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厄災の魔王  作者: 大河内雅火
第I部 狼煙 第1章 旅立ち編 アリス
10/19

海上都市タカハ

 「いや〜、ラーメンのいい匂いがプンプンするね〜」


 ノアが背伸びをした。

 

 ノアの言う通り香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。

 食欲がそそられる。


 私とノアはレンタカー屋に車を返して、海上都市タカハに到着していた。

 

 トウ都のような高層ビルやハナミヤのような伝統的な街並みじゃないものの、賑わってる声があちこちから聞こえる。


「僕は旅に必要な物買うけど、アリスはどうする?」

「私は散策する。楽しそうだ」

「いいじゃん。じゃあ、これ」


 ノアはそう言うと、巾着袋を渡してきた。

 結構重い。


「僕からのお小遣い。2000円ほど入ってるよ」

「おぉ、マジか!?」


 お金をもらうなんて初めてだ。

 しかも、2000円も。

 

 私は嬉しくなった。


「満足いくまで散策できたら、宿屋『汐崎』にきて」

「あぁ、わかった!」

「楽しんでおいで」


 ここからは一旦、ノアとは別行動だ。


 ノアに「また後で」と返すと、早速散策を始めた。



 タカハは街の中央に運河が流れていて、ゴンドラに乗って人々は移動している。

 運河の先は大きな港になっているとか。

 是非、見に行きたい。


「それよりも、まずはラーメンだ」


 ずっとラーメンのいい匂いがするが、どこにラーメンの店があるか分からない。

 

 私は通りすがりの老婆に尋ねることにした。


「おい、そこのババア。ラーメンが食える店ってどこにあるんだ?」


 尋ねると老婆は、おやまぁと反応した。


「お嬢ちゃん、この街に来るのは初めてかい?」

「初めてだから聞いてんだろ。こっちは食いたくてうずうずしてるんだ」


 こいつに訊いたのは間違いだったかもしれない。

 会って数秒で結構イライラしてる。


「それは大変な時期に……。ラーメンは運河の西側にある屋台街で食べることができるよ」


 それを訊いてアリスは運河に向かって走り出していた。

 あのババア、教えるのが遅すぎる。


「にしても、大変な時期ってなんだ」


 船賃を払ってゴンドラに乗った。

 

 なんかまずい事態が起きてるのだろうか。


「まぁいいか」


 とにかくラーメンだ。

 ラーメンを食わないとラーメンが可哀想だ。




「おぉ、久しぶりだな!ノア!」


 大柄な男ーー岸辺が挨拶をしてきた。

 全然変わってない姿に安心する。


 岸辺はタカハ一番の雑貨店の店長だ。

 前の旅のときに知り合って仲良くなった。


「ほんと久しぶり。元気にやってた?」

「まぁボチボチっていったところか。今日は何の用だ?」

「旅の用意をしたくてね。結構長い旅になりそうだから」


 僕の発言を訊いて、岸辺は眉間にしわを寄せた。


「また旅か?お前マジで一人旅好きだな」


 遠回しにボッチって言ってきてんな、このゴリラ。

 後で酒場でゲロ吐かせてやる。


「残念だけど、今回は一人じゃないよ。素晴らしいパートナーとの二人旅さ」

「お前と一緒に旅するなんて…随分な物好きだな」

「今回の旅の目的地はその子の故郷なんだ。その子は故郷を知らないから」


 そう、アリスは故郷を知らない。

 だから故郷を見せてあげたい。


「なるほどな。でも、気をつけろよ」


 岸辺は声を低くすると、僕の耳にコソコソ言った。


「依然、このジパングから外の世界に一般人が出ていくのは犯罪なんだ。バレたら死刑は免れないぞ」


 外の世界の魔人をジパングに連れて帰ってしまう危険性がるからというのが、表向きの理由。

 ()()()()をほとんどの人々は知らない。


「大丈夫。そうなったら、そいつら全員気絶させるまでだから」

「頼もしいかぎりだな。わかった。俺が見繕ってやるよ」

「ありがとう、岸辺」


 岸辺は必要な物を揃えようとしてくれたが、何か言いたかったのか戻ってきた。


「そんな強者さんなら、“ターザン”を倒せるかもしれないな」

「“ターザン”?なにそれ」


 僕が訊ねると、岸辺は告げた。


「最近この街で暴れてる……殺人鬼だ」




「おぉおお!」


 目の前にはこってこてのスープに光沢がある麺、それを彩るチャーシューなどの具材たち。


 待ちに待ったラーメンだ。


「いただきます!」


 勢いよくラーメンの麺をすする。

 醤油のスープが麺に絡みついてありえないほど美味い。美味すぎる!


