第11話:探索者の登録
翌朝――、
みんなで朝食を摂ってから、早速町に出かける。
ちなみに、姿を見せなくなっていた女性給仕さんは今朝は普通に現れて、
宿から出る時にハヤトに媚を売っていた。肩車されたクレアにも笑顔を向けて。
ふと見ると、アンヌさんが親指を立てて得意げな顔で俺を見ている。
昨日言ってた段取りとか布石とかに関係しているのだろうけど――、
俺にはあまり関係ない。
ナナミはまだ眠そうに歩いているが――、
俺は今日のダンジョン探索への期待で心を躍らせていた。
町を歩く足取りも軽い。
昨日の町の門から宿屋までの道を、さらに先に進むように歩いている。
道幅も広く朝だと言うのに人通りも多い。
三階建てから五階建てまでの、一階が店舗になっている建物が立ち並ぶ。
「まずはダンジョン探索組合に行くぞ」とクレアを肩車したままハヤトが言う。
ダンジョン探索組合――新しい単語だ。でも想像はつく。
「それって冒険者ギルドみたいな組織なのか?」
「そうだ、ダンジョンを探索するには、そこに登録しなければならない。
この中で登録済みなのは、オレとアンヌだけか?」
「ボクはCランクで止まっているけど登録済み。リリス様は未登録」
「探索者のランクって奴か」
「あぁ、オレはBランク。本来の用途は――受託できる依頼の条件に使われる」
ハヤトの話では、ダンジョンの到達階数でランクが決まるそうだ。
厳密にいうと、所属している(していた)パーティのランク。
個人登録情報にも記録されるので、探索者の実力を見る目安になる。
初心者パーティはEランクから。
一般的にはダンジョン十階制覇でDランクになるのだが、
この町のダンジョンは最下層が十階で、
五階攻略でDランク、十階を攻略するとCランクと決まっている。
ダンジョン探索者の実力を測るランクだが、
それ以外でも一般の戦闘能力や魔物の強さの説明に使われる場合も多い。
「アンヌさん……Cランクで止まっているってどういうことですか」
「ボクは竜騎士なんで、ダンジョン攻略はもうしていないんだ。
今は――人の住む場所に大量発生した、魔物の討伐が本職になってるからね」
「アンヌは実力で言えば、Aランクくらいじゃないか」
「ハヤトもそうだろう。そのくらいでないと竜騎士と名乗れないよね」
「ワタシはダンジョン探索は初心者ですが――、
魔物討伐には、神聖魔法使いとして何度も参加していますわ」
当然といった顔のリリス。神聖魔法というと回復系とか不死特効かな。
昨日とは違って、動きやすそうな服を着ている。
ダンジョン探索するために服を選んだのだろう。
「ここのダンジョン探索なら、リリス様の実力はまったく問題ないよ」
アンヌさんもリリスの実力に太鼓判を押す。
俺のパーカーを着ているネコミミ少女にも聞いてみる。
「ナナミは探索者登録してる?」
「……? してないデス」わかってない顔で答えるナナミ。
「そういえばナナミも登録できるのか? 猫人族だけど」とハヤトに尋ねる。
「あぁ、大丈夫だ。人族以外でも登録できる。魔族以外ならな」
「魔族がダメって……そうすると、クレアが登録できないじゃないか」
「クレアは、オレの使い魔として登録するつもりだ」
「そうなのか」ハヤトのいう使い魔も何となくわかる。
アンヌさんがまたまた得意そうな顔で「やっぱり使い魔だよね」と頷いている。
「ナナミ、探索者登録をするかい? ダンジョンに入るには必要なんだって」
「……するデス」眠い目をこすりながら返事をするナナミの頭を撫でる。
されるがままのナナミ。ちゃんと話を聞いていたかが心配だ。
「昨日のあの男はCランクだって聞いたけれど、
そうするとナナミは――実力で言えばそれ以上なんだな」
答えてくれたのはアンヌさん。
「あぁ、そうだろうね。
昨日のあの動きなら、Bランクといってもおかしくない。
