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第12話:装備を揃えてダンジョンへ

 さて、ここは武器と防具を扱う店だ。


 ここに来るまでに何軒か同じような店があったが、

 全部、素通りして連れてきてもらったのがこの店。


 三階建てでフロアも広く、品ぞろえもしっかりしているようだ。

 一階が武器、二階が防具、三階が魔法道具ほか探索必需品。


「ここって、上級者向けの店じゃないのか」と俺は遠慮がちに言う。


「当たり前だろう。これから世界を救う男の武器と防具をそろえるんだ。

 最高級品を選ばなくてどうするんだ」と答えるハヤトは軽く笑顔を見せる。


「それは皮肉か」俺も苦笑いで返す。

「ん、まぁ、世界を救うは冗談だが――いい武器と防具を選ぶのは本気だ。

 数日で探索者のCランクになってもらうつもりだからな」


「そうです。無理やりにでも強くなっていただかないと困ります。

 ワタシにとって『世界を救ってもらうために』というのは本気ですわ」

 そう言いつつ、リリスも笑顔。


「お金は大丈夫なのか?」

「もちろんだ。オレに任せろ。この店にある最高級品だけ選んでも大丈夫だ」

 これが金銭チートか。

「ナナミの分もいいのか」とナナミの頭を撫でながら尋ねる。

「あぁ、遠慮するな」


 リリスは自前の立派な装備を身に着けている。

 購入が必要なのは俺とナナミの分だけだった。


「ナナミはどんな武器がいいんだい」

「……いいんデスか?」遠慮がちに訊いてくる。

「ハヤトがいいと言うんだから大丈夫だ。好きなのを選ぼうか」

「はいデス」と喜びを見せて、武器の並んでいる場所に向かうナナミ。


 さて、自分の武器を選ぼうかと考えてハタと止まる。

 そういえば考えてなかった。

 ゲームだとラインナップを見てから好みで決めるけれど……。

 ここでは、もっと実利に沿って決めないといけないんじゃないか?

 よし、詳しい奴に訊くのも基本だ。


「ハヤト、俺はどんな武器がいいだろうか」


「オーソドックスに片手剣と盾で良いとは思うが……、

 ちなみにユウキには、しっかりと戦闘をさせるからな。

 いくら強制レベリングでも、横で見ていて経験値だけなんて真似はさせないぞ」


「それはもちろんだ。偉そうには言えないが、自分の手で強くなりたいからな」

「まぁ、そう言うだろうなと思っていた」とハヤトが軽く笑う。


「参考に訊くけど、アンヌさんとリリスの武器は何なんだい」

「アンヌは片手剣と盾ですわね。魔法は火魔法。

 竜騎士ですけど、ダンジョンで竜は使えないでしょうね」


 リリスがハヤトに視線を向けて同意を求めると――、

 小さく頷いて「うむ」と返している。


「ワタシは――、

 あまり強くない魔物相手なら、自分の身を守れる程度の棍を使えます。

 神官ですので、刃のついた武器は使わない……使ってはいけないのですわ」


 腰から下げた金属棍を手で押さえながらリリスが答える。


「それから魔法は神聖魔法の他に、火魔法と水魔法、そして氷魔法を使えます。

 特に攻撃魔法は氷魔法が得意です」


 竜騎士のハヤトとアンヌさんは凄いだろうとわかっていたが、

 リリスの魔法のラインナップ、これも凄いんじゃないか。

 そう思ってハヤトを見ると、


「ほう、そこまでできるのなら魔法師としても一流だな」

「お褒め頂きありがとうございます」とエヘンといった感じで胸を張るリリス。


「オレは……竜はアンヌと同じでダンジョンでは使えない。

 武器はサーベル。魔法は風魔法。それとクレアだが、この子は……」


「アタシの武器はこれ」


 ハヤトの肩に乗ったままのクレアが短く答える。

 それからお腹のあたりに手を入れて、どこからか取り出したのは――銃だった。

 幼女の小さな手に合うミニチュアサイズ。

 形状は銃身の短いライフルといった感じ。


 詳しくはないが……、

 銃の真ん中が折れて、そこに弾を込める単発式って奴か?

