38話:魔王様の帰還! 強いのに、家族にはデレデレ!?
その日の夕方。
魔王城の正門が、いつもより慌ただしくなっていた。
「魔王様がお戻りになられます!」
城内に、そんな声が響く。
「えっ、魔王様!?」
私は思わず顔を上げた。
ルミナちゃんも耳をぴくっと動かす。
「父上が帰ってくるのか!」
「はい。長い遠征に出ておられましたから」
ロザリアさんは嬉しそうに微笑んでいた。
「まあ……もうお帰りになる頃でしたのね〜」
(ついに魔王様登場!?)
私は少し緊張しながら、ルミナちゃんたちと一緒に正門へ向かった。
やがて、遠くから大きな馬車が見えてくる。
その周囲には、何人もの護衛の魔族たち。
そして馬車から降りてきたのは――。
長身で、堂々とした体格。
黒い外套をまとい、鋭い目つきをした男性だった。
立っているだけで、周囲の空気が変わる。
近くにいた魔族たちは、自然と背筋を伸ばしていた。
(うわ……。めちゃくちゃ強そう……)
その男性が、ゆっくりと城門を見上げる。
「……戻ったぞ」
低く、よく通る声。
ただそれだけなのに、地面まで震えたような気がした。
「お帰りなさいませ、魔王様!」
護衛たちが一斉に頭を下げる。
しかし――。
魔王様は、ロザリアさんの姿を見つけた瞬間、表情を変えた。
「ロザリア!」
先ほどまでの威厳が、どこかへ消えた。
「おお、我が愛しの妻よ! 元気だったか!?」
「まあ、お帰りない〜貴方」
ロザリアさんが微笑むと、魔王様は嬉しそうに駆け寄った。
「会いたかったぞ!」
「私もお待ちしておりましたわ〜」
「本当か!? 寂しくなかったか? 食事はちゃんと取ったか? 眠れていたか?」
「ええ、すべて問題ありませんわ〜」
「そうか! さすがロザリア!」
(えっ……)
(さっきまでの威厳はどこに!?)
周囲の魔族たちは、慣れた様子で見守っている。
どうやら、いつものことらしい。
すると魔王様は、ルミナちゃんを見つけた。
「……ルミナ!」
「父上!」
ルミナが駆け寄る。
次の瞬間――。
魔王様はルミナをひょいっと抱き上げた。
「我が娘よ! 大きくなったなぁ!」
「父上、子供扱いするでない!」
「何を言う! お前はいつまでも私の可愛い娘だ!」
「妾はもう立派な魔族じゃ!」
「そうかそうか! 立派になったな! 可愛いぞ!」
「話を聞いておるのか!?」
魔王様はルミナちゃんを抱いたまま、頬を緩ませている。
(デレデレだ……)
(ものすごく強そうなのに、娘には完全に甘いお父さんだ……!)
ルミナちゃんはじたばたしているが、本気で嫌がっているわけではなさそうだった。
「父上、降ろすのじゃ!」
「もう少しだけ!」
「もう十分じゃ!」
「では、もう一度だけ抱きしめておこう!」
「増えておるのじゃ!」
ロザリアさんも楽しそうに笑っている。
「お父様、ルミナが困っていますわ」
「む……そうか。すまんな、ルミナ」
そう言いながら、魔王様はようやくルミナちゃんを降ろした。
しかし、すぐにルミナちゃんの頭を撫でる。
「元気そうで何よりだ」
「……うむ」
ルミナちゃんは少し照れながら答えた。
そのとき、魔王様の視線が私へ向いた。
「ところで、そちらの女性は?」
「初めまして。美桜と申します」
私は慌てて頭を下げた。
「異世界から召喚された方ですのよ」
ロザリアさんが説明する。
「ほう。異世界人か」
魔王様は私をじっと見つめた。
鋭い視線に、私は思わず背筋を伸ばす。
(こ、怖い……!)
しかし次の瞬間。
「ルミナの友人か?」
「えっと……はい!」
「そうか!」
魔王様は突然、にこっと笑った。
「ならば歓迎しよう! 娘と仲良くしてくれているのだな!」
「は、はい!」
「ルミナは昔から人見知りなところがあるからな。仲良くしてくれる者がいるのは嬉しい!」
「父上、余計なことを言うでないのじゃ!」
「照れるな照れるな!」
「照れておらぬのじゃ!」
魔王様は私の肩をぽんと叩いた。
「これからも娘をよろしく頼む!」
「もちろんです!」
「それと、妻のこともよろしく頼むぞ!」
「えっ?」
「ロザリアは美しいだろう? 優しいだろう? 素晴らしいだろう?」
「はい! とても素敵な方です!」
「そうだろう!?」
魔王様は満面の笑みを浮かべた。
「私の妻は世界一なのだ!」
「まあ、貴方ったら……」
ロザリアが少し頬を赤くする。
「人前でそのようなことを……」
「事実を言っているだけだ!」
(奥様にもデレデレだ……!)
しかし、そんな和やかな空気の中。
突然、城門の外から大きな轟音が響いた。
ドォンッ!
地面が揺れる。
護衛の魔族たちが一斉に振り返った。
「魔王様! 外に魔物の群れが!」
「数は!?」
「大型が十体以上! こちらへ接近しています!」
魔王様の表情が、一瞬で変わった。
先ほどまでの柔らかな笑顔が消え、鋭い眼差しへ戻る。
「……そうか」
低い声が響く。
「家族が帰還を喜んでいる最中に、無粋な客だな」
魔王様はゆっくりと城門の外へ歩いていく。
ルミナちゃんが目を輝かせた。
「父上が戦うのか!?」
「危険です! ルミナ様はお下がりください!」
護衛が慌てて止める。
魔王様は外套を脱ぎ、片手を前へ伸ばした。
「下がっていろ」
魔力が、周囲に広がる。
空気が重くなる。
地面に魔法陣が浮かび上がった。
(な、何これ……!?)
魔物たちが咆哮を上げ、一斉に突進してくる。
しかし――。
魔王様が指を軽く鳴らした。
パチンッ。
その瞬間、地面から巨大な黒い鎖が伸び、魔物たちの体を一瞬で拘束した。
「動くな」
たった一言。
それだけで、魔物たちは身動きひとつ取れなくなった。
さらに魔王様が手を握ると、魔物たちは次々と魔力の光に包まれ、その場に崩れ落ちた。
戦いは、わずか数秒で終わった。
「…………」
私は言葉を失った。
(強っ……!)
(何あの魔法!?)
(さっきまで娘にデレデレしてた人と同じ人物!?)
魔王様は何事もなかったかのように外套を羽織り直し、こちらへ戻ってくる。
「片付いたのじゃ!」
ルミナちゃんが誇らしそうに胸を張った。
「どうじゃ! 父上は強いであろう!」
「はい……! すごすぎます!」
「そうだろう、そうだろう!」
魔王様は再びデレデレの笑顔に戻った。
そしてルミナちゃんの頭を撫でる。
「だが、私が一番守りたいのはお前たち家族だ」
ロザリアさんが優しく微笑む。
「お帰りなさい、貴方」
「ただいま、ロザリア」
魔王様は妻と娘を見つめ、満足そうに頷いた。
(強くて、怖くて、でも家族には甘々……)
私は心の中でそっと思った。
(魔王様、ギャップがすごすぎます……!)
作者コメント
見てくださりありかとうございます!
作者から何もないのですが…読んでくれただけでも嬉しいです