猫人族の大人でも、あれだけの動きはできないよね。凄かったよ。
それと――、
リリス様もCランクはいける。うん、やっぱりユウキ君を鍛えないとね」
「ぐっ……。俺が一番貧弱坊やなのか」
なんだか悔しいが仕方がない。みんなから視線を逸らし、ひとりで愚痴る。
と……、そこで気づいたが、この集団物凄く注目を浴びている。
特に女性に。……ハヤト目当てか。
「ハヤトって……なんで、この町でこんなに有名人なんだ?」
「それは、ボクが答えよう」と横から口をはさむアンヌさん。
ハヤトは片眉を少し上げて「まぁ、いいだろう」という雰囲気で答える。
そういうのって、自分で説明しづらいからな。
アンヌさんが説明を始める。
「ここのダンジョンのラスボスは――、
何種類かランダムで現れるんだけど……、決まって竜なんだよ」
ラスボス、やっぱりいるんだ。フロアごとの中ボスもいるのだろうか。
「で、ハヤトがラスボスを倒したら、
起き上がって仲間になりたそうに見てきたんで――そのまま仲間にした。
そこで疾風の竜騎士さまの誕生だ」と見ていたように説明するアンヌさん。
「へぇ、そうなんですか」ゲームの仲間モンスターみたいだ。
「ユウキ君が知らないのは当然だけど、
ダンジョンの竜が仲間になるのは、世界で初めてだったんだ。
ボクもそうだけど、普通は――、
竜騎士の竜は竜の谷とかで出会って、そこで時間をかけて仲間にする。
それが、ダンジョンのラスボス――、
実力がある探索者なら必ず出会える場所、そこで竜を仲間にできるとなれば、
竜騎士を志す人間にとって、これほどの朗報は無い。
こぞって、この町に集まって――、
しばらくは、ここのダンジョンは入場制限がかかるほどになった。
結局、その後は誰一人竜を仲間にできなかったんで、
今はやっと落ち着いてきたけれど……。
その発端となった人物。この町の人間なら誰でも知っていておかしくない。
……そして、その男が女性にモテるとなればなおさらね」
「最後の説明は必要ないだろう、アンヌ」
と、ハヤトが咎めるように言う。
それに対して、むきになって反論を始めるアンヌさん。
「なんでだい。ハヤトはボクにもっと感謝してもらわないと。
今君がこの町を普通に歩けているのは、ボクのお陰なんだからな。
ボクはすでに世界を救っていると言っても過言じゃないんだ。
君がいま肩車している幼女。
クレアの姿を見て、町の女の子たちがパニックになっていない理由。
昨日あれから、ほぼハヤト陣営に独占されてボクの手駒が少ないこの町で、
本当に苦労して『クレアは魔族でハヤトの子供じゃない、使い魔なんだ』って、
噂を流さなかったら、ハヤト陣営がものすごい勢いで周りを巻き込んで、
そう自滅憑依体のように崩壊を始めていたかもしれないっていうのに――」
「わかった、わかった」やれやれと言った表情でアンヌさんの言葉を遮るハヤト。
「それで昨晩は部屋を抜け出ていたんですね、ワタシの護衛を忘れて」
「それは、……世界の危機が……救う……」
リリスに怒られて、アンヌさんがもごもご言い訳をする。
俺とナナミは軽く聞き流して歩みを進める。
「そういえば、ハヤトとアンヌさんの竜はどうしているんだ?」
「オレの竜は町の外で適当に遊んでいるな。
離れていても様子がわかるくらいにはリンクしている。スキルのお陰でな」
「ボクの竜も同じさ。人には見つからないようにね。
竜騎士の竜は賢いから、人を驚かせたりしないように考えて行動が出来るんだ。
まぁ、この町ではハヤトのお陰で怖がる人は少ないんだけどね」
と早くも立ち直ったアンヌさん。
そんな会話をしている内に探索組合に到着した。
通りに面して建っている、五階建てのレンガ造りの大きな建物。
なおも続く道の先を見ると、
そこには大きな広場があって、屋台や露店が所狭しと並んでいる。
