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老エルフ吟遊詩人の語った物語  作者: まろんねこ


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3.セシリア・アルデリア孤児院にて

セシリア・アルデリアは5歳まで育った孤児院へ向かいます。

孤児院で初めて”慈悲と慈愛”の力を使うシーンがでてきます。

魔力を持ったために大聖堂で暮らすことになったセシリア。

院長が年老いたことに驚きを隠せません。

大聖堂の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。


重厚な音とともに、光の洪水が目を埋めつくす。


まぶしい。


思わず目を細める。


これまで修行中何度も窓越しに見てきたはずの外の景色なのに――

今日だけは、まるで違って見えた。


「行きなさい、セシリア」


背後から静かな声が届く。


振り返ると、見送りに立つ神官たちがいた。


「はい」


胸の前で杖を抱きしめ、深く一礼する。


そして――

一歩、踏み出した。


石段の一段一段を確かめるように降りる。


その瞬間、今度は音の洪水が、耳へと押し寄せてきた。


「新鮮な果実だよ! 甘いよ甘いよ!」


「鉄鍋はどうだ! 長持ちするぞ!」


「パン焼きたてだ!」


市場飛び交う呼び込みの声。

石畳を進む荷馬車の車輪の軋み。

聞いたことのない言葉で話す声は巡礼の人々。

まだ幼い子ども達の高く姦しい笑い声。


それらが一斉に耳へ飛び込んでくる。


セシリアは思わず立ち止まった。


「すごい……」


大聖堂の外。


そこは、思っていたよりもずっと――


賑やかで明るさに満ちていた。


目の前に広がる白い石畳の放射路。

露店がびっしり並び香ばしい匂いが漂っている。


火で炙られ焦げの付いた肉。

鮮やかな色で日差しに光る果実達。

甘い香りを振りまく可愛らしい菓子。


お腹が、きゅるりと鳴った。


「……」


慌てて周囲を見回す。


誰も聞いていない。


胸をなでおろした。


歩き出す。


白い法衣が、人の流れの中でひときわ目立つ。


「神官様だ」


誰かが言う声が聞こえた。


「ありがたい」


「お祈りを……」


人々が道を開け柔らかで暖かな眼差しを向ける。


その視線に、セシリアは慌てて頭を下げた。


「い、いえ……ま、まだ……、見習いなので……」


声は小さい。


だが人々は優しく笑った。


「それでも神官様だ」


「旅立ちかい?」


「気を付けてな」


温かい言葉が、次々と向けられる。


胸の奥がじんわりと熱くなる。


(わたし……)


杖をぎゅっと握る。


(早く皆様のお役に立たないと)


朝日の輝く空を見上げた。


吸い込まれそうな青い空。


背後では、大聖堂の尖塔が空へと高く伸びている。

まるで見守ってくれているようだった。


(今日から……神官としての旅が始まるんだ)


少しだけ不安もあったけれど、


幼い日を過ごした孤児院を思い出し、

微笑を浮かべ歩み始めた。


石畳の通りを曲がると町の喧騒が静かになる。

奥まった先には鈴懸の木々が枝葉を広げている。

強い日差しは和らげられ、日よけとなって陰を落としていた。


そして目当ての、見慣れた古い木の門が見えた。


少し曲がった小さな看板。

色あせ掠れた文字もそのまま。

『ペラーデの家』


「……あ」


セシリアは足を止めた。


目的の孤児院だった。


「……神官様?」


門の前で地べたに木の枝で何やら描いていた小さな男の子が立ち上がる。

こちらをじっと見つめ不思議そうに首をかしげた。


「院長先生はいらっしゃいますか?」

「……」

「ミリアが来たとお伝えください」


はじかれたように男の子は門の中へ消えてゆく。


待つことしばし、


「こらこら、お前たち押すんじゃない」

しわがれた声と共に奥の扉が開き、院長が姿を現した。


ぼさぼさで白髪混じりだった髭はすっかり白くなっている。

いつも何事かを思い悩んで刻まれた皺はより深くなっている。


だが、その目は昔と同じ今日の空のように青かった。

遠目に目を凝らす老人。

次の瞬間。


「……ミリアか?」


「はい、ペラーデ院長様」


院長は左足を引きずりながら近づいてきた。


(……足を?)


セシリアの胸がちくりと傷んだ。


「お久しぶりです。あ、あの……、おみ足はいつから?」

「もう3年になる。雨漏りを直そうとしてな……、もう無理はきかぬなぁ」


そう言いながら、院長はセシリアをまじまじと見つめた。


「そうか……、無事神官になったのだな」


「はい。今日17歳になり、神官となりました。見習いですが……」

「見習いでも神官ではないか。もっと胸をはりなさい」

「ありがとうございます。一言お礼を申し上げたくて、一番に参りました」

「それは、それは、どれ、顔をもっと良く見せておくれ……」


手を伸ばしセシリアの頬に触れる皹切れた節くれだった指先。


我慢していたのに院長の顔が不意に滲む。


「立派になったなぁ……、ミリア」


「今はセシリアという名を頂きました」

「……」

「ミリア改めセシリア・アルデリアと申します」

「そうか、……神様は、お前をちゃんと見ていてくださったのだな」」


頷く目の前の人が、門前に赤子で捨てられていた私に、

ミリアと言う名と、ミルクと、寝る場所を与えてくれた。


その日から五年間。


私はここで育った。


セシリアは院長の足元を見た。


左足はまだ引きずられている。


セシリアはそっと跪いた。


「少しだけ……失礼します」


小さく祈りの言葉を唱える。


「神の慈悲を汝に……"治癒"」


ほのかな光が、院長の足を包んだ。


「……これは」


院長がゆっくりと足を動かす。


「い……痛みが……、消えている!」


「私の力では治しきれませんでした」


「いやいや、ありがとう。ありがとう。これぞ奇跡の力」


遠巻きに見ていた子供たちが一斉に駆け寄ってきた。


「神官様ぁ~」

「神官様ぁ~」


「セシで良いわ。セシと呼んでください」


「セシ様ぁ~ありがとう」

「セシ様ぁ~ありがとう」


子供たちの声が鈴懸に吸い込まれていった。


「これは、些少ですが、焼き立てのパンを皆さんに」


リュックから焼き立てのパンを取り出す。


まだ温かく、香ばしい匂いが広がった。


「なんと、こんなにたくさん。良いのか?」


「今はこれくらいしかお礼できません」


頬を赤くしながら恥じらう。


「御礼申し上げます。神官セシリア様」


口調を改め院長が語り掛ける。


「どうかセシリア様の道行に神のご加護がありますように」

「神のご加護がありますように」


子供たちが続ける。


たくさんの感謝の声に見送られ、セシリアは孤児院を後にした。

ゆるゆると書き始めました。

お目にとめていただきありがとうございます。

良かった、悪かった、何らかの反応をいただければ幸いです。

AIではないので遅筆です。

とりあえず書き進めた分をひとつずつ投稿していきます。

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