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老エルフ吟遊詩人の語った物語  作者: まろんねこ


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2.セシリア・アルデリアの旅立ち

もう一人の主人公セシリア・アルデリアが見習い神官に任命されます。

しばらくはこの子がメインで物語が進んでいきます。

アルデリア教皇国の朝は、鐘の音から始まる。


白亜の都の中心にそびえ立つ大聖堂。

その尖塔から第一打が、夜の名残を払い落とすように響き、

まだ冷たい石造りの街路を震わせる。


音は放射状の都市に広がり、隅々へと滲み渡り、

そして青い空へと抜けてゆく。


賑やかな市場のざわめきも、荷馬車の嘶きも、目を覚ましてはいない。


今はまだ、祈りの時間。



高窓から差し込む朝の光が、大聖堂の白い石床に細い帯を落としている。

法衣の衣擦れだけが柔らかく重なり、左右に広がる廊下から姿を現す神官達。


朝の祈りが始まるのだ。


その列のなかに、一人の見習い神官がいた。


セシリア・アルデリア。


今日、十七の誕生日を迎える。


そして――正式な神官となる日。

「神官になったら……たくさん、お役に立たないと……」


小さく息を整える。

心の中で、そっと拳を握った。


――そのとき。


周囲の神官たちの視線が、自分へ向けられている気がした。


慌てて頭を垂れ、法衣の袖を揃える。


ステンドグラスに朝日が砕け、祭壇を七色に染め上げる。


その光の中を――白が進む。


静まり返った聖堂に、ただ足音だけが響く。


沈黙を破る声が響いた。


「――ミラクレア・アルデリア・イシス御成り」


純白の法衣。

高く掲げられた法冠。


教皇が、祭壇へと歩みを進めていた。


深く下げた視界の端に、祭壇へと進む影だけが映る。

顔を上げることは許されない。



影が止まる。


柔らかく、しかし凛とした声が、大聖堂の隅々まで届いた。


「おはよう我が教義の(しもべたち。表を上げよ」


逆光の中に煌めく慈悲と慈愛の象徴。

あぁ、なんて神々しい輝き。


そこに立っていたのは、ミラクレア・アルデリア・イシス。



「祈りましょう」


低く、穏やかな祈りの声が聖堂に満ちていく。

一つひとつは小さな声。

けれど重なり合い、やがて大きな流れとなって、セシリアの身体を包み込んだ。


ひとりではない。

そう告げられているようだった。


自分も唱和する。


祈りは波となり、大聖堂を満たす。

やがて窓から外へと流れ出し、街路を、家々を、静かに満たしていく。


厳かで身が奮い立つような至福の時間が過ぎてゆく。




祈りが終わった。


大聖堂に静寂が訪れる。




「セシリア・アルデリア」


反射的に「はい」と返事をしてしまいそうになる。

ここは訓練場ではない、と慌てて唇を噛む。


溶けてしまいそうな笑顔で教皇が続ける。


「こちらへ」


声に導かれるように祭壇へと進む。


教えられた通り教皇の右側に回り(かしず)く。


白い法衣の裾が、石床に静かに広がる。

冷たさが、膝越しに伝わる。


女教皇――

ミラクレア・アルデリア・イシスが、ゆるやかに手を差し伸べる。



「私の目を見て……」


柔らかな声。


顔を上げると、吸い込まれそうな青い瞳に、自分の姿が映っていた。


逆光の中、差し伸べられた白い手。


指先が、額に触れる。


ひやりとするかと思った。


だが――違った。


春先の水のような、やさしい温もり。


ゆっくりと、指先が動く。


何かを“刻む”のではない。


なぞる。


描く。


祈りを、置いていくように。


淡い光が、指の軌跡を追って浮かび上がる。


複雑で、それでいて調和の取れた文様。


「汝に癒やしを」


最後の一画が結ばれた瞬間。


胸の奥で、何かが静かにほどけた。


「汝に清浄を」


視界が澄む。


空気が、澄む。


世界が、ほんのわずかに鮮明になる。


(これが聖魔法……)


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


(わたしも……誰かを救えるんだ)


教皇は、ほんのわずかに微笑んだ。



近くに控えていた大司教イグナスが、

小さく切った指を差し出す。


「祈りなさい」


セシが戸惑いながら唱える。


「神の慈悲を汝に……"治癒"」


ほとんど見えないような光が切れた指を覆う。


光が消え……、血は止まり、

傷が、ゆっくりと消える。


ざわめきは起きない。


ただ――


温かな安堵の空気が、大聖堂に満ちていく。



儀式は恙なく終わった。


参列していた神官たちが、静かに列を崩し去ってゆく。


その中で、大司教イグナスが歩み寄った。


若いながら威厳のある穏やかな眼差しが、セシリアを見下ろす。


「よく務めましたね」


深く頭を下げる。


「セシリア・アルデリア。これよりあなたは正式な神官です」


その声は祝福であり、同時に責任の重みでもあった。


「まずはあなたを保護してくれた孤児院へ。神官の姿、見せてあげなさい」


大聖堂に引き取られるまで過ごした場所に行ける。

院長にご挨拶できる。

喜びに胸が高鳴る。


「そして」


わずかに声が低くなる。


「次になすべきは、南の王国サナウス。彼の地に慈悲と慈愛を届けなさい」


「はい」


意気込みで声がつい高くなる。

胸が高鳴る。

――役に立てる。



「魔力が満ち、祈りが深まれば――」


視線が、一瞬だけ祭壇の奥へと向いた。


「さらなる祈りの場が、お前に与えられるであろう」


さらなる祈りの場が何を意味するのかは、まだわからない。


だが選ばれた者だけが足を踏み入れる場所があると、訓練時代に聞いたことがある。


大聖堂の――奥。


教えの先へと続く、もう一つの聖域。


気概に身体が震えた。


「励みなさい、セシリア。(はなむけ)にこの宝杖(ほうじょうを与えます」


「はい」


杖の先端の宝玉が淡く光る。

それを取り巻く冷たい金属の感触。

ずっしりとした重みが……、与えられた使命の大きさを表しているようだった。

ゆるゆると書き始めました。


お目にとめていただきありがとうございます。


良かった、悪かった、何らかの反応をいただければ幸いです。


AIではないので遅筆です。

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