 俺は驚きの声を上げる。


「銃が……あるのか……?」


 最初に思ったのは――火薬の存在。

 火薬があるのなら大砲ができる。爆弾もできる。戦いが変わる。

 内心の疑問に答えてくれたのはハヤトだった。


「これは火薬式じゃない。火薬はこの世界には無い。

 火薬の精製は出来ないんだ。この世界では」


「火薬……ですか?」リリスが不思議そうな顔をする。初めて聞く言葉のようだ。


「火魔法みたいなもので、オレたちの世界に在ったモノだ」

 とハヤトがリリスの疑問に答える。

「まぁ、そうですの」魔法に置き換えたので、すぐに納得したリリス。


 でも俺の疑問は消えていない。


「だとすると、それは……」

「これは風魔法で弾を発射する銃だ。専用のスキル【銃術】を使って」


「ユウキ様の世界では別の方式ですのね。

 この銃という武器は――、

 使う人は少ないですけど、大抵の人が知っている武器ですわ」


「武器としての危険性は魔法と大差はない。精度と飛距離が突出しているだけだ」

「……あぁ、そうだな」


 そう言われればそうだ。わかりやすく考えれば魔法武器ってところか。

 ゲームでも似たようなのがあったのを思い出す。


 ただ――銃については納得したが……幼女の武器としてはどうなんだ?

