第五章 幼女ギルドに赴く(なお、物理で解決する模様)
ポチをペットにしてから数ヶ月。大公爵邸のプリンを食い尽くす勢いで成長(?)していた私は、ある重大な事実に気づいてしまった。
「おそと……お仕事のにおいがする」
そう、ヴァルトシュタイン公爵家には、日々世界中から「魔獣被害」や「お家騒動」の陳情書が届く。私が部屋でポチをモフり倒している横で、父(公爵)やメイドのアンナが徹夜で書類仕事をしているのだ。
元社畜の防衛本能が告げていた。**「このままだと、大きくなった時に確実に激務の後継ぎにされる」**と。
(今のうちに『私は戦いしかできない無能な脳筋幼児です』とアピールして、将来のデスクワークを完全回避しなければ……!)
そこで私は、アンナに『おねだり(絶対遵守)』をかまし、お忍びで冒険者ギルドへとやってきた。目的はギルドカードの登録である。
当然、私の両腕には、ピンクの歪んだ首輪をつけた黒猫(魔王ポチ)が、周囲をギロギロと黄金の瞳で睨みつけながら収まっている。
「おいおい、なんだぁ? 迷子のお嬢ちゃんか?」
「公爵家のお人形が、ママのおままごとの続きかよぉ!」
ギルドのドアを開けた瞬間、お約束のように酒臭いむさ苦しい冒険者たちが絡んできた。
前世の満員電車に比べれば大したことない圧だが、私の腕の中で、ポチの全身の毛が逆立った。
(不敬な有象無象どもめ……我が主様に向けたその汚らわしい視線、魂ごとミンチにしてくれるわ!)
「ポチ、めっ。りあ、おはなしするの」
私がポチの頭をぽんぽんと叩いて宥めると、魔王は「きゅ〜ん(理不尽な悦び)」と鳴いて大人しくなる。
私は受付の厳ついおじさんの前に行き、精一杯の幼女ボイスで言った。
「おじちゃん、りあ、ぼうけんしゃさんになりたいの!」
「はあ? 冗談じゃねえぞお嬢ちゃん、ここは芋虫一匹殺せないガキが来るところじゃ――」
その時、ギルドの掲示板の裏から、地響きと共に**「暴走鉄甲イノシシ(アイアン・ボア)」**が乱入してきた。どうやら生け捕りクエストの個体が暴れたらしい。
鋼鉄の皮膚を持つ巨体が、一直線に私へと向かって突進してくる。
「危ねぇ! 避けろガキ――!」
冒険者たちが悲鳴を上げる。だが、私は避けない。なぜなら、足が短くて動けないからだ。
そして、私の第ニのスキルが火を噴いた。
【幼女スキル:よちよちあるき(天変地異)】
あなたが危機に陥るか、体勢を崩した瞬間、周囲の環境が強制的に歪み、「あなたが絶対に無傷で済む」ように世界が勝手に大掃除を行う。
私がイノシシの突進の風圧で「おっとっと」と一歩よろめいた、その瞬間。
ブチィィィィシィッ!!!(肉の弾ける音)
「……ぶひゅ?」
イノシシは私に激突するよりも遥か手前、空間そのものが「雑巾のように雑に雑にねじ切られた歪み」に巻き込まれ、文字通り一瞬でミンチ状の肉塊へと超圧縮された。
血飛沫の一滴すら、私のカンスト魔力の障壁に阻まれて届かない。
結果として、私はふかふかに変形した床の上に、ドレスを揺らしてペタンと座り込んだだけだった。
ギルド内が、静まり返る。
さっきまで煽ってきた冒険者たちが、あまりのバイオレンスな光景に白目を剥いて泡を吹いていた。
「うにゅ? イノシシさん、消えちゃった」
「……主様。今のは歩行ですらなく、ただの重心移動ですよね? それでAランク魔獣が原子レベルで圧壊したのですが」
ポチがガタガタと震えながらツッコミを入れる。
私は受付の固まっているおじさんに、アメジスト色の瞳をうるうるさせて『おねだり』を使った。
「おじちゃん、りあ、カードほしいな……? だめ……?」
「ヒィッ!? い、今すぐSランクで登録させていただきますぅぅぅ!!」
こうして、私は一歩も戦うことなく、ギルドの歴史上最凶の「粉砕幼女」として裏社会に名を轟かせることになった。将来のデスクワーク回避計画は順調(?)である。




