結界を抜けた先に約束通りアンヌさんが待っていた。
「早かったね。ボクも今ここに来たばかりなんだ。
ゆっくりしていたら置いていかれるところだった」
「ご苦労だった」ハヤトが答える。
「入口の警備員に説明して全員引き渡した。それとガウスの件も話しておいたよ」
「そうか……今の時点だと警備隊の力を当てにはできないだろうな」
「そうだね、もう少し直接の動きがないと警備隊は何もできないよ」
「今はユウキを鍛えながら相手の出方を待つしかないな」
再び全員が揃ったところで通路の片隅に座り遅めの昼食を摂る。
といっても携帯食料と水だけ。
今の時間は昼を過ぎた辺り。
ハヤトが時を知らせる魔法石を懐から出して見せてくれた。
時間の経過で色が変化する。正午は赤く深夜に青くなる。
ダンジョンの中ではこれで時間を知るのが一般的だそうだ。
「よし、攻略を続けるぞ。
このままのペースなら予定通り五階層まで降りられそうだ」
全員で走りながら進撃する。
それは俺のペースに合わせてくれたから何とかなったが……。
レベル差のある魔物を倒してきて、
自分の動きが良くなっている実感は確かにあるのだけれど、
それ以上に魔物との能力差が広がっているのを感じる。
第三階層の魔物には第二階層ボスだった灰色オオカミの劣化版が加わった。
敏捷値が下がったようだが攻撃を当てるのは今の俺には無理。
それどころか、この階層で一番弱い大ネズミですら捕まえられない。
だからと言って後ろで見ているだけとはいかない。
ハヤトから聞いた話では、
直接魔物を倒さずとも経験値的なものが手に入るらしいから、
無理に戦闘する必要はないのだけれど――そうできない理由がある。
それはもちろん、自分を鍛える為でもあるし、プライドの為でもあり、
もうひとつ……技能結晶の為でもある。
どんな条件で技能結晶が出てくるのか――
それは今のところ不明だけれど、少なくとも自分で仕留める必要があるらしい。
だから結局のところ、
ナナミが弱らせたり、リリスが魔法で動きを止めた魔物を仕留めるしかない。
「ナナミ、そっちの大イノシシ二匹をお願い!」
「リリス、灰色オオカミを凍らせるデス」
二人が楽しそうに仲良くやっているのが救いだ。
そして第三階層ボス部屋。
魔物はブルータイガー一体。薄い青に濃い青の縞模様。
俺の頭を一飲みできる顎の大きさ。もう絶対に一般人では太刀打ちできない。
よくある動物ものパニック映画の惨劇みたいな状況が目に浮かぶ。
それでも――まだまだナナミとリリスのペアにとっては容易い相手。
レベルとかステータスの差とはこれほどまでに凄いのか。
二人の少女が凶暴な青い虎を手玉に取る姿には只々驚くしかない。
そうして動きを封じたブルータイガーを俺の攻撃で仕留める。
今回も技能結晶は現れなかった。
その後の宝箱には火魔法が込められた『炎の魔法石』が十個。
一階層のペンダントのお返しに「ユウキが持つデス」とナナミから手渡された。
特殊攻撃のない俺なら何かに使う機会もあるだろう。
第四階層も同じように休まず進撃。
何事もなく階層ボスと対戦。大緑サイ。
ナナミとリリスの敵ではない。技能結晶は無し。宝箱は空。
こうして各階層のボスを相手にしてきたのには訳があった。
ハヤトの話によると階層ボスは「経験値的においしい」らしい。
とりあえずレベルを上げる為に手っ取り早いと。
そして、ようやく今日の予定の階層――地下五階に到達した。
「よし、今日は残りの時間をこの階層での戦闘にする。
出来ればユウキをこの階の魔物と戦えるところまで鍛えたい。
それから最後に階層ボスのサラマンダー三体を倒して、今日の攻略は終わりだ」
レベル差が開きすぎてダメージを与えられなくなりそうだったので、
これ以上階層を進むのに無理を感じていた俺にとっては有り難い話だった。
これから挑む地下五階には今日最後の試練が待っているのだが、
今の俺はもうすぐ終わるという目先のことに安堵したのであった。
これからが本当の強制レベリングだというのに。
第18話、お読みいただき有り難うございます。
次回は――
第五階層攻略。怒涛の戦闘ラッシュ。階層ボスのサラマンダー三体との戦闘。
ユウキは新たなスキルを会得できるのか。
更新は1月20日を予定しています。
※1月13日 誤字修正