「これが……ラーメン!」

「嬢ちゃんはラーメンは初めてか?」


 屋台の店主が訊ねてくる。

 こんな美味いもの人生で食ったことがない。


「あぁ、初めてだよ!ってか、おっちゃんマジすげーな。こんな絶品を作るなんて」

「すごいだろう、すごいだろう!俺は天才なのだ」

「おっちゃん人外だろ!それか血液が麺とスープでできてるだろ!」

「すげぇ。褒めてると見せかけた巧妙な悪口!俺が天才だから気づけたトラップだ……」


 来る店間違えたかもしれない。

 この店主嫌いじゃないが、うざい。

 ラーメンは禿げるほど美味しいのに。


 老婆が教えてくれた通り、屋台街にはたくさんの屋台があった。

 ラーメン、焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、牛串などさまざまな料理を食べれる。

 まさに屋台街。


「おっちゃん、おかわりだ。今度は豚骨で」


 はいよーと店主が返事をして、奥の方へ消えていった。


「えっと、一杯300円だったよな…」


 おかわりしても半分以上残る。

 残った分はラーメン以外の物に使おう。


「お前聞いたか?」

「“ターザン”だろ?知ってるよ。今度は張本さんの娘さんが殺された」

「これ以上被害者を増やさないためにも、早く捕まえないと」


 ラーメンを待ってると、隣の客たちがコソコソ物騒な話をしていた。

 “ターザン”なんて聞いたことがない。


「なぁ、“ターザン”ってなんだ?」


 知らない美少女に話しかけられて、驚いたのだろう。ビクッと男二人が震えた。


「嬢ちゃん、知らないのか?」

「知らないから訊いたんだ。何なんだ、“ターザン”って」

「つい最近出没した正体不明の殺人鬼だ」


 そう答えたのは店主だった。

 店主は豚骨ラーメンをアリスの前に置くと、奥から椅子を出してきて座った。


「昨日でもう4件目だ。被害者は全員金髪の若い女性だから、嬢ちゃんも気をつけな」


 まさかの自分が殺害対象。

 思わずむせてしまった。


 ふざけんな、ゆっくりグルメできなくなるだろ。


「殺しにきたら、逆にぶっ殺してやる」

「やめときな。嬢ちゃんはうちの大事な客だから死んでほしくねぇ」


 店主が忠告してくる。

 確かに貴重な収入源を手放すのは惜しいか。


「何で“ターザン”って名前なんだ?」

「なんでも被害者全員の体から植物が生えてたらしい。それを誰かがジャングルの王“ターザン”とかけてそう呼んだのが始まりだとか」


 体から植物?

 嫌な予感しかしない。


 私は一気にラーメンを食べ終えると、勘定を済ませた。

 振り返って店主に言う。


「ごちそうさま。また、来るよ」




 それからは色々食べたり散策しているうちに夜になった。


 ノアに言われた通り、宿屋『汐崎』にきた。

 中に入ると、ノアが待っていた。気のせいか酒臭い。

 ひょっとして……


「ノア、酒飲んだのか?」


 はっきり聞こえるように訊ねた。


 ノアは真っ赤な顔でヒックとしゃっくりをした。


「のんらよ〜。ひひゃひぶりにぐびぐひのみらふった」


 おそらく、「飲んだよ〜。久しぶりにぐびぐび飲みまくった」と言ったのだろう。

 

 間違いない。ノアは今盛大に酔っ払ってる!


「ノア、宿のシャワー浴びてゆっくり湯船に浸かってこい。酔いを覚ましたら、話したいことがある」


 ひょーひゃいと返事をして、私に鍵を預けた後、フラフラとした足取りで浴場へ向かった。



 

「タカハ観光は楽しめた?」


 30分後、風呂から戻ってきたノアはニコッとした顔になってた。

 

 酔いは少しは覚ましたようだ。

 でも、まだ若干酒臭い。


「料理が美味しいものばかりで楽しかった。あと、展望テラスから見た夜景が綺麗だった」

「よかった。充分楽しめたみたいだね。僕も買いたい物は大体買えたよ」


 お互い一日を満喫できたようだ。


 本題に入るか。


「ノアは“ターザン”って知ってる?」


 私がその名前を出すと、ノアの表情が真剣になった。


「やっぱりアリスも街の人から聞いたんだ。知ってるよ。連続殺人鬼でしょ」


 知ってるなら話が早い。

 私はノアの正面に向き直した。


「その通り。私も色々街の人から聞いたんだが、なんでも被害者は全員金髪の若い女性だとか」

「そして、体から植物が生えて死んでいる」

「私は“ラマージ”の能力によるものだと思ってるけど、ノアもそう思う?」

「同感だね。こんなことができるのは“ラマージ”の能力だけだ。加えて、この残虐性からおそらく…」

「魔人の仕業……だよな?」


 ノアがこくんと頷く。

 私は布団を殴った。


「また魔人かよ!クソっ」


 いつだって人間の命を奪ってくる。

 それも平然と。呼吸をするかのように。


「実はその件でアリスはに話したいことがあるんだ」


 ノアはそう前置きをした。


「僕たちがレディングの村に行くためには、タカハから港町サンプまでクルーザーで海を渡らないといけないのはアリスも知ってると思う」


 ノアはお茶を一口飲んだ。 「それで今日、そのクルーザーを借りるために町長に会いにいったんだけど、どうやらクルーザーが使えないみたいなんだ」

「は?」

「なんでもクルーザーの機械部分に植物が根を張ってて、エンジンが上手く作動しないらしい。僕の力で植物を消すのは簡単だけど、それだとクルーザーを傷つけちゃうかもしれないから」

「他の船とかは借りれないのか?漁船とか」

「無理だろうね。漁船とかは政府の監視があるから船を借りて外の世界に行ったことがバレると、漁業の仕事に携わってる人が全員殺される。内密に外の世界へ行くために、町長個人が所有するクルーザーが必要なんだよ」


 つまり、故郷へ行くには、姉さんと会うには、“ターザン”を殺さないといけないってことだ。


「“ラマージ”の能力は本人が死ぬと効果が消えるのが大半だからね。“ターザン”を殺さないとクルーザーは動かせない。それに、町長からもお願いされたよ。“ターザン”をどうにかしてくれって」


 “ターザン”はもう4人も殺している。

 噂になるくらいだから、かなり恐がられてるはずだ。


「というわけで、明日は悪いけど僕らで“ターザン”を殺す予定だ。アリスには申し訳ないけど」


 もし“ターザン”が魔人なら容赦なく殺す。

 人間だったら……いや、人間であっても殺す。


「早く寝ようか。明日は忙しくなる」


 ノアが消灯した。そして、すぐにすやすやと寝音が聞こえてきた。

 

 私は寝れなかった。



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