神父と悪魔編 25
コトン、とちゃぶ台と呼ばれるテーブルの上に、湯飲みと呼ばれるコップに緑茶が注がれたのが置かれる。
「念のために申しておきまするが、これからのお話が、猊下のお役に立つかどうかはわかりませぬ。しかし、旧来の友であるサタナキアのため、お話申し上げる次第です」
壷中天は実に丁寧な言葉を話している。
古ラテン語ということで、どうにか私も分かる。
ここからは壷中天の話の要約とする。
平治の乱が終わり一息ついたころ。
京の都は闇に覆われた。
その時には、二条天皇と呼ばれる方の治世だったという。
闇は普通の夜という形ではなく、何やら妖怪か魑魅魍魎の類によって闇となったとされた。
陰陽師らがその祓いの儀式を行ったそうだが、効果がなかった。
その陰陽師らに接触したのは、従一位行右大臣郁芳義貞と呼ばれる公家だった。
彼は郁芳流と呼ばれる陰陽道を利用しており、その力によって日々の政務を決めていたとされている。
蛇足ではあるが、手野市のもととなった手野家、さらにはその本家となっている砂賀家のそれぞれの親に当たるらしい。
その郁芳義貞が行ったのが闔祓いと呼ばれる儀式であった。
郁芳家の当主のみが行うことができるもので、その儀式は謎に包まれている。
その闇を作り出したのが目の前にいる壷中天で、それ以後、朝廷から追われ続け、ついに捕まり、壺に封印されたという。
壷中天という名前はその時に、捕まえた本人から名づけられたという。
これを名縛りと呼ぶそうだ。
「……而して、我は今、ここに存在するのであります。闇をも祓う、そのような儀式は、この地を清め、負けを認めざるを得ない状況へと、我を追い込んだ。何れの道であれど、我は遠からず捕まってはおっただろう。後には処刑か、あるいは流刑か。然しながら我はここに在る」
それは間違いないだろう。
「ありがとうございました」
何か引っかかる。
それだけしかわからない。
何か腑に落ちないという顔でも私がしていたのか、サタナキアが私に話しかけてきた。
「どうかしたのか」
「あ、いや。あの詩を思い出そうとしてな……」
「諳んじれるぞ。最初は『感情なる者。悪魔と天使は踊る。日が昇りし土地は、清められた』だったな」
「それは人間と悪魔と天使ということなのだろうな。人間と悪魔はいるが、天使はどこだ」
私が考えつついると、サタナキアが関係がありそうな一節を教えてくれる。
「『敗けたる者。かの土地へ向かい、正義の敗北を受け入れた』。というのはどうだ」
「壷中天、それが一番近そうだな。もっとも、正義の敗北というのが意味が分からないが」
「ま、神様の考えなんて、俺らにはわからんがな」
サタナキアがあきらめたように言った。