 とクレアを見るとさっさと銃をしまって、また俺を睨み付ける。


 まぁ、いい。逃げるように視線を逸らして元の思考に戻る。


 自分の武器を何にするか――。


 ナナミは体術が凄そうだし。

 ハヤトの言った片手剣と盾はアンヌさんと被ってしまう。

 それに今のところ――、

 前衛三人(ハヤト、アンヌ、ナナミ)に後衛二人(リリス、クレア)だもんな。


 それなら俺は――と店内を見渡して目的のモノがあるのを確認。

 そして宣言する。


「武器は槍にしよう」中衛でやっていこう。


「ほお、オレも本当はそれを勧めたかったんだ。

 ある程度強くなるまでは槍で戦いを覚えて欲しかったからな」


「なんだよ、片手剣なんて言ってたくせに」

「すまない。好きな武器を選んで欲しい――、

 その思いが先にあって、ありきたりな助言でお茶を濁したんだ」


「ワタシもユウキ様の武器に槍は賛成です。

 率直に言わせていただければ、リーチに難のあるユウキ様にはピッタリです」


 悪気が有るのか無いのかわからない笑顔で、リリスが俺の弱点を突く。


「率直すぎるよ」


 そうやって俺の武器が決まったところで、ナナミが武器選びから戻ってきた。

 手にしていたのは小型の斧が四本。投擲用みたいだ。


「ナナミ、それがいいのかい」

「はいデス。遠くの敵に投げるデス。近くの敵にも使うデス」


 体術主体なんだけれども、戦いのバリエーションを増やすってことか。

 考えてるなぁ。偉い偉いと頭を撫でる。


 それから俺は槍の並んでいる場所に行って一本の槍を選んだ。

 自分の身長よりも長い槍。

 先端は斬撃と突撃に使える――左右に小さな突起がある――幅広の両刃。


 武器が決まったので、二階に上がって、俺とナナミの防具を選ぶ。

 ナナミは皮鎧と手甲、斧を腰に取り付けるためにベルト。

 俺は金属部分のある軽鎧。


 そこにアンヌさんが到着。

 護衛任務ということで盾を持ってきていなかったらしく――、

 ダンジョンに行くなら、盾が欲しいとハヤトにねだり始めた。


 後でわかるのだが、探索者Aランク相当のアンヌさんが――、

 最高Cランクのダンジョンで盾を必要とする――そこには理由があった。


 三階に上がり、

 購入したのはダンジョン探索に必須な回復薬や解毒薬、そして携帯食料。

 水筒――小さいペットボトルサイズ。魔力を充填すれば水を生み出す優れもの。

 それらをすべて揃えて、腰に付けるバッグに全て入れる。


 ダンジョンによって必要なモノは違うが、

 ここのダンジョンはこれだけあれば十分だそうだ。


 全ての支払いをハヤトに任せ、全員が装備完了。

 俺はジャージにウェストバッグと軽鎧をつけて、両手で槍を持っている姿。


 言っておくが――、

 ジャージと言っても青に白線の奴じゃなく、ゆったりとした黒のジャージで、

 元の世界で街中を歩いてもおかしくない程の――、

 ……と言い訳したところで、上から鎧を着けると違和感が半端ない。


 ハヤトの眼が笑っているのは、可笑しいからなのか、微笑ましいからなのか。

 頬を赤くして上目遣いで「あんまり見るな」と訴える。

 他三名の女性陣にはおおむね好評。クレアは相変わらずキツイ視線。


 そして俺たちは店を後にした。



 ◇ ◆ ◇



 探索組合にもう一度戻る。

 俺とナナミ、リリスの探索者証とクレアの使い魔証を受け取り、

 それからダンジョンの地図を購入。俺の胸は期待ではち切れんばかり。

 ダンジョンマップは否が応にも俺の心を掻き立てる。


 ダンジョンは地下に潜るタイプ。最下層は地下十階まで。

 一階層数時間もあれば踏破できる広さ――魔物との戦闘時間を無視すればだが。


 思っていたのと違ったのは、入ってすぐにある下に向かう階段。

 そこからどの階にでも――直通で地下十階でも――降りられる構造だった。

 当然下層に行くほど魔物は強くなる。

 各フロアボスを攻略してから下の階層に行くのが推奨されているが、

 結局、その辺りは各自の判断に任されているらしい。


 探索組合を出て、いよいよダンジョンへ。


 ダンジョン前の広場にある屋台や露店の間を通り抜けながら、

 注意事項をハヤトから教えてもらう。


「ダンジョン内で、他の探索者に出会った時の対応を伝えておく」


 ナナミとリリスが聞いているのを確認して「教えてくれ」と返事をする。


「魔物との戦闘中でない場合――相手に片手だけでいいから手のひらを見せて、

 パーティ名か自分の名前を名乗り挨拶をする。

 両手で武器を持っていた場合は、敵対意思ありと受け取られるぞ。

 それから必要もないのに、不用意に近づかないようにしてくれ」


 ハヤトの目を見て、しっかりと頷く。


「そして――相手が魔物と戦闘中の場合。

 その時は近づくな。離れた位置から加勢が必要かどうか聞くのはいい。

 相手が加勢してくれと言ったら加勢してもいい。もちろんできる範囲で。

 そのまま見ていても、逃げてもかまわない。

 加勢した場合――倒した魔物の魔石はお前のモノになる」


 ハヤトが眼で「ここまではいいか?」と問い掛ける。

 ナナミとリリスが頷いているので「あぁ」と答える。


「加勢を頼まれていないのに加勢した場合は、倒した魔物の魔石は相手のモノだ。

 あきらめるしかない。相手から敵と思われて攻撃されても文句は言えない。

 勝手に加勢するときは――、

 一言『加勢する』と伝えておけば、もしかしたら攻撃されないかもしれない」


 シビアな話が多いが、全て納得できる話だ。


「相手との対応はオレかアンヌがやるから、

 敵対意思のない身振りだけは実際にやってくれ。頼んだぞ」


「わかった」


 そこまで話が終わると、もうダンジョンの入口の前まで来ていた。

 半分地下に潜る形で下り坂を進む先にある大きな洞穴。

 その手前にある小屋をハヤトが指差す、


「あれがダンジョンの受付所だ。探索組合のダンジョン前出張所ともいう。

 そこでパーティ名と人数を申告すればダンジョンに入れるぞ」


 ハヤトが受付で手続きをしている間、俺の眼はダンジョンの奥に釘づけだった。


「それじゃあ、行くか」「……行く」「よし、行こう」「ワクワクしますわ」

「ユウキを守るデス」


「……」ひとり俺だけ声が出ない。どうにか頷いて意志を示す。


 そしていよいよ最初の一歩――ダンジョンの地面を踏みしめる。

 ようやく異世界のダンジョンを、この身で体験したのだった。



 第12話、お読みいただき有り難うございます。

 次回は――ダンジョンで初めての戦闘です。


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