さらに先に視線を移すと――、
小高い山があって、麓の垂直に近い斜面に大きな穴が――。
「あれが……、あれがダンジョンの……入口か……?」
つい口からこぼれたように呟くと、ハヤトが答えてくれた。
「そうだ、この町はダンジョンと共にある。
悪いが、感動するのは後回しだ。
先に用事を済ませないと、ダンジョンに入る時間が遅れるだけだぞ」
「そ……そうだな」
まだ心が落ち着かないが、それを押して建物の中へ。
大きな両開きの玄関扉を開けると、その場にいた人間から視線が集中する。
「ちっ……ハヤトがまた女をあんなに連れてきていやがる」
そこにいた男のつぶやきが耳に入る。
はからずも、その言葉が浮ついた俺の気持ちを冷静にさせた。
――おーい、ここにいるのは男だぞぉ。
俺の心の声は届かない。
中はかなり広く、その造りは銀行か役所を思わせる。
待合席に座っているのは数十人の男女――但し九割が男。
俺たちは半分以上が女性のグループ。目立つのは仕方がない。
その先には受付が五ヶ所あり、その奥で職員が座って作業をしている。
「あっ、ハヤト様、使い魔を! 肩車して! 今日はどのような御用件ですか」
受付の女性がわざとらしく、いくつかの単語を強調して声をかけてくる。
アンヌさんが親指を立てて「グッド」と片目をつぶって合図を送っている。
数少ないアンヌさん陣営の女性のようだ。
その声に答えるハヤト。
「新人探索者の登録と、オレの使い魔の登録、そしてパーティ申請だ」
俺とナナミ、そしてリリスの探索者登録の手続き。
品行方正な探索者の保証人がいれば、かなり簡単に登録できるそうだ。
俺とナナミにはハヤト、リリスにはアンヌさんが保証人になった。
それから名前を伝えて、紙に手の形を写して、あっさりと申請は完了。
ハヤトはクレアの使い魔申請と、全員のパーティ申請を済ませる。
パーティ名は「勇敢な瞳」とハヤトが決めた。
俺は反対したかったけれど、他にいい案も浮かばなかったし、
誰も反対しなかったので、そのまま決定してしまった。
「それにしても凄いパーティですね」と受付の女性。
アンヌ派だから、リリスのことも知っているのだろう。
疾風の竜騎士、爆炎の竜騎士、王女様で神官。それだけでも凄い。
それにCンク探索者に圧勝する猫人族と、使い魔の幼女。
昨日この世界に来たばかりの俺でも、凄さがわかるくらいだからな。
「手続きには少しだけ時間がかかる。その間に武器と防具を手に入れるぞ」
ハヤトが時間を惜しんで、次の用事に向かって歩き出す。
そうだった。武器と防具の購入。新人探索者の必須のイベントだ。
探索組合の建物から出ようとすると、受付の女性がアンヌさんを呼び止める。
「アンヌ様、手続きのことで少しお話が……」
アンヌさんは「わかった」と言って、
「ハヤト、すまない。リリス様をお願いしていいかい」
ためらうことなく「あぁ」と了承するハヤト。
リリスも「先に行ってますわ」とアンヌさんに告げる。
ハヤトの態度の変化で何かがあったと知る。伊達に長年付き合っていない。
あれは――、
真剣になったのを悟られないように、わざと素っ気なくしている。
けれど、今の俺は皆から守られる身。あまり口出しはしないようにしよう。
ナナミも雰囲気が変わったのに気づいたようだが、気にしていない振りをする。
そのままアンヌさんを残して、俺たちは探索組合を後にする。
さぁ、装備を整えよう。
第11話、お読みいただき有り難うございます。
次回は――装備を整えて、いざダンジョンへ。
※『自作ダンジョンで最終ボスやってます!【動く挿絵付き】』
第二章が完結しました。こちらもよろしくお願いいたします。
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※11月4日 後書き欄を修正




