1:中年の危機ですか?
「メーディア。俺、旅に出るわ」
「かしこまりました。私もお供します」
「いや……。はい、お好きにどうぞ」
宮廷の自室にて、俺がふと口にした事だというのに弟子のメーディアは有無を言わせぬ眼差しで俺を見た。
魔王がこの世から居なくなって十年。
弟子も立派な宮廷魔導士に育ち、俺は生きる目的を失ってしまった。
「魔王ちゃん、復活してくんねぇかなぁ」
最近、ふと見上げた空に浮かぶ雲が魔王の最終形態に似ていたこともあり、よくそんなことをつぶやく。
「師匠……。中年の危機ですか?」
「いや……。俺まだ、三十代だからね?」
からかうようにほくそ笑んでメーディアは言ってきたが、俺はまだ中年ではない。
しかし、魔王を倒したことにより解決した食糧問題。
人々の平均寿命は百歳にもなるという、あと七十年近く何しろっていうんだ……。
ほんと、魔王ちゃん復活してくんねぇかな。
そう思い、俺は旅に出ることにしたのだが……。
弟子の中でも飛び抜けて優秀な彼女に追って来られると、魔王復活の邪魔をされそうで困るのだが。
その日の深夜――。
「お勤めご苦労様です!」
風呂敷の包みをかつぎ、宮廷内の警備兵にあいさつをすると、「ハッ!」と彼は敬礼をしてきた。
メーディアには明日出発すると伝えたが、口うるさい彼女が居てはせっかくの一人旅も気が休まらない。
探知魔法で彼女の位置を確認したが、寝室で夢の中だろう。
俺は迷路のような宮廷内を進んだ。
そして、二十人目の警備兵にあいさつした時だった。
「アーク様……。おでかけでしたら、自分が城門までご案内いたしましょうか?」
「ちなみにだが……。俺がここを通るのは何回目だろうか?」
「五回目でございます!」
「よし! 案内、頼む」
宮廷に移り住んで五年だというのに、誰かの案内なしでは宮廷から出られたことがなかった。
平和なのだから、魔王城のように『王の間』まで広い一本道であればいいのにと何十回も思ったほどだ。
城門まぎわで警備兵と別れ、城門を出ると、
「師匠……。遅かったですね、また迷子になってたのですか?」
身を潜めるように待ち伏せしていたのはメーディアだった。
「気付いていたなら、迎えに来るのが弟子の務めだと思うのだが」
「いえ、その……。マップで師匠が何度も同じところを行ったり来たりしているのを見ていたら、止まらなくなってしまったので……」
笑いをこらえるようにメーディアは言った。
相変わらず、良い性格をしている。
「それよりも師匠。旅でその風呂敷は少し不格好かと、『亜空間』に入れないのですか?」
「えっ? ほら、亜空間に入れるのはいいけど、物を取り出すときに間違って落ちてしまいそうじゃん?」
「全く……。魔王を倒した大魔導士が何をビビってるのですか。わかりました、私のに入れましょう」
「いや……。はい、お願いします」
そうして、なかば強制的に身ぐるみを人質にされ……俺とメーディアの旅は始まった。




